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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

わがまちの障害福祉計画 岐阜県多治見市

岐阜県多治見市長 古川雅典氏に聞く
行政はスピードと“見える、見せる福祉”化が重要

聞き手:森隆男(中京学院大学教授)


岐阜県多治見市基礎データ

◆面積:91.24平方キロメートル
◆人口:114,587人(2008年8月現在)
◆障害者の状況:(2008年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 4,471人
(知的障害)療育手帳所持者 793人
精神障害者保健福祉手帳所持者 326人
◆多治見市の概況:
岐阜県の南部に位置し、中山道をはじめ古くから東西交通の要衝として発展。近年は名古屋圏、東京圏との交通・輸送利便性が飛躍的に伸びる。美濃焼の主産地として知られ毎年、国際陶磁器フェスティバル、美濃陶磁展など催し物多数。セラミックパークなど大小の工房、ギャラリー、美術館が点在する。日本一の暑さを記念した市のマスコット「うながっぱ」は市の観光誘致に貢献。07年「多治見市バリアフリー適合証」の交付事業を開始。
◆問い合わせ:
多治見市健康福祉部健康福祉政策課
〒507―8703 多治見市日ノ出町2―15
TEL 0572―22―1111(代) FAX 0572―23―8577

▼多治見市は、昨年8月に日本最高気温40.9℃を記録して全国的に有名になりましたが、どういったまちでしょうか。

うれしいことに多治見はこの暑さでもって、全国に知れ渡りました。本市は、愛知県に隣接し、東濃地域では最も南部に位置し、古くから陶磁器、特に美濃焼が有名ですが、タイル、最近はセラミック産業を中心に繁栄してきた窯業のまちです。平成18年1月に旧笠原町と合併して、人口は11万人を越し、東濃地域の拠点都市となっています。鉄道や道路も整備され、また名古屋まで電車で30分という地の利を生かして名古屋圏のベッドタウンともなり、製造業やサービス業のウェイトも高くなっています。人口が10万人位の規模は行政規模としてはやりやすく、私は就任以来「人が元気!まちが元気!多治見」を標榜しております。

▼多治見市は障がい者福祉に熱心なまちという印象を受けるのですが、どのようなことをされているのでしょうか。

本市の障がい者地域生活支援は、岐阜県の中でも最先端を行っていると自負しています。全国に先駆けて、平成18年10月に「障害者自立支援条例」を制定して、市の責務で実施する地域生活支援事業の月額利用者の上限額を自立支援法に規定する額の2分の1にしました。つまり、1割の自己負担を半分にしました。また、19年4月からは授産施設利用者の利用料を全額助成する制度を設け、障がい者福祉の充実に努めています。しかし、自立支援法の見直しが行われれば、利用者の一部負担金の見直しも今後、考えていくことになろうかと思います。また、グループホーム3か所整備のため、市有地の無償貸与を決定しています。

▼本誌08年1月号の新春メッセージで古川市長は、就労支援に力を入れると書いておられますね。

一つは、これまで市の補助事業として障害者就労支援センターのNPO法人が行っていた就労支援事業を、平成20年4月からハローワーク多治見管轄区の3市1町の近隣自治体にまで対象を拡大し、事業委託化しました。これにより、就労を希望する障がい者の選択肢が増え、就労機会の拡大につながり、地域で自立した生活を送ることに少しでも役に立つかと思います。8月現在、15人の就労が内定しています。

二つめは、民間の授産施設が市の事業委託の一部を担うなどして企業内実習の場を提供するというものです。たとえば、多治見市役所周辺や多治見駅前の清掃、公用車の洗車、保健センター内の清掃、駐輪場の整理などです。それにより、障がい者が実際に働いているところを見てもらい、雇用に繋げるのです。いわば、「見える福祉、見せる福祉」化です。

福祉については、これまで長い間議論され、多くの計画が立てられてきましたが、今はそうした段階を通り越しそれを実践、実行することが重要です。職員にも常々言っているんです。「まずはやろうじゃないの」と。私は現場主義者ですから、行政が率先してやってみせることで、近隣の自治体や企業に影響を及ぼし、大きな説得力をもつことになるでしょう。市役所でも、もっと障がい者にできる仕事はないか、少しでもいいからそれを見つけようという努力をしています。シルバー人材センターにも呼びかけ、少しでも障がい者に就労の機会をシェアしてもらうことも検討しています。

伝統ある陶磁器産業などは障がい者雇用の受け皿になってほしいところですが、ただ今は陶磁器産業は厳しい状況にあるので難しいでしょう。

▼地方自治体はどこも財政的には厳しい状況にあると思われますが、多治見市はいかがですか。

福祉を推し進めるためには人々のハートも大事ですが、お金の面を無視するわけにはゆきません。多治見市も財政指数が0.77と、100万円使うところ77万円しか入ってこないという苦しい状況です。ちなみに、隣の愛知県は100万のところ110~120万円入ってくる裕福自治体です。

