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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

ブックガイド

障害者権利条約で変えよう! 日本の社会-条約についてのお勧めの本

尾上浩二

読者の皆さんは、障害者権利条約をご存じでしょうか?

障害者権利条約は、2006年12月の国連総会で採択され、今年5月に批准国が20か国を超えて正式に発効しました。

この条約は、すべての障害者の権利を実現するためにつくられました。条約検討のために設けられた特別委員会には各国政府代表団に加えて、世界中から障害者の仲間が多数駆けつけました。参加した障害者は、自分たちの体験も踏まえて「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」と条約への意見を述べました。世界中の障害者が求めてできあがったのが、この条約なのです。

国際条約と聞くと、「遠い世界での出来事」「国と国の約束事」で、日々の生活とは縁遠いものとの印象があるかも分かりません。でも、障害者権利条約は障害者の声が反映されてつくられ、日々の生活を変えていく「新しい考え方」がたくさん盛り込まれています。

条約が採択されて2年近く経ち、障害者権利条約に関する本が出版されてきています。そのうち、何点かを紹介します。

1.『みんなちがってみんな一緒!障害者権利条約』日本障害フォーラム(JDF)編集・発行、500円(税込)

これは、日本障害フォーラム(以下、JDFと略)が編集・発行しているパンフレットです。JDFは主立った全国的な障害者団体で構成し、特別委員会には代表団を組織するとともに、現在批准に向け、日本政府との意見交換会や地域フォーラムを開催しています。

このパンフレットは、条約を広く普及することを目的に分かりやすさを第一に編集されており、黒柳徹子さん、鶴見俊輔さんも推薦されています。第一部の「権利条約って何?」は、Q&A形式で条約の概要が示されています。条約のポイントとして、障害とは何か、差別とは何か、合理的配慮とは何か、法的能力、参加とインクルージョン、言語としての手話といった点が的確に解説されています。さらに、第二部では主立った条約の項目が紹介されています。

2.『障害者権利条約で社会を変えたい』福祉新聞社編集・発行、500円(税込)

こちらは、福祉新聞社が編集・発行しているパンフレットです。週刊の「福祉新聞」では多岐にわたる福祉・医療関係の情報を取り上げていますが、障害者権利条約の取材・広報には力を入れています。

同紙の1面に2007年10月から2008年5月まで29回に渡って掲載された記事が、「連載編」としてまとめられています。条文やキーワードごとに、障害者、専門職、関係者、マスコミ、企業など、多様な人々が執筆しています。それぞれのテーマについて、深みをもって理解できます。また、「資料編」には、障害者権利条約の日本政府による仮訳、川島・長瀬氏による仮訳、JDFによるコメントの比較対照表が掲載されています。これはJDF作成の資料ですが、出版物として世に出るのは初めてです。

3.『障害者の権利条約でこう変わるQ&A』東俊裕監修、DPI日本会議編集、解放出版社発行、1470円(税込)

この本は、私も属しているDPI日本会議の編集による本で、条約採択後、最初に出版されました。国際組織であるDPIは、1981年の結成以来、一貫して障害の社会モデルを提唱し、障害者の差別撤廃と権利確立に向けた取り組みを推進してきました。

この本は21項目のQ&A形式で構成されています。執筆しているのは、身体、知的、精神障害や難病等の当事者に加えて、障害者の人権に関わってきた弁護士、研究者等です。条約の内容に照らしつつ、日本の障害者を取り巻く現状と課題がリアルに示されています。

監修に当たった東さんは、「はじめに」で、「日本の福祉がどのような現状にあるのかを、この新しい条約の視点から分析しなければなりません」と記しています。日本の国内法制度をどう変えていかなければならないかという問題意識で編集されています。

4.『障害者の権利条約と日本-概要と展望』長瀬修・東俊裕・川島聡編集、生活書院発行、2940円(税込)

最後に紹介するのは、専門書となります。障害者権利条約の草案の段階からフォローアップし、いち早く仮訳をつくられた長瀬さん、川島さんと、日本政府の代表団に顧問として加わった東さんの3人が編集されています。

この本では、編者を含む7人の執筆者による8本の論文が収められています。いずれの著者も条約の策定・交渉過程に現実に関わった第一人者で、各項目についての経過や背景、論点等が詳しく述べられています。

いきなりすべてを読むのは大変でしょうが、総論に当たる「障害者の権利条約の成立」だけでも一読されることをお勧めします。条約がどのようにつくられてきたのか、どういう推移で現在の条約としてまとまったのか、「歴史がつくられる瞬間」を追体験できる内容となっています。

ところで、日本政府は2007年9月に条約に賛意を示す署名は行いましたが、まだ批准はしていません。ぜひ、今回紹介した本がたくさんの方に読まれ、障害者権利条約の理解が広がり、各方面で活用されていくことを期待します。そして、日本で条約に見合った法制度の整備が行われて、晴れて批准ができることを望みます。その時には、きっと「権利条約でこう変えた!変わった!日本の社会」という本が紹介できることでしょう。

(おのうえこうじ DPI日本会議事務局長、JDF・障害者権利条約小委員長代理)

※1と2の書籍を購入される場合は、直接発行元にお問い合わせください。
日本障害フォーラム:TEL 03―5273―0601
福祉新聞社:TEL 03―3581―0431