音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

第8回福祉車両の普及促進と運転環境改善のための集いを宮城で!
~「みんなのくるま2008」開催報告~

粟津正貴

東北で初めて開催されたイベント

平成20年5月31日(土)、宮城県庁(宮城県仙台市)を会場に、「みんなのくるま2008(第8回福祉車両の普及促進と運転環境改善の集い)」が開催され、300人余りの障害者やその家族、福祉・医療関係者、メーカー関係者等が参加し、講演や福祉車両の展示、体験試乗会などで賑わいました。

このイベントは、毎年1回、財団法人いしずえ(サリドマイド福祉センター)が主催し、障害のある人自らが運転する自操式と呼ばれる福祉車両を紹介するイベントで、同時に、障害をもつドライバーの体験談や、普段見ることの少ない福祉車両に直接触れ、実際に試乗もできるという、障害のある人が、よりよい条件で自動車を運転できるようになることを願って開催されているものです。8回目の開催となる今年度は、宮城県に誘致し、本県が共催という形で、東北で初めて開催することができました。

QOLに対し直球勝負のイベントは大盛況

行きたいところに、行きたい時に自由に出かけたい。それは私たち、健常な者にとっては、車の運転という手段で当たり前のようにやっていることですが、障害のある人にとっては、車を運転するということ自体にさまざまな困難が伴います。

障害のある人にとっても、行動範囲の広がりはその人の人生をより充実したものへと変えていきます。このイベントでは運転によって大きく広がる障害のある人の暮らしと、さまざまな福祉車両の可能性、さらに運転に寄せる想いについて、多数紹介されました。

第1部は、屋内講堂で、障害をもつドライバーによる講演やパネルディスカッションが行われました。運転免許取得の際の苦労話や免許と車を手に入れたことで、生活が大きく変わったという話、免許を取得して行動範囲が広がり、仕事や友達づきあい、遊びに役立っているという体験談、過去に開催された「みんなのくるま」がきっかけとなり、車の運転に向けた行動に移ることができ、生きがいや自信が持てるようになったというエピソードが、多数紹介されました。

また、障害のある人を取り巻く運転環境、制度の未整備といった課題などの発表があり、多くの参加者が熱心に講演やパネリストの話に耳を傾けていました。

第2部では、屋外スペースに約20台の福祉車両が展示され、障害のある本人や家族など多くの参加者は、足で運転操作できる足動運転車や、1本のジョイスティックで運転操作できるジョイスティックカーなど、大変珍しい改造車や実際にオフロードラリーで使用している手動運転車などの説明に、興味深そうに聞き入っていました。また、運転席にそのまま乗り込め、運転座席にもなる電動車いすに実際に乗ってみたり、片腕だけで運転できるバイクにまたがってみたりもしていました。

そして後半の福祉車両の試乗では、いろいろなタイプの改造車両に、順番に乗り込み、公道を周回するというものでしたが、大変な盛り上がりをみせ、予定時間をオーバーしてしまうほどの人気ぶりでした。参加者の中には、先輩ドライバーや出展企業の担当者に熱心に質問をしたり、相談をする場面も見受けられ、実際に試乗を終えた方の中には、「この車なら僕でも免許がとれそうだね」と楽しそうに家族と会話をされている方もいらっしゃいました。

このイベントで伝えたかったこと

障害のある人にとっても、車を運転するということは、とても重要な意味を持ちます。ただ単に移動の手段ではなく、自分一人で買い物ができたとか、家庭内での役割が保てたとか、就労につながったとか、人生そのものを切り開くという手段になっているということが、体験談を伺うことから改めて納得できます。一方、まだまだ障害者の車の運転には、壁が存在していることも忘れてはならないことだと思います。

障害のある人の多くは、障害の程度にもよりますが、自分の障害では運転はできないはず(または家族の理解、協力が得られないから難しいはず)と思ってしまい、免許取得や免許更新をしない場合も多いということです。また実際問題として、改造費が高額となる場合は、費用のほとんどが個人負担となることや、障害のある方の車の教習環境が、全国的にもまだ十分ではないという課題もあります。それらのいくつかが重なることで、結果として運転をあきらめてしまうケースが多いという現状があります。

これらの壁を乗り越え、車の運転を獲得するためには、本人・家族にとっては、適切な時期に、正確で、新しい情報をどこで、どうやって手に入れられるかが重要になってきます。そして実際に運転している障害者ドライバーや、支援する役割を担うべき行政、企業側からすれば、その情報発信の方法を工夫していくことや、障害者の自動車運転と免許取得についての周辺環境を、今以上に整えていかなければならないという役割があります。

運転環境の改善は、障害のある人だけでなく社会全体の課題であって、一人でも多くの理解者が増え、まとまって声を出していかなければ、重要性は伝わりにくいものです。今回のイベントの開催により、障害のある本人のみならず、福祉関係者や一般の方など、いろいろな人に集まっていただいたことで、その「みんな」に、これらの現状について、理解を深めていただけたのではないかと思っています。

イベントを振り返って

障害のある人は障害をもった時点でスポーツをあきらめるとか、旅行をあきらめるとか、人生の中で大事にしなければならないことを、やむを得ずあきらめなければならなかったという一面があります。ところが、車を運転することによって、自分の力で自分の行きたいところに出かけられるということができれば、新たな人生の楽しみ方を得ることにつながると思います。今回のイベントに参加された方の一人でも多くの方々が、自分の可能性に気づいて、この日がきっかけとなり、これからの「有意義な人生」の実現の一助になっていただけたら大変うれしく思います。

最後に、このイベントの開催にあたり、多大なご協力をいただいた財団法人いしずえの皆様をはじめ、先天性四肢障害児父母の会、そして第1部、第2部を通じて貴重な情報を提供していただいた、講演者と協賛企業の皆様に感謝を申し上げます。

(あわつまさたか 宮城県リハビリテーション支援センター理学療法士)