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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

特別支援教育の推進について

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

1 はじめに

障害のある子どもの教育をめぐっては、近年の障害のある子どもの重度・重複化や多様化といった状況に適切に対応するため、一人ひとりの教育的ニーズに応じた適切な教育的支援を行うことが求められており、こうした状況等を踏まえ、昨年度から「特別支援教育」がスタートしたところです。本稿では、このような特別支援教育の推進に関する国の動向や全国的な状況等について紹介いたします。

2 近年の主な法令改正等

平成18年12月に施行された改正教育基本法では、障害のある子どもが十分な教育を受けられるよう必要な支援を講ずることが新たに規定されました。

また、同法に基づき本年7月に閣議決定された「教育振興基本計画」においても、特別支援教育の推進に関して、

  • 特別支援教育支援員の配置や小・中学校に在籍する障害のある児童生徒に対して「個別の指導計画」等が作成されるよう促すこと
  • 特別支援学校について、外部専門家の活用を含めた教員の専門性の向上や就職率の改善のための取組への支援
  • 障害のある子どもと障害のない子どもとの相互理解を深めるための活動の推進
  • 特別支援学校の大規模化に対する地方公共団体等の取組の支援

等の内容が盛り込まれたところであり、同計画を踏まえ、特別支援教育の推進を含めた関連施策を推進してまいります。

また、ご承知のとおり昨年4月に施行された改正学校教育法では、

  1. 複数の障害種を教育の対象とすることができる「特別支援学校」制度の創設
  2. 特別支援学校のセンター的機能(特別支援学校が小・中学校の要請に応じて必要な指導や援助を行うこと)の創設
  3. 小・中学校においても「特別支援教育」を行うことを法律上明確化

等の内容が盛り込まれましたが、現在、法改正を踏まえた取り組みが各地で進められています。複数の対象障害種に変更した特別支援学校も、これまで計54校(法改正前に複数の障害を対象にしていたものを含めて計126校)ある他、旧盲・聾・養護学校から「特別支援学校」等に校名変更した学校も、新設の学校を含めて計329校にのぼります。

さらに、昨年12月には、障害者基本法に基づき策定された障害者基本計画の後期5か年計画(「重点施策実施5か年計画」)が策定されたところですが、同計画においても、教育・育成分野について、以下のような数値目標(いずれの数値も平成18年を基準とし、平成24年までの目標を定めています)等が盛り込まれたところです。

○個別の教育支援計画策定率

  • 小・中学校20%→50%

○校内委員会の設置

  • 幼稚園(公立)32.7%→70%
  • 高等学校(公立)25.2%→70%

○特別支援教育コーディネーターの指名

  • 幼稚園(公立)29.4%→70%
  • 高等学校(公立)18.5%→70%

○特別支援学校教諭免許保有率向上を中期計画等に位置付ける都道府県の割合

  • 32都道府県→全都道府県

国や教育委員会、学校関係者においては、障害のある子どもの能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を培うため、関係機関と十分に連携しながら、同計画の推進のため積極的に取り組むことが求められています。

3 新しい学習指導要領

新しい学習指導要領に関しては、本年1月の中央教育審議会答申において、特別支援学校について、幼・小・中・高等学校に準じた改善を図るとともに、障害の状態等に応じた指導の一層の充実を図る観点から、1.自立活動の改善、2.外部専門家の一層の活用、3.一人ひとりの子どもに応じた適切な指導や支援を行うための「個別の指導計画」、「個別の教育支援計画」の作成、4.地域や産業界と連携した現場実習の充実や企業関係者等の積極的活用、5.幼稚園・小・中・高等学校等の子どもたちとの交流及び共同学習の一層の推進、等が提言されており、本年秋頃に告示をすべく現在改訂作業を進めています。

また、幼・小・中学校の学習指導要領等は、本年3月に改訂されたところですが、今回の改訂では特別支援教育に関し、幼稚園から中学校までを通じて、特別支援学校のセンター的機能を活用し、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成すること等により、個々の子どもの障害の状態に応じた指導を計画的、組織的に行うことが盛り込まれました。

なお、新学習指導要領は、幼稚園は平成21年4月から全面実施、小学校、中学校は、それぞれ平成23年4月、平成24年4月から全面実施される予定ですが、平成21年度から一部を先行実施することとしています。

4 特別支援教育をめぐる国際的な動向

本年5月に「障害者の権利に関する条約」が発効されました。この条約は障害者が差別を受けることなく社会参加できるよう、教育も含めインクルーシブな社会を実現することを基本理念としたものであり、わが国も昨年9月に署名し、現在、可能な限り早期の批准を目指して検討を行っているところです。教育に関しては、「障害者を包容する教育制度(inclusive education system)」が主要な論点となりますが、具体的内容については今後関係各省等と検討を行うこととしています。

