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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

通常学級での実践
~発達障害のある児童および担任が気になる子への取り組み

相本広幸

はじめに

平成18年12月の教育基本法の改正のもと、学校教育法も一部改正され、小・中学校の通常学級で特別支援教育を推進することが法律上規定された。

では、特別支援教育とは全く新しい教育なのだろうか。当初は、普通教室での複数指導や通級教室の充実が急務といわれ、今も現場には特別支援教育関連の人的配置が少しずつ行われている。しかし、学級経営がうまいといわれる教師は、視覚に訴える教材を効果的に活用したり、児童・生徒が見通しを持ちやすい指示をしてさりげなく特別支援教育を実践していたのである。もちろん、特殊教育で培われてきた個別指導や複数指導も必要に応じて行われていくだろう。現在は、日々の教育活動全般に特別支援教育の視点を取り入れた学級および学校経営の重要性が指摘されてきている。その実践の一部を小学校での具体的な事例を基に紹介していくものとする。

1 学級全体への取り組み

(1)黒板およびその周囲の活用

小・中学校では、前面の黒板に授業の内容がまとめられていく。そのため、注意が散りやすい注意欠陥・多動性障害の児童や細部に視線がいきがちなアスペルガー症候群の児童がいるクラスでは、黒板の内容に注目しやすいように、その周りの掲示物についてはできるだけ簡素にしている。また、黒板の端や掲示板には1日の予定を大きな文字で貼りだし、見通しが持ちやすいようにしている。なるべく急な予定変更をしないようにしているが、変わった場合はできるだけ早く知らせるようにしている。

(2)座席や指示の工夫

注意の持続が難しい児童は、刺激の多い窓際は避けて、教室の真ん中の少し前あたりに座らせることが多い。また、教師が指示するときに、「今から3つのことを言います」と前置きして、児童が見通しや終わりの予測が立てやすいようにして話し始めるように心掛けている。

(3)テストやワークシートの工夫

漢字テストを行う際、よくあるのが問題文を見て答えを横に書く方法である。形がとらえにくいディスレクシアの児童にとって自信を喪失させたり、漢字嫌いにさせたりする原因になっている。そこで、出題方法を段階的に分けて取り組みやすくしている。書き写しテストや手がかりを残したヒント付きテスト(図1)を経て、通常のテストを行うのである。時には児童にテスト用紙を選択させて、得点に差をつける場合も見られる。ヒント付きテストは1つ1点で、ヒントなしテストは1つ2点という具合である。

図1 ヒント付き漢字テスト
図1 ヒント付き漢字テスト拡大図・テキスト

2 個人への取り組み

(1)アスペルガー症候群・2年生男児

A児は、漢字の練習をする際、手本に忠実に写せていないと何度も消してやり直し、課題が達成できなかった。そこで、消す前に漢字に○をつけたり、「うまく書けたね、合格」とほめるようにした。すると、自信がついてきたのか、数文字続けて写せるようになった。

また、自分の思ったことを表出することが難しく、観察文や感想文が書けなかった。まず、「この葉っぱ、何色かな」「緑色」といった会話をしながら出てきた言葉を書き取らせる。次に質問を書いたメモを渡しておいて、その答えを記述するように促す。少しずつヒントを少なくしていくようにする。自分が書いたという自信を持たせることが大切である。

(2)アスペルガー症候群・5年生男児

B児は「2010年11月3日は何曜日」という質問に対し、「水曜日」と即座に答えられる特技を有している。そのB児がすれ違いざまに特定の女児のお腹を叩くということが続けて起こった。担任が理由を聞いても反省の弁もなく分からない。そこで叩いた場面を絵に表し、B児と女児に吹き出しを付け、理由や相手の思いを書かせてみた。すると、女児に興味を持っていること、以前の対応に腹を立てていたことが理由として判明した。

そこで、適切なソーシャルスキルを身につけられるように叩かれた時の相手の気持ちを顔のマークで表し、何度も嫌な気持ちであることを認識させる。手を出さないことを紙(契約書)に明記して、出さなかった休み時間ごとにスタンプを押すポイント制度を設けた。ポイントがたまれば、お気に入りのシールがもらえるようにした(図2)。やがて問題行動は減っていったが、この方法は、離席を繰り返したりする注意欠陥・多動性障害の児童にも用いられることがある。

図2 契約書とポイントカード
図2 契約書とポイントカード拡大図・テキスト

(3)読み書き障害・2年生男児

C児は、板書や教科書を写すと、「、」や「。」をとばしたり、改行せずに詰めて書いたりすることが多かった。そこで、担任には板書時にノートと同じ字数で黒板に書くよう依頼した。また、C児が視写をするときには、あらかじめ1マス空けるところに点線で○を入れたり、「、」や「。」のところに気づきやすいように記号を入れたりしたワークシートを渡すようにした。その結果、行を間違えて写すことがなくなった(図3)。

図3 視写用ワークシート
図3 視写用ワークシート拡大図・テキスト

3 学校全体での取り組み

校内には、特別支援教育推進委員会を設けて、各学年の診断が下っている発達障害児や気になる子どもについて定期的にケース会議を行っている。委員会の構成は特別支援教育コーディネーターが中心となって、管理職や対象児童・生徒に関わっている担任や他の教諭、養護教諭等が構成委員である。それぞれの児童について「個別の指導計画」や「教育支援計画」の必要性が話し合われる。判断にあたっては、外部機関のアドバイスとチェックリストの実施も参考にされる。前者は特別支援学校のコーディネーターを招き、授業観察の後、意見を聞いたり、発達障害児・者センターや子ども家庭センター(旧児童相談所)に出向いて検査等を受け、アドバイスを受けたりしている。後者は、より客観的なデータ収集の一つとして実施している。

4 今後の課題

特別支援教育の展開に保護者の協力は不可欠である。しかし、保護者によってはさまざまな理由により学校側からのアプローチを回避している場合がある。信頼関係を結ぶためには、目の前の児童が変わっていくことが早道だと考える。連絡を密にし、家庭での悩みも共有できるように取り組んでいる。

現在、発達障害児・者支援法の制定により、以前にも増して就学前の機関(幼稚園・保育所等)や卒業後の機関(中学校・特別支援学校)との連携が重視されている。情報交換の不備から二次障害に陥り、青年期や成人期に痛ましい事件への関係者となる例が報告されている。少年院での取り組みがクローズアップされる昨今だが、早期からの支援が組織的に提供できるような特別支援教育の構築に、今後も努力していかなければならない。

(あいもとひろゆき 兵庫県相生市立中央小学校教諭)

【参考文献】

・レイモンド・G・ミルテンバーガー著(2006年)『行動変容法入門』園山繁樹/野呂文行/渡部匡隆/大石幸二訳 二瓶社

・篁倫子編著(2007年)『学校で活かせるアセスメント』明治図書