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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

生活環境に合わせた電動車いすの重要性

宮野秀樹

私の障害は頸髄損傷・C4完全マヒと呼ばれ、四肢がマヒしている状態である。1992年に交通事故により頸髄を損傷。1994年に約3か月間、兵庫県立総合リハビリテーションセンターにて入院生活を送り、その後、在宅生活を経て現在は一人暮らしである。首から下は動かない体であるが、顎で操作(チンコントロール式)する電動車いすに乗り生活している。

私の生活に電動車いすは欠かせない。現在は、アメリカ製の電動車いすに駆動ユニットとしてリクライニング・ティルティング・フットエレベーティングの各機構に、背・脇・臀部のズレ防止と長時間座位による臀部への圧を軽減させる座位保持装置(以下、シーティング)を取り付けたものを使用している。日常生活においては『電動車いすに乗って生活する』ことを目的とし、動線範囲の段差解消や介助者が移乗させやすいように懸吊式リフターの設置、また環境制御装置を電動車いす上から操作可能とするなど住環境を整えている。

今では1日平均14時間を電動車いす上で過ごしており、以前は“自分でできること”のひとつであった電動車いすでの移動も、“できて当たり前”の日常生活の中の動作でしかない。

現在使用している電動車いすを選択した理由は、生活の場として私が望む座位保持の安定性、リラックス感、サイズにある。シーティングの導入は私のニーズを満たしただけでなく素晴らしい効果を与えてくれた。座位保持の強化、体幹のズレの解消はもとより、長時間座っていても疲れにくく、体調が数段アップしたことを実感できるようになった。褥創などの心配もほとんど無い。また、進入可能な店舗や車両購入の幅を広げることにも繋がった。長時間の活動や仕事、外出することに意欲的になったのも、生活環境に合った電動車いす使用の成果と言っても過言ではない。

私の経験を踏まえても、重度四肢マヒ者の生活において、電動車いすおよびシーティングが生活の質(QOL)に及ぼす影響は大きいと考える。活動性を広げるためにも、生活環境に合った電動車いすの選択やシーティングの導入は非常に重要なポイントである。

しかし、残念ながら既製の車いすの大半はそれを満たすことができず、何らかの改良を必要とするものが多い。自分の体に合わせれば合わせるほど費用は高くなる。海外製品にもなるとカスタマイズしやすいという利点はあるが、かなりの高額になるという欠点もある。障害者自立支援法における装具給付制度だけでは補いきれないのが現状である。多様なニーズに応えることのできる幅広い供給システムとして制度を見直す必要があるのではないかと考える。

最後に一言。道具を使うのは人間である。道具に人間が合わせるのではない。使いやすい、生活環境に合わせた電動車いすが可能性を広げていくのは間違いない。

(みやのひでき 兵庫頸髄損傷者連絡会事務局長)