5 特別支援教育の体制整備

(1)特別支援教育体制整備状況調査

文部科学省が実施している「平成19年度特別支援教育体制整備状況調査」によれば、1.小・中学校に比べ、幼稚園・高等学校の体制整備に遅れが見られる(図1参照)他、2.公立の小・中学校においては「校内委員会の設置」や「特別支援教育コーディネーターの指名」といった基礎的な支援体制はほぼ整備されており、今後は「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」の作成等、一人ひとりに応じたきめ細かな支援の充実が課題となっています(図2参照)。なお、本調査の結果は、文部科学省HPにも掲載していますのでご覧ください(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/03/08032605.htm)。

図1 校種別の状況(平成19年度)
棒グラフ 校種別の状況(平成19年度)拡大図・テキスト

図2 公立小・中学校の状況(平成15~19年度)
棒グラフ 公立小・中学校の状況(平成15~19年度)拡大図・テキスト

(2)特別支援教育支援員の地方財政措置

小・中学校に在籍する障害のある児童生徒に対して学校教育上の日常生活の介助や各種活動上のサポートを行う特別支援教育支援員の配置に必要となる経費について、本年度は総額360億円(3万人相当(全公立小中学校に相当))の地方財政措置がされているところですが、実際の配置状況は都道府県によって差が見受けられるところであり、各教育委員会の取り組みが期待されています。

(3)「障害のある子どものための地域における相談支援体制整備ガイドライン(試案)」

本年6月に、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係部局等が一体となり障害のある子どもや保護者に対する一貫した相談・支援体制が整備できるようガイドラインを作成し、各教育委員会や特別支援学校に配布したところです。文部科学省のHPにも掲載していますので、是非ご活用ください。

(4)平成20年度の主な関係予算

1.発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業

特別支援教育を推進する上で最も中心的な事業であり、47都道府県に委嘱しています。発達障害を含むすべての障害のある幼児児童生徒の支援のため、各学校種教員研修、外部専門家の巡回・派遣、乳幼児期から成人期に至るまで一貫した支援を行うモデル地域の指定等を実施することにより特別支援教育を総合的に推進するものです。

2.発達障害早期総合支援モデル事業

発達障害児の早期発見・早期支援を強化するため、教育関係機関等が医療や保健等の関係機関と連携し、幼稚園や保育所における発達障害の早期発見方法の開発や、発達障害のある幼児・保護者に対する相談等の早期支援を行うモデル地域を指定し、早期からの総合的な支援の在り方について実践的な研究を実施するものです。

3.高等学校における発達障害支援モデル事業

国公私立の高等学校をモデル校として指定し、当該高等学校に在籍する発達障害のある生徒に対して、専門家を活用したソーシャルスキルの指導や授業方法・教育課程上の工夫、就労支援等について実践的な研究を実施するものです。

この他、特別支援教育に関するさまざまな事業を行っておりますが、文部科学省としては、モデル事業等において得られたさまざまな実践事例について広く情報提供をすることで、全国の支援体制整備の一助となることを期待しています。

6 (独)国立特別支援教育総合研究所

(独)国立特別支援教育総合研究所は、わが国の特別支援教育のナショナルセンターですが、本年度は発達障害のある子どもの教育の推進・充実に向けて、発達障害にかかわる教員や保護者をはじめとする関係者への支援を図り、さらに広く国民の理解を得るため、研究所のHP上に「発達障害教育情報センター」を開設したところであり、WEBサイト等による情報提供や理解啓発、調査研究活動を行うこととしています(http://icedd.nise.go.jp/)。この他、特別支援教育に関するメールマガジンを配信していますので、是非ご活用ください。

7 特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議について

これまで述べてきたとおり、各学校における特別支援教育の推進については着実に取り組みが進んでいる一方、なお多くの課題もあります。このため文部科学省では、特別支援教育の実施状況を評価しつつ今後の具体的な推進方策について検討を行うため、本年8月に「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」を立ち上げたところです。本会議の主な検討課題は、1.各学校における特別支援教育の推進体制の整備について、2.乳幼児期から学校卒業後まで一貫した支援について、3.障害のある児童生徒の就学について、等を予定しています。

8 終わりに

特別支援教育をめぐっては、全体の少子化傾向にある中で特別支援学校や特別支援学級に在籍する子ども、通級指導を受ける子どもが増加傾向にある他、制度改正等により新たに期待される役割もますます大きくなっています。文部科学省としても特別支援教育のさらなる充実に向け、今後とも障害のある子どもの教育を支援するため、これらの施策の推進に取り組んでまいります。関係各位のご理解とご協力をお願いいたします。