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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

市町村障害福祉計画の現状と課題

田中英樹

はじめに

障害者自立支援法第88条89条により、県及び市町村は平成18年度中に「障害福祉計画」の策定が義務づけられた。この策定にあたっては、平成18年6月26日付厚生労働省告示第395号により、「障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(以下、「基本指針」)が示された。市町村は、「基本指針」に即し、かつ都道府県の計画とも整合性を図りながら、地域の実情に応じて障害福祉サービス、相談支援及び地域生活支援事業の提供体制の確保に関する計画(以下「市町村障害福祉計画」)を定めるものとされた。第1期の計画期間は、平成18年度から平成20年度までの3年間であり、今年がその最終年である。来年度からは第2期(平成21年度から平成23年度までの3年間)の計画に向けて、いま市町村では計画策定作業が始まっているか、準備中であろう。

ここでは、第1期計画策定過程での課題点や現状の到達点を踏まえ、第2期の市町村障害福祉計画策定に向けて、その主要な課題を明らかにしたい。

1 計画策定の進め方

本来、計画づくりは1.広報、2.策定委員会の設置、3.策定委員の公募と選任、4.ニーズ調査、5.計画の策定と公表、6.計画の実施、7.評価、8.計画の再策定といったプロセスを踏むことが基本であるが、障害福祉計画の策定委員会を設置した市町村は、全体で7割を超えた程度である。これは、「基本指針」において、策定委員会の設置が例示であること、すでに数値目標を盛り込んだ市町村障害者計画が策定されている場合には、第1期の障害福祉計画と整合性が図られている限りにおいて、当該障害者計画の全部または一部を障害福祉計画として取扱うことも差し支えないこととされたことや、横断的な地域福祉計画の策定に個別分野計画として当初から組み込んだことにより専門部会の設置で代えたところなど、理由はさまざまである。

さて、「基本指針」では、障害福祉計画の「作成に当たって留意すべき基本的事項」を「配慮」という表現ながら3点指摘している。

第1に、障害当事者等の参加である。「基本指針」では、あらゆるレベルでの参加ではなく、「サービスを利用する障害者等のニーズを適切に把握する」ことと、「障害者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずる」としか触れていないが、具体的にはニーズ調査や計画策定の体制整備で述べている。ニーズ調査の段階で、ヒアリングやアンケート調査の「対象」とされた障害者やその家族はたしかに多かったと思われる。しかし、策定委員会への参加では、ほぼ参加できたのが身体障害者(1名から数名)であり、知的障害者や精神障害者が参加できた市町村は極端に少ない。東京都下でみると、知的障害者の参加は3市町村3名、精神障害者は5市町村5名であった。

第2に、地域社会の理解の促進である。入院や入所から地域生活への移行に対応した在宅サービスの整備では、地域社会の理解は最も重要な条件であり、「啓発・広報活動を積極的に進める」ことは極めて重要である。市町村によっては、広く地域住民の意見を聴取する「パブリックコメント」を実施し、そこで寄せられた意見も計画の最終案に反映できるようにしたり、広報誌だけでなく、ホームページによる意見募集もしたり、音声や点字による情報提供などをしたところもある。しかし、小地域で実施する利用者や関係者の懇談会や座談会、セミナーや公聴会、公開のフォーラムやシンポジウム、比較的長い時間をかけてじっくり議論するワークショップなどはあまり実施されていないようである。中には計画に盛られた自立支援施設が住民の反対運動で開設できなかった地域もある。

第3に、総合的な取り組みの重視である。特に、精神科病院での長期在院から地域生活への移行や就労支援の推進は、個々の関係機関や施設の個別的な努力ではその実現が困難である。当然、あらゆる関係機関が「数値目標の共有化、地域ネットワークの強化」を進めることが必要になるが、第1期計画策定でそこまで丁寧にできた市町村はあまり聞こえてこない。また、計画全体では、策定時期のズレから障害者基本法第9条に基づく「市町村障害者計画」との一体的策定や地域福祉計画との整合性を図れなかった市町村もある。

2 計画の目標

「基本指針」では、平成23年度までの新サービス体系への完全移行を念頭におき、障害福祉サービス見込み量の数値目標の設定を市町村に求めた。その際、国は障害福祉サービスの提供体制の確保に関する基本的な考え方で、次の4点の「配慮」を示した。

1.全国どこでも必要な訪問系サービスを保障、2.希望する障害者等に日中活動サービスを保障、3.グループホーム等の充実を図り、施設入所・入院から地域生活への移行を推進、4.福祉施設から一般就労への移行等を推進

