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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

報告

「第31回総合リハビリテーション研究大会 in 広島」開催報告

竹内麻美・髙橋慎治

「第31回総合リハビリテーション研究大会 in 広島」は、広島国際大学市民福祉公開講座との共催で、平成20年8月29日・30日の両日にわたって広島国際会議場において、大会テーマを「手と手を…ひろしまからの発信」として、はたのリハビリ整形外科・畑野栄治院長を実行委員長として開催されました。

第31回総合リハ研究大会【プログラム参照】は、「リハビリテーション」の基本となる理念と実践について、「地域リハビリテーションと地域包括ケアシステム」と題して尾道市公立みつぎ総合病院の山口昇先生から基調講演をいただきました。また、研究大会常任委員長の松井亮輔氏は、直近のリハビリテーション・インターナショナルに関する情勢報告、さらに、現在の生きにくさとその解消を考える5つの分科会を設けました。

参加者は講師、スタッフを含め約200人でした。

基調講演

基調講演では、山口昇先生ご自身の医師としての経験、その日々の中でリハビリテーションの必要性を痛感されたこと、そして現在、尾道市御調町において実践されている「地域包括ケアシステム」についてお示しいただきました。

医療制度の進歩から生じた後期高齢者と障害高齢者が増加している現実があり、介護予防の重要性の事例として寝たきりゼロ作戦や、「地域包括支援システム」を採用したことで『作られた寝たきり』を3分の1に減らすことが可能になったことなどを報告していただきました。地域包括支援システムには、地域の力・住民の力が必要であり、また、点から線へ、線から面へといった連携やネットワークづくりも必要であることを痛感しました。

「地域包括医療とは地域に包括医療を、社会的要因を配慮しつつ継続して実践し、住民のQOLの向上を目指すもの」であること、「包括医療・ケアとは治療(キュア)のみならず保健サービス(健康づくり)、在宅ケア、リハビリテーション、福祉・介護サービスのすべてを含むもので、住民参加のもとに生活とノーマライゼーションを視野に入れた全人的医療・ケアである」との論説があります。

地域は単なるエリアではなくコミュニティーを指すと定義づけられ、地域包括ケアシステムとはコミュニティーづくりであり、地域のニーズに応えることであるとの山口先生の視点は非常に重要であると感じました。御調町の地域包括ケアシステム構築の手法が各地で、それぞれの地域ニーズに合わせた地域包括ケアシステムが広がっていくことが望まれます。

現在、専門家は細分化していますが、地域連携を念頭に入れながら、社会的ニーズについていけるかどうかが重要ではないか、との山口先生のご意見は、地域リハビリテーションの今後を考えるにあたって大変参考になるものと感じました。

情勢報告

また、情勢報告では、総合リハビリテーション研究大会常任委員長の松井亮輔氏に「リハビリテーション・インターナショナル(RI)をめぐる最新の動き」について、ご報告いただきました。

RI総会で「RI戦略プラン」が提案され、国連が採択した障害者権利条約の国・地域・国際レベルでの履行等の目標が掲げられていることなどが分かりました。RIをめぐる最近の動きは、総合リハビリテーション研究大会のあり方を考えるうえで参考になることが少なくないことが示され、実践や研究を深めながら、包括的なプログラムやサービス構築・確立に向けての共同実践や共同研究の推進が必要と思われること、また時代の要請にどう適切に応えていくかを一緒に考える場として、この大会がより充実したものになることを期待すると締めくくられました。

各分科会の課題整理では、翌日の分科会に向けて、關宏之副実行委員長と各分科会のコーディネーター(第1分科会:尾上浩二氏、第2分科会:藤井克徳氏、第3分科会:大川弥生氏、第4分科会:橋本康男氏、第5分科会:森浩昭氏)による議論の要点整理がなされました。このプログラムは、分科会への参加を誘う新しい試みでした。

なお、余談ですが、その日の懇談会は、料亭「久里川」でもたれました。お聞きしたところ、会場外でのこのような試みは前例がないということでした。大阪市更生療育センターの正井副所長の絶妙な司会も当を得たものでした。

分科会

2日目は、わが国の第一人者のコーディネーターとこれまた第一人者のシンポジストにより、直面する課題とその解決に向けた展望を探るという視点から分科会がもたれました。

第1分科会「権利条約の行方」は、「権利」という視点から、主に当事者の方々や先進的な取り組みをされている方々の取り組みを紹介していただきました。「障害のある人の権利性」に関して、その意味の深さや大きさを実感しました。

第2分科会「『生きにくさ』と向き合う」では、現代の「生きにくさ」がテーマでした。現代の社会生活における『溜め』の減少が貧困をさらに増幅させていることなどを、実践を踏まえてご報告いただき、知的障害のある方が犯罪に巻き込まれないようにするために、警察署や公共交通機関の職員を巻き込んだ理解促進の展開から、地域の力を生かした支援を行う必要性を感じました。

