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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

企業が取り組む全国初のNPO就労支援

二階堂修一

「きちんとした支援があれば働ける」

障害者自立支援法における「就労支援」に関する抜本的強化や、障害者雇用促進法の改正など、障害のある方の就労支援が抜本的に強化されました。

全国では、平成19年度1年間の障害のある方の就職者数は過去最高の45,565件となり、障害があっても地域で普通に暮らせる仕組みづくりや、可能な限り一般就労を促進させようという動きが全国各地で活発に広がりを見せており、「きちんとした支援があれば働ける」実態が各地で明らかになっています。

「NPOステップアップ」の誕生

特定非営利活動法人 栗原市障害者就労支援センター「NPOステップアップ」は、宮城県の北部に位置し、栗駒山を源に豊かな田園地帯が広がる栗原市にあります(この原稿執筆中、6月14日に岩手・宮城内陸地震がありニュース等でご存知になられた方が多いと思います)。

NPO設立の経緯としては、宮城県や栗原市等の行政担当者やハローワーク、障害者の支援機関の職員ばかりではなく、障害者雇用に積極的な企業経営者等も出席し、平成16年1月に「栗原市精神障害者就労支援ネットワーク会議」が設立されました。会議では、社会資源が少ない栗原市において、特に立ち後れていた精神障害者の就労促進、就労における課題や自立支援について検討し、ネットワークづくりを行って議論を重ねてきました。目標の一つとして、栗原市内に障害をもつ方々の就労支援を専門的に行う機能が必要という意見が集約されました。

そこで、一般就労を希望する障害をもつ方々の「働く生活の実現」に向けて専門に支援する機能として、栗原市をはじめとする各関係機関と連携しながら、栗原市内の企業経営者15人が役員として「市民と企業が支える就労支援センター」をキャッチフレーズに、NPO法人を設立しました。

全国的に見ても、「就労移行支援事業」については、就職に上手く結びつけられず困っている実態を考慮し、企業主体で運営できれば、効果的な職場での訓練と就職に結びつけられると確信しております。

NPO法人の役員が経営している企業は、自動車部品製造業や農業法人、納豆製造会社、清掃業、パン・菓子製造販売業、飲食店など異業種で多岐にわたります。これまで雇用の受け皿であった企業が支援側にも回り、さらに栗原市内で積極的に障害者の雇用も図るスタイルとなります。厚生労働省によると、民間企業が集まった障害者の就労支援のNPO法人は全国で初めての試みということです。

「NPOステップアップ」の取り組み

4月1日から、JRくりこま高原駅に近い栗原市志波姫総合支所2階に事業所を設置し、スタッフ研修などの準備期間を経て、5月12日から、障害者自立支援法に基づく「就労移行支援事業」のサービス提供を始めました。

「就労移行支援事業」とは、作業訓練や職場実習などのさまざまな訓練を組み合わせてサービスを提供し、社会生活上必要な能力と作業能力や技能の習得により、一般就労に結びつけることを目的としています。利用対象者は、知的・身体・精神障害者の方で、栗原市にお住まいの方だけでなく、近隣の市町である大崎市や登米市、美里町にお住まいで、一般就労を希望している方を対象としています。

実際に障害者の方を雇用している役員からの要望として、作業ができるということも大切ではあるが、「毎日休まず、遅刻なく出勤できること」「あいさつや場面に合わせた言葉遣いができること」「仕事に対して積極的であること」など、企業にとって「障害があっても求められる人材」に関するご意見を多く聞く機会がありました。

利用者の方は、NPOステップアップに通い、まずは就労に向けた基礎講座として、日常的な生活リズムの確立、職場でのルールやマナーなどを学びます。また、「TPOに合わせた身だしなみや言葉使いができること」「相手の意見を聞き、自分の意見を言えるようになること」などを身に付けていただいており、障害の有る無しに関わらず、社会人としてのルールやマナー、労働者としての自覚を養うことを目的としています。特に精神障害者の方には、自分の症状を理解し、通院や服薬の大切さや、自分の症状的に不調となるサインや不調になった際の対処方法を合わせた健康管理を身に付けていただくことも重要となります。

働くためには、体力も必要です。就労を希望している多くの障害者の方は「体力的に自信がない」と口を揃えて言われます。スタッフの中に元体育教師がおりますので、基礎講座のメニューの中に、身体にあまり負荷のかからないレベルからの基礎体力作りを取り入れています。普段、身体をあまり動かしていなかった利用者の方もいましたが、ストレッチ体操やウォーキング等から始めることにより、徐々に身体もほぐれ、身体を動かし汗をかくことの爽快感を感じられています。ソフトバレーボール等も行い、スポーツを通じてのチームプレイの大切さも身につけられているようです。

さらに、NPO法人役員の企業から、さまざまな作業を受注し作業訓練を行っています。現在、NPO法人理事長である大場俊孝が経営する(株)大場製作所から自動車に取り付けられるハーネスという部品の組み立て作業や、NPO法人理事が経営する農事組合法人「水鳥」において椎茸の栽培管理業務を行っています。

実際に、訓練を通じて作業に取り組むことにより、作業工程などの一連の手順を学びながら、分からないことについてはすぐにスタッフに確認し、でき上がった際には、きちんと報告しながら、正確な作業、納期等を守ることの厳しさを訓練において体験していただいています。

作業は2グループに分かれており、同じ作業を行うグループのために「自分の役割として何ができるのか」「どうやったら効率良く作業が進められるか」を考え、お互いに尊重し、長所を引き出しあい、協力して行うことの大切さを学んでいただいています。

今後は、スタッフと利用者自身による作業訓練の評価を行いながら、個別支援計画に基づいて、利用者一人ひとりの適性に合わせた職場実習先を選定し、職場での実習で自信を持てるよう、職場経験などを積むことを強化します。

作業訓練や職場実習などの生産活動に従事した際は、作業に応じて工賃が支払われる仕組みになっています。工賃については、作業訓練時と職場実習時では差があり、実際に就職に向けてステップアップするほど、工賃もステップアップする仕組みとなっています。

「あせらず」「あわてず」「あきらめず」

現在、栗原市内から6人の方が利用されています。ほとんどの方が栗原市内の小規模作業所に通所されていた精神障害の方です。中には10年ほど小規模作業所に通っていた方もいて、今回NPOステップアップの開設を機に「就労にチャレンジしたい」とさらなるステップアップを目指している方もいます。小規模作業所に通所している方だけではなく、在宅の方でも「就労したい」と相談に来る方が増え、今後も利用者が増える見込みです。

また、栗原市内だけでなく、近隣の大崎市から2人、登米市から1人の方が利用されています。中でも片道50キロ離れた自宅から、1時間30分ほどかけて、毎日自分で自動車を運転して通っている女性の利用者もいらっしゃいます。「働くことを目標にしているのだから、頑張ります!」と毎日遅刻することなく、明るく元気に通ってきて作業訓練に取り組む姿を見ますと、我々スタッフも朝から元気をもらっています。

「働きたい」と願う障害者の方は、とかく目標に向かって、前へ前へと急ぎがちな方が多いのですが、NPOステップアップでは、「あせらず」「あわてず」「あきらめず」をスローガンに、就労にチャレンジする方を、一歩一歩着実にステップアップできるよう支援をしていきます。

(にかいどうしゅういち NPO法人栗原市障害者就労支援センター所長)