まず、訪問サービス(居宅介護、重度訪問介護、行動援護及び重度障害者等包括支援等)は、平成17年度9万人を平成23年度末16万人と1.8倍の基準を示した。しかし、図1に示したように、都道府県が集計した市町村のサービス量はやや低い。日中活動サービス(生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、療養介護、児童デイサービス、短期入所及び地域活動支援センターで提供されるサービス)はどうであろうか。国は対17年度比で1.6倍を期待したが、1.4倍にとどまった。居住サービスはグループホームやケアホームを9万人分期待したが、8万人と下がった。受入条件が整えば退院可能な精神障害者の地域移行は約5万人を期待したが、3.7万人と少ない。逆に一般就労への移行者数は、国が期待した0.8万人より僅(わず)かであるが、0.9万人と上回った。これは、現行の授産施設を退所して就職した障害者の割合が全国平均1.3%(平成15年度)にすぎないように、「平成23年度中に、福祉施設から一般就労に移行する者を現在の4倍以上とする」とした数値目標の現状基準値が低いことの方を問題視すべきであろう。また、就労支援施設関係では経済的自立に向けた工賃倍増計画も成功していないところが多い。この点は、施設任せの限界であり、行政や企業の相当な後押し施策が不可欠である。

図1 各都道府県における障害福祉計画の全国集計結果について(抜粋)
図1 各都道府県における障害福祉計画の全国集計結果について(抜粋)拡大図・テキスト
出典:第1回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会・平成20年4月11日・資料抜粋

さて、現状の達成度はまだ全国集計できていない。施設入所者の推移では、地域生活へ移行した者が平成19年10月で9,344人と報告されているが、全体の入所者は389人減少しただけで大きな変化はない。そこで、個々の達成度の評価はできないが、精神障害者に対する新体系利用者数の状況は厚生労働省資料によると、平成19年末で図2の通りである。

図2 障害者自立支援法による精神障害者に対するサービス体系の再編と利用者数の状況
図2 障害者自立支援法による精神障害者に対するサービス体系の再編と利用者数の状況拡大図・テキスト

これを見ると、グループホームの伸びはやや低いが、訪問サービスはかなり増加している。これは精神障害者が利用するホームヘルプサービスがとりわけ立ち後れていたことにもよる。また、国は就労移行支援事業に2割以上の利用を、就労継続支援事業のうち3割は雇用型を期待したが、いまだやや距離がある。この点は、経過措置があることから、計画を下回っていることも理解できるが、都市部と地方・過疎地域では条件や温度差に違いが出てきたと考えられる。また、精神障害者を利用対象とした雇用施策の大幅な強化の課題とも連動している。

3 第2期計画に向けた取り組み課題

すでに準備作業が始まっていると思われる第2期市町村障害福祉計画における取り組み課題は何か。当然、第1期の見直しからスタートするのが基本であるが、その評価を達成度のみならず計画全体の実施プロセスを分析することから始めたい。市町村によっては、「地域の実情」を手前みそ的に解釈し目標数値を初めから低く設定したところや、達成率の悪さを「基本指針」で求められた「過度な目標数値」に求める意見もあるが、生産的ではない。また、障害者のニーズ把握や意見の反映が不十分なまま策定したところは基本から始める必要があろう。仮に第1期の達成率が悪かったとしても、その原因は、策定された障害福祉計画の内容にあるとは思えない。むしろその具体化のために、進捗状況をモニタリングするシステムが不十分だったと思われる。計画の策定段階から進行管理を含む評価体制を確保することが基本であろう。

この点で、地域自立支援協議会の役割はきわめて重要である。厚生労働省によれば、地域自立支援協議会の設置状況は平成20年度末でようやく60%を超えた程度であり、設置されたところでも年度末の駆け込みが多く、その運営も形骸化されているところが多いと報告されている。「基本指針」では、地域自立支援協議会が地域における相談支援体制や地域ネットワークの構築に中核的な役割を果たすことも期待している。困難事例への対応のあり方を協議することや、地域の社会資源の活用や開拓を行うためにも、現場の第一線職員や障害当事者の参加も求めて、生活支援や就労支援、地域移行支援など課題別の専門部会を設けるなどの工夫も必要である。また、障害者自立支援法を改正し、法的根拠を明確に規定して権限も強化すべきと考える。

個々の計画内容では、入所・入院から地域生活への移行支援と一般就労への移行支援が最大の課題であろう。計画目標では、地域での基盤整備として、共同生活援助(グループホーム)と共同生活介護(ケアホーム)を重視しているが、果たして第2の入所施設化につながらないか危惧もある。むしろ居住サポート事業や成年後見制度利用支援事業や地域理解の促進を強化すべきと考える。しかし、市町村相談支援事業の全体は未実施が多く、財政的な保証を含めた重点強化が求められる。就労支援では、社会福祉施設から一般企業への就職促進が最大課題である。都市と農村との地域格差の課題、障害者就労・生活支援センターの強化、ジョブコーチの活用、法定雇用率の引き上げと精神障害者の法的参入、就労協同組合など社会支援雇用の創出等々、課題は大きい。併せて働けない障害者への所得保障も課題であるが、この点は国の施策改善に期待したい。障害福祉サービス等の確保のための具体的方策では、指定事業所の確保やその運営支援、サービス利用者やサービス事業者との合意形成による計画づくり、そして計画の公表や普及など、地域に根ざした計画策定に期待をかけたい。

(たなかひでき 早稲田大学人間科学学術院)