第3分科会「共通言語としてのICF」では、生きることの全体像に関する共通言語としてのICFでした。その基本的な考え方について再考し、その活用方法を教育の面からの議論でした。障害とともに『今の生活を創造する』発想をもった教育領域や支援工学領域における活用の方向性、援助技術に、支援者にとってのICFや本人にとってのICF活用への変化が必要なことを示していただきました。さまざまな面でICFの活用が期待されることを感じました。

第4分科会「組織連携とコーディネート」では、組織連携の重要性が議論されました。組織連携には、組織と組織を結びつける黒子的な役割のコーディネーターを配置することが必要であり、継続して発展していく仕組みづくりには『社会システムづくり』の視点が重要であり、その要素として『制度的保障』・『経済合理性』・『社会理念』がバランス良く整理されている必要性があることが示されました。

第5分科会「社会資源の創造」では、社会資源の創造について議論し、障害のある方の先駆的な就労支援事例について紹介されました。その共通点は、障害のある方の就労を考える際の視点を『生活の糧』として位置づけていることであると感じました。企業が障害のある人が作成した作品を利用し、市民に作品を広く知ってもらうことで地域に貢献する形ができはじめているような気がします。今後は、このような取り組みが社会的な責任として企業に広まっていくことを期待したいと思います。

まとめ(全体会)

最後に、各分科会で討論された内容について各コーディネーターから報告がありました。これだけの陣容でもたれた各分科会であり、あれも・これもと興味はつきませんでしたが、それぞれのコーディネーターは、討議された内容を的確に参加者に報告してくださいました。結果として5つの分科会は、それぞれが独立した内容であるかのようにみえても、互いに密接な関係にあること、また、「リハビリテーション」の本来的な意味である『全人間的復権』に繋がるものであることを実感しました。

2日間を通して強く印象づけられたのは、さまざまな「生きにくさ」もまた、克服されるべきものだという強い信念と楽観主義でした。そうであるからこそ、「総合リハビリテーション」であり、人と人の輪だということでしょう。それぞれが持つやさしさに、専門的な知識や実践を乗せること、という結論を得た大会でした。

(たけうちまみ/たかはししんじ 広島国際大学大学院総合人間科学研究科医療福祉学専攻)


第31回総合リハビリテーション研究大会プログラム

第1日:8月29日(金)

【1】基調講演
山口昇氏(尾道市公立みつぎ総合病院・病院事業管理者)
『地域リハビリテーションと地域包括ケアシステム』
【2】情勢報告
松井亮輔氏(総合リハビリテーション研究大会常任委員長)
『リハビリテーション・インターナショナル(RI)をめぐる最新の動き』
【3】課題整理
關宏之副実行委員長と5つの分科会のコーディネーター

第2日:8月30日(土)

【4】分科会
1.【権利条約の行方】
コーディネーター:尾上浩二氏(特定非営利活動法人DPI日本会議事務局長)
 1)秋山邦子氏・阿部八重氏(さくら会代表)
 2)野沢和弘氏(毎日新聞社夕刊編集部長)
 3)東俊裕氏(元国連特別委員会日本政府代表団顧問・熊本県弁護士会)
2.【「生きにくさ」と向き合う】
コーディネーター:藤井克徳氏(総合リハビリテーション研究大会常任委員・日本障害者協議会常務理事)
 1)湯浅誠氏(「反貧困」著者,反貧困ネットワーク事務局長,NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)
 2)辻川圭乃氏(「プロテクション・アンド・アドボカシー大阪(P&A大阪)」代表・大阪弁護士会所属弁護士)
3.【共通言語としてのICF】
コーディネーター:大川弥生氏(国立長寿医療センター研究所生活機能賦活研究部部長)
 1)吉川一義氏(金沢大学人間社会研究域学校教育系教授)
 2)井上剛伸氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部部長)
4.【組織連携とコーディネート】
コーディネーター:橋本康男氏(元広島大学地域連携センター教授・広島県総務局国際課長)
 1)田川精二氏(くすの木クリニック院長・NPO法人大阪精神障害者雇用支援ネットワーク代表理事)
 2)村上須賀子氏(県立広島大学保健福祉学部教授)
 3)上田正之氏(庄原市社会福祉協議会総合センター長)
 4)藤井昭二氏(廿日市市自治振興部地域協働課長)
5.【社会資源の創造】
コーディネーター:森浩昭氏(「僕らのアトリエ」販売店代表)
 1)城貴志氏(滋賀県社会就労事業振興センター)
 2)宮本立史氏(株式会社山陰合同銀行北支店次長)
 3)寺尾文尚氏(社会福祉法人ひとは福祉会理事長)
 4)松浦真英氏(清光寺住職・NPO法人かみじまの風理事長)
【5】全体会 關宏之副実行委員長と5分科会のコーディネータによる総括