財政力のある自治体というのは、ものづくりが盛んです。そこで、本市としては、地場産業の活性化とともに、企業誘致に力を入れているところです。本市には工場団地がありません。土地がなかった訳ではないんですが、陶土を採掘した跡地が広大な空き地となっており、そこを工業団地として有効活用しようと考えています。立地条件としては良いので、企業からの問い合わせも多くある状況です。しかし、誘致の際に条件を付けます。汚水を出さないなど環境に配慮すること、正規雇用をすること、障がい者雇用をすること、の三つです。どのような企業でもいいというわけではないのです。必ずしも大企業がいいというわけでもありません。

▼今後の市の発展が望めるお話ですね。その他にこれは、という施策がおありですか。

本市では、第1期障害福祉計画(18年度~20年度)で、「おとどけセミナー」というものを実施しています。これは、障がい者団体や施設に市の職員が出向いて市の仕事や福祉制度などを知ってもらうよう説明するものです。うちの職員は忙しいんです。じっと座っていられない(笑)。

また、第2期障害者計画(17年度~21年度)では、毎年2回、13の障がい者団体と意見交換会を開き、当事者の方の意見を聞き、利用しやすいサービスの提供に努めています。今年度は第1期障害福祉計画の見直し時期にあたることから、より見やすく分かりやすくするために、二つの計画を併せて「第3期多治見市障がい者計画(21年度~23年度)」として一本化します。全市民を対象とした意見交換会を2回実施し、他にパブリックコメントやアンケート調査(1500人対象)を行い、障がい者施策の見直し、障害福祉サービスや地域生活支援のサービス量の目標値を検討して行くことにしています。

バリアフリー適合証は、心のバリアフリーを推進するため、市内の施設設置者への意識高揚を目的として、19年度から交付しています。

多治見市地域自立支援協議会は、18年10月に設置されました。今後の方向性としては、障がい福祉に関する相談支援を充実させていくため、個別支援会議などでは対応できない事例について各関係機関とのネットワークを通して、より実働的な支援体制を構築していきたいと思います。「NPO法人東濃成年後見センター」では、障がい者の権利侵害防止に取り組んでいますが、障がい(児)者の虐待防止については不十分なので、地域自立支援協議会のネットワークを活用した防止体制の構築が課題です。

▼先ほど古川市長が「福祉の推進には人々のハートも大事……」というお話をされましたが、福祉教育読本は良くできていると拝見しました。

小学生用「わたぼうし」は16年度から、中学生用「ひろがる」は14年度から、各学校に配布しています。これは、子どもたちが福祉について、身近なところからいろいろな工夫を見つけ出し、体験し、考えることにより、思いやりや共存のこころを培うことを目的としています。多治見に住んでいる障がい者や高齢者がどういうことを思い、どんな暮らしをしているのか、写真やコメント付きで登場しています。そして市内にはどういう施設があり、そこで働く人はどういう仕事をしているのかを理解し、自分が住んでいる多治見のまちを知り、好きになり、障がいのある人もない人も高齢者もいるのが当たり前でともに暮らしていきたいと思ってもらえればうれしいですね。

▼話が今後のことにもなってきましたが、多治見市では「障がい者生涯支援システム」というものをお考えのようですが、これはどういったものでしょうか。

これは、コーディネーターを配置して、障がいのある人の生活を生涯を通してサポートするために情報を一元化し、ライフステージに合わせた支援ができるシステムの構築です。具体的には、一つの相談所に行けば、保健・福祉・教育・医療・就労など障がいに関わるあらゆる部署からの円滑な支援を受けられるようにします。いわゆる行政の窓口を一本化するワンストップサービスです。それにより、窓口のたらい回しや無駄が省かれるでしょう。障がいの特徴や支援計画などの情報を一元的に管理し、関係部署と共有することで、療育から教育へ、教育から就労へのつながりを円滑に行うことができるようになります。もちろん、そのためには個人情報の取り扱い上の問題がありますので、本人や保護者の了解を得ることが前提になります。今まで、ばらばらにあったデータ(情報)を一つにする、いわば“単表”であったものを“巻物”にすることが重要なのです。23年度の運営を目指し、今年度は庁内検討委員会を設置し、21年度は障がい者団体や市民を含めた市民委員会を立ち上げる予定にしています。

多治見はNPOやNGO活動が盛んなところです。これは、行政からみれば“宝の山”と言えるもので、これからは団塊の世代のOB化・OG化が進んできます。そうした方々を重要な戦力として期待し、またそうした方々の協力を得ることも大事なことです。


(インタビューを終えて)

古川市長は、長らく多治見市議や岐阜県議をされてこられた方で、平成19年4月に市長に就任された昭和27年生まれの比較的若い市長である。地方行政に通暁し、福祉をはじめとした行政改革に大変意欲的な市長であり、「人が元気!まちが元気!多治見」を標榜するとおり、ご自身からも元気パワーが溢れ出す市長である。今後の福祉政策の展開にも大きな期待がもてると確信した。