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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

ワールドナウ

第2回日中障害者NGOシンポジウム参加報告

堺真理

2008年6月26日(木)~27日(金)、中国北京市「二十一世紀ホテル」を会場に「第2回日中NGOシンポジウム―障害者支援をめぐって」が開催された。目標には「日中の障害者分野に従事するNGOが、情報交換、直接交流を通じて、国際連携に向けたきっかけを得ること」が掲げられ、主催者は国際協力機構(JICA)中国事務所と、国際民間組織合作促進会(CANGO)である。日本側は障害分野NGO連絡会(JANNET)を通して11団体(注1)から13人、中国側からは名簿上46団体から62人、その他来賓、プレスや学生等100人を超える人々が会場を埋めた。

基調講演と分科会

中国側の基調講演は障害者連合会理事の張宝林氏が「中国障害者の現状および障害者事業が面しているチャレンジ」と題して行い、7月1日より「障害者福祉法」が施行されること、2006年に実施された「第2回中国障害者サンプル調査」のデータを参考に、現在の中国障害者の状況が説明された。

日本側からは法政大学現代福祉学部教授松井亮輔氏(日本障害者リハビリテーション協会副会長)が、「日本における障害者支援への取り組み」と題して基調講演を行った。その他、中国NGOの情報共有を目的に作られたデータベースについて、NPO情報センター情報部主任の孫英氏が発表した。

分科会は主催者により就労支援と生活支援のテーマが設定され、事前の希望と人数のバランスから2つに分けられ、私は就労支援の分科会に参加した。参加団体はリストによれば中国側31、日本側6であるが、実際には飛び入りの参加も少なからずあったようだ。進行は中国側からNGOデータベースについて発表した孫英氏が行い、補足は日本点字図書館理事長の田中徹二氏が行う形をとった。

北京や上海を代表とする大都市と地方の省、特に農村部では格差が甚しく、国民の年間収入の平均をみると、トップの上海と最下位の農村部の差は10倍というデータがある。そういった状況の中、地方のNGOでは障害者の就労だけでなく、その家族の就労を支えることも活動のひとつとしている団体もある。

ある団体では「メスの羊計画」といって障害者をもつ家庭に羊を与え、繁殖した子羊を売って生計支援するようなプログラムを持っているが、ある家庭にフォローに行ったところ、すでに羊たちは家族の食料となっていたという笑えないケースが語られた。中央あるいは地方政府による最低生活の保障がないままにNGOが活動をせざるを得ない例といえよう。また、地方の行政組織はNGO活動について理解度が低く、何かしようとすると、まるで政府への敵対組織と捉えられがちで活動しにくいという報告もあった。

一方、中央政府による数値目標を達成するため、地方政府が事務所とスタッフを用意してNGOに業務委託をするケースも出始めている。また、既存の施設では自分の子どもに合った支援が受けられないため、親同士で小さな作業所を作ろうとしていたり、エイズや肝炎患者のサポート団体、当事者活動など障害者支援のすそ野が確実に広がっている様子がうかがえた。

日本に対して、人、技術、モノ、お金などをサポートしてほしいという意見がある一方、中国側参加者自身から、「それぞれの独自性を発揮している自分たちこそ専門家であることを自覚することが必要なのではないか」「活発なNGOが地方をリードして発展と活発化を助けることが必要で、二極分化してはいけない」といった言葉が印象に残った。

現地の団体訪問

▼北京紅丹丹教育文化交流センター

視覚障害者自身によりラジオ番組を作成したり、音声解説付きビデオ上映、舞台芸術への参加といったユニークな活動を行っている。市街の鼓楼の西側に古い町並みが残っているが、その胡同の一角にあるいくつかの建物を借りている。メンバーはみな若々しく積極的だったが、中でも馬さんという26歳の男性は、常に集音マイクを手に動いていた。彼はアナウンスの研修を受け、ラジオ番組を担当しているが、きっかけは2003年にラジオ放送を聴いたことで、すぐに紅丹丹で学びたいと思ったという。また17歳の女性、李さんは姿勢と声がすばらしく、「盲人」という舞台でも主役級に抜擢されている。彼女は播陽の盲学校出身で、中途失明者。昨年夏の盲学校の旅行で紅丹丹を見学し、自分も学びたいとすぐに思ったとのことで、将来はインタビュアーになりたいと夢を語った。

▼慧霊知的障害者区サービス機構

シンポジウムが終わった翌日、帰国前の午前中を利用して、紫禁城のすぐ北にある北海公園の裏手に張り巡られた胡同にある施設を訪問した。利用者は、「三原色」と名づけられた赤、青、黄の3グループに分かれ、それぞれ食事作りや設備清掃、芸能、絵画等の創作活動を行っている。旅行業者と提携し、北京観光のオプショナルツアーにこの機関を登録している。つまり、観光客は本物の四合院を訪れてパフォーマンスを楽しみ、習字や餃子作りなどを体験できるというわけである。孟理事長はこのアイデアを実行するために、あえて家賃の高い観光地に構えたのだという。

スペインなら闘牛、イタリアならロミオとジュリエットというように各国の観光客向けに演目を研究しており、観光客の少ない冬季に練習をするとのこと。孟理事長は「利用者はパフォーマンスの練習は大好きだけれど、掃除はあまり人気がないのよ」と苦笑するが、私たち日本人が来たということで「北国の春」の生演奏をバックに、利用者の一人がハッピを着こみ、花笠を使ったオリジナルダンスを本当に楽しそうに演じてくれた。

その他、知的障害者を対象にした豊台利智リハビリテーションセンターと、1988年に日本のODAによって建てられた中国リハビリテーション研究センター病院も訪れた。

NGOのこれからに大いに期待

今回参加したNGOの多くに見られるように、まったく政府の援助を受けずに独自性を貫けば運営は苦しい。政府の援助があれば安定した運営ができるかもしれないが、それでは活動のしばりを受けるというジレンマがある。政府が活動状況をみて評価(格付け)を行い、補助金が交付されるという話もあるようだが、これはまだ北京地域に限定されており、広大な中国では、多くの地方団体が手弁当による苦しい運営を続けているのが現状だ。赤十字や外国企業等のファンド団体に対して助成を求めることができる団体もごく一部であろう。これから中国NGOは、国連障害者の権利条約に批准した政府に対してはあくまでも公的責任を追及することを目指し、また身近な障害者の権利と社会の意識向上を図りながら、機動力を生かした独自性を保つことを目指すと思われる。

中国は国土も広く文化的、政治的状況も複雑であることから、障害者の支援活動もかなり遅れているだろうと漠然と思っていた。確かに日本側に対する質問や援助を求める声も少なくなかったし、「北京の施設を見学できてうれしかった」という地方のNGOスタッフの素直な感想からも、格差が大きいことは感じられた。しかし一方で、「外国の専門家に意見を求めるのも大切だが、私たち自身もそれぞれの立場で専門家である。お互いから学ぼう」といった意見にはスタッフの意識の成熟度を感じ、これからの両国の障害者支援、とりわけ中国NGOの発展に大いに期待を持つことのできたシンポジウムだった。

(さかいまり 日本ライトハウス 視覚障害リハビリテーションセンター)

(注1)日本側参加団体(50音順):アジア車椅子交流センター、きょうされん、日本障害者協議会、日本障害者リハビリテーション協会、日本中国自閉症支援協会、日本点字図書館、日本発達障害者福祉連盟、日本ライトハウス、広げよう愛の輪運動基金、無年金障害者の会、DPI日本会議