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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

1000字提言

工夫をすれば
~ミャンマーの現場から~

横飛裕子

認定NPO法人難民を助ける会ミャンマー(ビルマ)事務所は、障害者のための職業訓練校の運営や障害者自助組織の支援、また、パートナー団体と協力してCBRや障害児支援などを行っている。

ヤンゴン市で実施している職業訓練事業における視点の変化について振り返ると、以前は美容理容コースの訓練生選考基準に「45分間立っていられること」というものがあった。お客さん1~2人をカットできるようにと設定したのであろうが、問題は本人にあるという考え、まさに障害の医療モデルの視点に立っていた。これを「工夫をすれば、環境を変えればいい」という視点に立ち、徐々に工夫を重ねてきた。立ったり座ったりすることが困難だが少し足に力をいれることができる人には、座ったまま移動してカットできるようにコマをつけたいすを、車いすを使用する場合は、車いすの先端とぶつからずに近づけるような客用カットいすを、車いすから座り換えてカットするなら、体をずらして移動できるように客用カットいすをぐるりと取り囲んだU字型ベンチを使用するなどである。

また、聴覚障害のある訓練生は手作りヘアカタログを使用している。自分たちで撮影した写真に加え、特に説明が難しい部分は、シンプルなイラストで図解して注文に誤解の生じないようにしている。国産のヘアカタログが存在しないため聴覚に障害のない訓練生にも好評で、特別なことではなくなっている。これら道具のほとんどはスタッフと訓練生との合作で、実際に本人が使用しながら改良を重ねていっている。将来さらなる改良の必要性や新たなケースが生じた時も、訓練校では現地スタッフが、出身地では卒業生が自分たちで応用して作れるように、作り出すプロセスを広く共有している。

なお、このように実施していく際、我々が意識しているのは、「インストラクターの役割は一つのやり方を教えることではなく、蓄積してきたさまざまな情報や工夫を共有し、訓練生本人が自分の体に合う方法を探す過程をサポートして本人に決めてもらう」ということである。初めて学ぶ技術なので情報は必要だが、自分にとってどの方法がやりやすいかは当然、本人が一番よく知っているとの理由からである。常勤のインストラクター全員が障害当事者であるとは言っても、障害はそれぞれ違うのでこの考え方が当てはまる。

以上は簡単な例であるが、引き続き、工夫をすれば、環境が変われば可能性が広がること、決めるのは本人ということを実践し、ミャンマーの人々に広く伝えていきたい。

(よことびゆうこ 認定NPO法人難民を助ける会 前ミャンマー事務所駐在代表)