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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

重い障がいのある人への最新支援機器

川村慶・藤田大介・黒島康司

1 はじめに

ADL(日常生活動作)に困難を感じられている方の、不安・不自由・不便…これらの『不』を取り除き、安心・自由・便利に変えていくことが対人援助職共通の使命である。自立支援(就業支援)機器にはさまざまなものがあるが、それらは断片的なものであってはならず、連続するストーリー性のあるものでなければならないと考える。車いすなどの移動支援機器で、重い障がいのある人への最新支援機器について何例か紹介したい。

2 車いすとシーティングについて

車いす、電動車いすには普通型をはじめとして、リクライニング式、ティルト式などさまざまなタイプがある。どのようなタイプの製品でも、折り畳みのしやすさや重量などを考慮し、車いすのバックサポートは布製のスリング式であることが多い。

シーティングの観点から見ると、骨盤、脊柱を安定保持した状態で、長時間車いすに座ることが可能でなければならないが、布製バックサポートの多くは安定して上体を保持することが難しい。こうした問題を解決するための最新機器の一つが、車いすバックサポートシステム「Vトラック」である。

Vトラック(図1)は固定式フレームを持つバックサポートである。車いすの布製スリング式バックサポートを取り外し、専用取付金具とマウントアームにより、車いすのバックサポートパイプに固定して用いる。Vトラックには標準バックサポート、ハイバックサポート、分割バックサポート、ヘッドサポートなどがあり、サイズも座幅、側部のサポート幅に合わせて、S~XLまでのサイズが用意されている。

図1 Vトラック、ハイバックサポートとヘッドサポート取り付け例(PHP社製、日本国内販売総代理店:パシフィックサプライ(株))
写真 Vトラック

バックサポートを固定するマウントアームは、前後、左右、左右回旋、高さ、角度の調節が自在に可能である。それぞれのバックサポートの中央部の背張り調整も可能で、合わせて左右側部はそれぞれ個別にバックサポート位置を内-外側へ調整できる。国内外の多くの車いすへの取り付けが可能で、幅広い調整機能を活用して的確に調整されたVトラックは、スリング式バックサポートでは得られない安定性、快適性を車いす利用者に提供し、座位姿勢を良好に保つことができる。

3 VOCAについて

VOCA(Voice Output Communication Aid:音声出力型コミュニケーションエイド)とは、言語に障がいがあり、コミュニケーションすることが困難な人が使用する支援機器である。50音の文字キーを押してメッセージを作成し合成音声により発声するタイプと、音声を録音しておき再生するタイプに大きく分類される。

合成音声を発声するVOCA(図2)の場合、文字でメッセージを作成できるので、使用者が細かな内容を正確に伝えたい場合に有効である。使用者は文字を理解しメッセージを作成できる必要がある。またメッセージの作成には1文字ずつキーを押す必要があるため、情報を発信するまで時間がかかる場合がある。その点を補う方法として、語句登録機能や録音音声再生機能が搭載されている。

図2 ボイスキャリー ペチャラ(50音タイプ)
写真 ボイスキャリー ペチャラ(50音タイプ)

音声を録音し再生するVOCA(図3)の場合、ボタンを押すことで録音音声が再生されるため使用者が情報を発信するまでに時間を要しない。文字が理解できていない場合でも、絵カードや写真を併用することにより使用できる場合がある。このタイプのVOCAは、コミュニケーションすることのみを目的とするのではなく「人とコミュニケーションし活動に参加する楽しさを経験する」ことを目的とする場合もある。

図3 スーパートーカー(録音再生タイプ)
写真 スーパートーカー(録音再生タイプ)

4 AACについて

AAC(Augumentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)とは、コミュニケーション障がいのある方を補助する手段である。絵カードを用いたコミュニケーションやジェスチャー、手話など音声言語以外のコミュニケーション手法を例としてあげることができる。IT技術の進歩により、VOCAのような会話補助装置やパソコンを用いた意思伝達装置も支援技術を用いたAAC手法となっている。その応用として、使用者が自分の身の回り、たとえばテレビなどの環境を制御するECS(Environment Control System:環境制御装置)やパソコンの入力支援機器(図4)なども流通している。

図4 クルーズ(トラックパッド)
写真 クルーズ(トラックパッド)

こうした機器は使用者のできることを飛躍的に高めるだけでなく、支援者の負担を軽減し、使用者が支援者に対して抱く「やってもらっている」と感じる心理的ストレスを軽減する効果も期待できる。使用者が「自分にもできる」という自尊心を持つことは、QOL(生活の質)の向上にもつながることである。楽しいことを使用者が「自分にもできる」ようにする機器も増えてきている。

レッツ・サウンド(図5)は、大きなボタンやスイッチで操作ができるオーディオプレイヤーであり、高齢の方・障がいのある方でも簡単に音楽を楽しむことができる。今後はさまざまな方法によって「自分にもできる」支援機器が流通することを期待したい。

図5 レッツ・サウンド
写真 レッツ・サウンド

5 考察

支援機器の高機能化・多機能化を追い求めるよりもむしろ、秘められた潜在能力を最大限まで引き出す3LIFE(生命・生活・人生)と支援機器の適合こそが最大の課題であるといえる。機器を安価に供給することも重要であるが、機器そのものが使えなければ本末転倒である。多少高価な機器でも、現在そして将来の適合教育や「分かりやすさ」を伴った支援機器を導入されたい。

6 おわりに

交通事故により全盲となった方の「世の中がハイテク化されればされるほど我々にとってはバリアが増える」という言葉が印象的であった。自動券売機でつまずき、そして自動改札でもつまずく。ハイテク化が進んだからといってすべての人が便利になったわけではないのである。

障がいの有無とは関係なく人と人とが共存していくには「お互いを理解しようと思う気持ち」が重要である。分からないからといって避けるのではなく、この機器はどうやって使うのかを素直に聞いてみてはどうだろうか?「失礼なことではないか…」と思うことこそが、実は大変失礼なことである。

(かわむらけい・川村義肢(株) ふじただいすけ/くろしまやすし・パシフィックサプライ(株))