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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

重度・重複障害のある子どもの取り組み
~学校に求められる他職種チームアプローチ~

北海道拓北養護学校

本校は平成12年4月に開校した肢体不自由の特別支援学校である。開校時は児童生徒84名、30学級、教職員95名でスタートしたが、年々児童生徒数が増加し、平成20年度は児童生徒143名、51学級、教職員141名となっている。

「共有・共感・教育」を学校経営の基本理念とし、「一人一人を本気で大切にし、子供を中心におく学校づくり」を大切にするとともに、特別支援学校のセンター的役割を担い、学校・保護者・地域の共通の目標である子どもの夢の実現に向けて夢を共有し、子どもを中心として出会うすべての人々と手を携えた学校づくりを進めている。

本校に在籍する重度・重複障害のある子どもたちは、医療・療育機関とのつながりは切り離せないものとなっている。従って、学校における医療的ケアの実施、服薬や食事と日常生活の関係、リハビリテーションと身体の指導、車いすや歩行器などの補助的機器の修繕や作成など、医療・療育機関との連携は、子どもたちが健康な学校生活を送る上でもっとも重要なことととらえている。

1 医療的ケアにおけるチームアプローチ

本校において、教職員による医療的ケアが行われるようになり、今年度で5年目となった。対象者数は初年度4名であったが、今年度は16名と年々その数を増やしている。医療的ケア対象者数の増加の要因は「障害の重度化」が大きく影響しているが、決してそれだけではない。学校で医療的ケアを受けることができるようになり、訪問教育ではなく在校教育が可能になったこと、また本来必要であるケアを、必要に応じて受けることができるようになり、経管栄養を行っていた児童生徒が、就学のために無理に経口摂取を開始するなどといったことが必要なくなったことも大きな要因となっている。

対象者増加に伴い、ケアの内容も変化している。ここ数年で胃ろう造設者が急増し、学校給食を胃ろうより注入するなど、より個のニーズに応じた対応も行えるようになってきている。

教員による医療的ケアを開始するにあたり本校で目指したのは、関わる者だけではない全教職員の意識の向上である。初年度は主に外部講師を依頼し、小児神経科医による基礎的な理論研修、看護大学教員による実技研修などの研修を重ね、全体の意識の向上を図った。次年度からは、実際にケアを行っている教員、看護師、養護教諭が講師となり実技研修を実施し、より身近なことと感じられるようにした。

本校では看護師のみがケアの実施を担うのではなく、教員、看護師、養護教諭の3者が協働して行うこととしている。教員がケアの一端を担うことでケア自体が「特別なもの」ではなく、教育活動の一環であるという認識が生まれ、さらに児童生徒の健康状態や体調を把握し、見極める力を高めることにもつながるのである。

開始から現在まで学校での医療的ケアは、事故なく順調に行われてきた。しかし教育活動として浸透したことの裏返しとして、医療的ケアを「簡単なこと」として安易にとらえる教員も出てきている。医療的ケアを必要以上に怖がる必要はないが、きちんとした「研修」「手続き」を行った上でなければ実施できないということを、もう一度基本に立ち返って考える必要性が生じている。

2 摂食指導におけるチームアプローチ

本校は、開校当初より8年間、学校歯科医が来校し、摂食指導・給食指導を行っている。

近年は、月に1度、医療大学(今年度より北海道大学)の歯科医師が来校し、対象児童生徒や保護者・職員に摂食指導をしている。事前に養護教諭と担当から、食形態や食事の姿勢・介助の様子をビデオで歯科医に伝え、それらをもとに当日の摂食指導を受けている。また、歯科医からの指導・助言をその後の食形態や援助方法等の摂食指導に生かすようにしている。さらに学校歯科医には、摂食指導だけではなく、誤嚥(ごえん)が疑われる児童生徒の相談に対してVF検査を実施する等して受診につなげたり、個別の教育支援計画に反映したりして、本校の児童生徒への理解と教職員に対しての指導・助言をいただいている。

校内の摂食指導をさらに充実させるために、昨年度から養護教諭を中心とした給食指導推進委員会(摂食プロジェクトチーム)を立ち上げた。自立活動教諭や栄養士、健康指導部長・教頭等という幅広い構成メンバーで取り組んでいる。歯科医の指導や助言を分かりやすく担当教諭に伝えたり、給食時の様子を見て介助方法や姿勢・道具の設定等アドバイスや指導を行っている。また、定期的に通信を発行し、スプーン等使用しやすい用具や書籍、摂食方法等についての紹介をしている。

