音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

計画の評価と期待

大阪府泉南市の計画策定に参加して

山本耕平

はじめに

私が障害者福祉計画策定に参加している自治体に大阪府泉南市があります。2008年4月末で総世帯数24,683世帯、人口65,922人(男性32,077人、女性33,845人)の小規模な自治体です。2008年3月31日現在で表1に示す方々が障害者手帳を所持しています。

表1 障害者手帳所持者(平成20年3月31日)

身体障害 2779
知的障害 444
精神障害 242

泉南市の第1次障害者福祉計画策定時には、時間的な問題があり十分に地域住民の声を反映することができませんでした。このため、今回の計画策定では、当事者や支援者の声が反映できることを重視しています。

その方法のひとつとして、泉南市自立支援協議会の定例会議(実務担当者レベル)で、泉南市で生活する障害児者の生活課題を議論しています。この議論をより充実させるために、自立支援協議会の事務局を構成する市高齢障害介護課と市から委託を受けている3か所の相談支援機関は、度重なる連携会議と月一度の事務局会議を開催しています。

1 地域生活支援の現状と要求

表2は、泉南市が委託する相談支援機関の支援状況を示しています。身体障害を対象とする相談支援機関のせんなんピアセンターは、一人の相談支援員が月平均52件の事例の相談に対処しています。

表2 泉南市相談支援機関相談件数(平成19年4月~平成20年3月)

  せんなんピアセンター せんなん生活支援相談室 泉南フレンド
電話相談 320 552 259
訪問 98 277 129
外来 194 72 421
その他 13 94
合計 625 995 809

相談を形態別にみると電話相談が51%、訪問が16%、相談に来所される方は31%となっています。訪問が少なくなっている最も大きい要因は相談支援員が一人であることでしょう。ここでは、交通事故等で長期入院していた方の地域生活移行への支援や人生の中途で障害をもった人の障害受容の支援、さらに脳損傷のある方の支援といった時間をかけ丁寧に関わることが必要な相談事例が増えています。

また、知的障害者を対象とする支援相談機関であるせんなん生活支援相談室も、一人の支援員で支援に取り組んでいます。昨年度の支援数は、月平均約83件であり、電話相談55%、訪問28%、相談来所7%となっています。軽度知的障害者の浪費や放浪、触法行為、広汎性発達障害者のひきこもりや就労への支援といった地域のあらゆる機関や施設等の福祉職員やインフォーマルな支援を最大限活用した支援を展開することが必要な相談が増えています。さらに、管内に地域移行を進める府立の障害者更生センターがあり、ここに入所していた方の地域移行支援も大きな課題となっています。

精神障害者を対象とする地域活動支援センター泉南フレンドは、地域活動支援センター1型であり、相談支援担当2人が他事業と兼務により、相談支援を実施しています。ここでは、ひきこもりの相談や高次機能障害者の相談が増えてきています。

これらの事業所とともに日々在宅支援や就労・生活の支援に携わっている方が、当事者の生活要求をどう把握し、当事者の思いを計画立案に反映させることが期待されています。当事者の要求を把握するためには、当事者の要求把握のための調査を確実に行わなければなりません。ただ、調査で量的に把握できる要求とともに、当事者がどのような要求を持ち、その要求がどのような支援政策で可能となるのかを当事者の語りに学ぶことも必要です。

2 計画の中で明確にすべき地域の姿

計画では、それぞれの地域の姿が明確にされなければなりません。これは、第1次計画においても追求したことですが、泉南市には泉南市独自の地域生活の姿(それは、産業を中心とする地域の歴史、自治体独自の福祉政策、インフォーマルサポート等々に影響されるものと考えます)があります。この地域の姿を計画の中にどう反映させるかが、独自性を持った計画を創りあげます。第2次計画でも、この地域の姿や地域が持っている力を計画に反映することを重視しています。

この地域の姿を明確にするため、避けて通ることができない課題に地域生活の貧困化、ならびに地域産業の崩壊や失業の問題、さらには高齢化の問題があります。このため、泉南市が周辺自治体と比較し貧困や失業が深刻であるかどうかを早急に調査しなければなりません。それは、障害者の就労支援を進める上で、基本的に考慮しなければならない要件となるでしょう。

さらに、地域の福祉を左右する当事者や家族が主体となった運動とそれを支える人や機関の連携は、計画立案や計画を実行する上で重要な要素となります。計画が、そのような地域の福祉を築き上げる主体の力をどう育てるのかにまで言及できるものであることが必要ではないでしょうか。

おわりに

計画は、計画倒れや机上の空論であってもなりません。計画を当事者や家族と共に創りあげ、その遂行に関し厳しい意見を提言する当事者の運動が必要です。もちろん、それは、当事者個人の苦情や苦言ではなく、共通の課題に共に取り組む地域を変える仲間たち(当事者集団)の育ちが求められます。

この当事者集団の育ちが相談支援に携わる従事者や行政に的確な要求を伝える力を獲得し、自治体の福祉力が高まることが計画の実効性を高めることに繋がるでしょう。

(やまもとこうへい 立命館大学)