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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

ほんの森

地域に活かす私たちの障害福祉計画
相談援助から築く自立支援システム

宗澤忠雄著

評者 平野方紹

中央法規
〒151―0053 渋谷区代々木2―27―4
定価 本体2,600円(税別)
TEL 03―3379―3861
FAX 03―5358―3719

2010年度からの第2期障害福祉計画へ向け、どの市町村も計画見直しに追われている。だが、第1期計画を見ても、数値を別にすれば内容に大差はなく、第2期計画の見直しを見ても、熱意を持って取り組んでいる市町村はわずかである。わが市町村の障害福祉の未来図を自分で描く障害福祉計画は、自治と分権の成果のはずだが、実態は「お仕着せ」になっている。

その根底にあるのは何か。筆者は次の3点をあげている。第1は、公的責任の不鮮明である。市町村の役割が曖昧(あいまい)な「市町村計画」という矛盾である。第2は、福祉そのものの機能の「見落とし」である。どうすれば障害者問題が解決できるのか、地域生活支援ができるのか、そんな福祉の根本を欠いたまま単にサービス量に汲々としている。そして第3は、自治と協働の欠落である。計画策定とその実施は、住民と行政の協働過程であり、その取り組みから自治が強化されるはずだが、そのプロセスが空洞化している。

いずれも今日の計画策定の問題点の正鵠を射るものである。こうした問題意識を持った筆者は、これまで埼玉県内で数多くの障害者計画、障害福祉計画に関わっており、特に政令市であるさいたま市では、計画策定とその実施、現場での相談援助の3面に関わってきた経歴から、極めて実践的に計画策定の問題を分析し、あるべき障害福祉計画とその策定の道筋を示している。本書の構成は、第1章で、福祉援助とは何か、公的役割とサービスのあり方を示し、第2章では、第1章を踏まえた市町村での計画策定の取り組みを具体的に述べ、第3章で、策定された計画遂行の軸となるケアマネジメントについて解説している。相談援助から始める計画論は異例であるが、ここに筆者の姿勢が伺われる。また、本書の特徴は、理念と実際の取り組みが「ほどよく」融合している点で、理論書でありながら実務書としての機能もしっかりと持っており、その内容は多くの市町村で活用できるものである。

本来の計画策定は、障害当事者や住民、行政が一緒になって、わがまちの福祉支援や援助を作り出す創造的な営みであるはずである。計画策定をただ批判するだけでなく、現実の取り組みから自治と協働の計画へと取り戻す、こんな主張に貫かれた本書を読んで、もう一度、計画策定に熱意を持って障害福祉計画策定に取り組むなら、素晴らしい計画ができる、そんなことを期待させてくれる、いまが「旬」の労作である。

(ひらのまさあき 日本社会事業大学准教授)