近年、新転入者や希望者を対象に摂食研修を行っている。児童生徒を想定しながら実際に飲食することを通して嚥下(えんげ)のシステムを体得したり、口唇・下顎介助の必要性を学ぶ機会を設けている。全職員向けの研修では、とろみ剤等を扱う栄養補助食品会社の職員を講師に、とろみ剤の研修も行っている。今年度は外部講師(ST)を招いて、実技をメインにした摂食研修を行う予定でいる。

今後は二次調理を必要とする児童生徒が7割に達する中、段階食を提供できる環境作りや、職員が児童生徒を評価し指導していく力を身に付けていくこと等が、早急に解決しなければならない課題である。

3 医療・療育機関とのチームアプローチ

本校の児童生徒の多くは、就学前から医療・療育機関で、理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)や言語聴覚士(以下ST)から指導を受けており、学校に入学してからも定期的に継続して受診している。また、近年では、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)も普及しており、自宅でPT・OT・STより指導を受けている児童生徒も多い。

自立活動の時間における指導において「身体の取り組み」を中心に行う児童生徒が増加している。また、個々の児童生徒の実態に応じ、学校の教育活動全体を通した中で、配慮や工夫をしながら自立活動を行っている。

さらに、必要に応じて児童生徒が受診する日に教員も医療・療育機関に同行し、もしくは訪問リハに合わせて家庭訪問をし、PT・OT・STの方々に学校での目標や指導内容を伝え、指導・助言を得て、学習活動に活かしている。時には、保護者のニーズや学校側からの申し出により支援会議を開き、支援している医療・療育機関や訪問リハの方々や放課後などに利用している福祉サービスの方々と話し合いを持っている。重度・重複障害のある児童生徒ほど、支援者間の共通理解や目標の共有が必要である。時には、それぞれの立場を明確にし、支援者間で役割分担をすることも重要である。

児童は、定期的に医療・療育機関にPT・OTを受診しており、摂食指導も別の機関で受けている。股関節脱臼と側彎(そくわん)があり、過剰な筋緊張により体幹部の捻(ねじ)れが生じ、側彎を強めている。本児童を担当している教員は、日頃から、緊張を緩めるような手だてを講じてはいるが、より良い方法がないかとPTの受診に合わせて同行し、学校での目標や指導内容に加え、学校での1日の生活の流れや姿勢の様子・活動内容をまとめたものを見ていただきながら、実際に支援する際の配慮等を聞くことができた。実際に、教員が抱っこし、PTが支え方や動かし方を指導してくれるなど、日々行っている抱っこが、PTの指導・助言で、児童にとって必要な身体の動きを理解することにつながり、身体の動きの指導へとつながったケースである。

このように、PTやOT等と連携することで、学校の中で児童生徒にとって有効な手だてを一緒に検討したり、指導・助言を得ることができ、学校生活の学習や自立活動に活かされている。

4 まとめ

本校においては、打ち合わせ、ミーティング、懇談など会議の名称や方法はさまざまであるが、必要に応じて特別支援教育コーディネーター(本校では養護教諭、自立活動教諭を含む)や担任などが中心となって支援会議を実施している。校内では、担任、養護教諭、自立活動教諭、特別支援教育コーディネーター、寄宿舎指導員、看護師などさまざまな立場から意見が出され、児童生徒のことを話し合っている。さらに必要に応じて、校外のさまざまな関係機関(担当医、看護師、療法士、福祉事業所、相談員など)とも支援会議を実施し、児童生徒あるいはその周りが抱えるさまざまな課題について話し合いを行い、方向性を導き出したりしている。

また近年は、市の障害児(者)地域療育等支援施設事業の委託を受けている相談室や、児童デイサービスや訪問介護などを実施している各福祉事業所、作業所や通所施設など、福祉関連施設とのつながりが増えてきている。これまでの卒業後の進路に関わる連携にとどまらず、日常での困り感や親への支援など、その子どもの家庭に関わる支援も必要となってきている現状がある。さらに、それらと医療・療育機関とも連携が必要な事例も増えてきており、支援のニーズや内容は多岐にわたってきている。

その話し合いのツールとして、個別の教育支援計画のフェイスシート(個人の基本的な情報)、支援マップ、個別の指導計画などを活用して、お互いの情報の共通理解や確認を行っている。

障害の重度・重複化に伴い、これまで以上に情報共有の重要性が高まっている。医療機関への訪問、担当医や療法士との懇談などを実施しているが、養護教諭や自立活動教諭がコーディネートしながら、正確かつスピーディーに対応することが求められ、重要であると考える。まだまだ課題はあるが、チームで子どもたちのことを考えていくことは、今後さらに必要になっていくと考える。

図 個別の教育支援計画のフェイスシート
図 個別の教育支援計画のフェイスシート拡大図・テキスト