音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

フォーラム2008

DAISYコンソーシアム
―世界電気通信情報社会賞を受賞―

河村宏

ITU世界電気通信情報社会賞

情報通信に関する国連専門機関である国際電気通信連合(ITU)の設立の日(1865年5月17日)にちなんで、デジタル・ディバイド解消に顕著な功績のある団体一つと個人2人に、世界電気通信情報社会賞(World Telecommunication and Information Society Award)が授与されます。2008年5月15日にこの賞がDAISYコンソーシアムに授与され、筆者はDAISYコンソーシアム会長としてエジプトのカイロで開催された授与式に出席しました。

受賞の理由には、2008年のこの賞のテーマである障害者のデジタルディバイド解消にDAISYコンソーシアムが顕著な功績があったということに加えて、発展途上国で深刻な問題である少数言語派や書記文字を持たない先住民族の言語文化の情報アクセスをDAISYが支援できること、さらには、非識字者も含めたインクルーシブな情報共有に道を開いたことが挙げられています。

また、世界情報社会サミット(2003年ジュネーブ、2005年チュニス)において、DAISYコンソーシアムが障害者のICTバリア解消に顕著な功績を挙げ、その後も一貫してデジタル・オポチュニティーの開発と普及を積極的に推進していることも触れられています。

ITUという通信と放送において、もっとも広く国際的な調整を行っている国連機関から2008年のベストプラクティス(好事例)に選ばれたということは、国際標準としてのDAISY規格の開発と普及に責任を持つDAISYコンソーシアムとしては、この上なく名誉なことであり、今後の活動への強力な支援です。

DAISYがここまで来るには、1995年以来の日本をはじめ世界中のDAISY関係者の汗と歓喜両方の涙がありました。DAISYについての詳細は、www.daisy.org(英語)または、www.dinf.ne.jp(日本語)をご覧いただくことにして、私のつたない受賞スピーチ(http://jp.youtube.com/watch?v=zERQTS4N0pk&feature=user)の内容をご紹介して、特に途上国での活動を中心にDAISYコンソーシアムの近況をご紹介します。

受賞スピーチ

DAISYコンソーシアムにとって、ITUが「障害者をつなぐ」ことをテーマに選んだ本年の世界電気通信情報社会の日に、この名誉ある賞を受けたことはたいへんな栄誉です。世界情報社会サミットの準備段階以来、私たちはまさに「障害者をつなぐ」ことを目標としてまいりました。

おそらくみなさんはDAISY(デイジー)とは何だろうかと考えておられると思います。ここでお話するDAISYは、花の名前ではありません。印刷物を読むことに障害のある人々を含むすべての人に、対等に情報を得る可能性を開く Digital Accessible Information Systemの略称です。

DAISYはハードウェアでもソフトウェアでもありません。DAISYはだれもが出版物を利用しやすくするための知識の集積で、それは規格と呼ばれるものです。

DAISYコンソーシアムは、印刷物を読むことに障害のある人々が余分な費用や時間をかけることなく、他の人々と同時に情報を得ることができる規格を初めて開発し、さらなる開発と普及に責任を負っています。

私たちはヨハネスブルグでDAISY製作のワークショップを終えたばかりです。南アフリカ国内の障害にかかわる団体から参加した27人のうち、6人が視覚障害者用スクリーンリーダーを使い、2人が四肢マヒのため介助者を必要とし、1人が手話通訳による支援を利用し、他に、自閉症、精神障害、ディスレクシアのそれぞれの団体と重複を含むさまざまな障害のある子どものための学校からの参加を得ました。

なぜこのように多様な障害にかかわる参加者を1週間もの長さの研修に得られたのでしょうか?1週間集中的にアクセシブルなマルチメディアを製作する講習に参加することは大変な投資です。この事実はDAISYの夢を実現するために何が必要かを明らかにしています。参加した人々は南アフリカの障害者団体が発行したエイズの研修マニュアルのマルチメディア化が完成した時、とてもうれしそうでした。この講習は日本財団とスウェーデンのSIDAの支援を受け、DAISYコンソーシアムによって実行されました。

世界情報社会サミットの行動計画は、障害者の権利条約と相乗効果を持っています。ITUのトウーレ事務総長が述べたように、特に障害者の権利条約の第二条の中には、「合理的な配慮」や支援技術によって補完されるユニバーサルデザインの定義が示されています。

ユニバーサルデザインの概念はジュネーブとチュニスでの世界情報社会サミットにおいて初めて国連のサミットにおける概念として採用されました。一方、支援技術は多くの分野で発達してきましたが、これらふたつの概念が補強しあってこそ、障害をもつすべての人が、特に教育、訓練、雇用において情報を同時に得て社会参加するという夢が実現されます。

DAISYは印刷された出版物を読むことができない人々の特別な要求に応えるために開発されました。私たちはディアマンテさんが限られた能力で機械を見事に操るのを見ました。DAISYは彼に完全に操作できる電子図書を提供できます。それは私たちの目標です。私たちは世界中のさまざまな障害をもつすべての人々、また少数言語を使って暮らす人々、豊かな文化を持ちながらも書き文字を持たない先住民族の人々、そして非識字者も共有できるDAISY図書のネットワークを作ろうとしています。私は、すべての人がいつでも世界のどこにいてもDAISYを利用でき、障害の有る無しにかかわらず問題なく情報を得られるようにするという夢が実現されることを願っています。

最後に、政府と産業および市民社会のすべてのセクターが協力して行動することについて述べます。

政府の文書はアクセシブルなフォーマットで出版されなければなりません。これは政府がそう決めればできることです。DAISYコンソーシアムはいつでも必要な規格とともに、オープンソースで費用のかからない基本となるソフトを提供できます。

産業界も私たちの味方になり得ます。マイクロソフト社はDAISYコンソーシアムと協力してマイクロソフトワード文書をワンクリックによってDAISYに変換する add-on ツールを発表したばかりです。これはオープンソースのソフトであり、Save as DAISY Translatorと呼ばれます。このソフトで皆さんがワードで作った文書がDAISY図書になります。これによって、印刷物を読むことに障害のある人を含むすべての人が利用できる情報を提供することができるのです。

もちろん市民社会もDAISYを広めるためにできることが多くあります。DAISYコンソーシアムは今後、政府、企業、市民社会と幅広く協力していきます。

私たちは数歩踏み出したばかりです。私はこの名誉ある賞をこれからの努力のための励ましとして理解し、さらなる夢の実現を目指したいと思います。

ありがとうございました。

(かわむらひろし DAISYコンソーシアム会長)