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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

ほんの森

発達障害児のリハビリテーション
―運動発達系障害と精神発達系障害―

監修 伊藤利之
編集 伊藤利之 北村由紀子 小池純子 半澤直美

評者 北原佶

永井書店
〒553―0003
大阪市福島区福島8―21―15
定価(本体6,000円+税)
TEL 06―6452―1881(代)
FAX 06―6452―9710

『発達障害児のリハビリテーション』は横浜市の過去20年にわたる取り組みが凝集された力作である。横浜で療育に関わってきた執筆者たちのこれまでの取り組みの工夫、試行錯誤、苦労が伝わってくる。運動発達系障害と精神発達系障害と分類されても、この二つに対するリハの考え方は基本的に共通としている。

2章の「療育とリハビリテーション」では執筆者たちの思いが主張されている。療育の目標が正常発達を目指す医療モデルから生活支援を主とする生活モデルへと変換していること、子どもへの支援と保護者への支援を療育の両輪とすることを強調しているが、この点は本書に一貫した視点である。子ども支援では、発達を促すことはもちろんのこと、成功体験を積むこと、障害レベルにあった生活力をつけること、二次障害を予防することを強調している。また療育を進める過程で保護者に無理な要求をしないよう、精神的安定が得られるように療育スタッフが十分配慮すべきとしている。筆者も大いに共感できる。

4・5章では運動および精神発達系障害のリハ概論と各論として各疾患の事例の長期間の経過での療育的介入の推移、保護者への支援が詳細に紹介されていて読み応えがある。また、自閉症をはじめとする精神発達系障害の早期診断の難しさが強調され、早期診断に至るまでの疑わしい子どもたちの保健所健診の時からのきめ細かいフォローの体制を紹介している。「様子をみましょう」的なフォローは次のステップに進まないとして、発見、診断、療育を適切につなぐ役割(インターフェイス)の重要性を明記している。発見と診断をつなぐ役割として、療育センターの臨床チームが保健所に出かけ、子どもの評価・相談・カウンセリングを行う療育相談を重視する。横浜市の誇る地域療育システムの一つであろう。また診断告知においても機械的に伝えるだけの告知に注意を喚起し、今後の療育プランを提示するなど悩める母親の不安を払拭する対応を述べている。豊富な臨床経験から生まれた指摘だろう。

発達障害のリハビリテーションに長年携わってきたと自負している筆者にとっても、「そうだよね」と共感、「ふむふむ」と納得、「これだ!」と教えられることの多い本書である。「横浜市の療育は良いな!」と読み終わることなく、全国各地で地域に適した療育を展開すべしと励ましているのが本書の趣旨だろう。

(きたはらただし 鳥取県立総合療育センター院長)