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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年12月号

裁判員制度と精神障害者の参加について

有村律子

裁判員制度は、2009年5月21日にスタートします。

現在、各地方裁判所では模擬裁判を実施しています。障害のある人が参加した模擬裁判の状況は、以下のとおりです。

2007年6月7日~8日 長野地方裁判所で肢体不自由者。

2008年6月23日~24日 広島地方裁判所で視覚障害者。

2008年7月17日~18日 東京地方裁判所で視覚障害者と聴覚障害者参加の裁判が2か所で別々に実施。

2008年9月29日 京都地方裁判所で聴覚障害者。

2008年10月8日~10日 仙台地方裁判所で視覚障害者。

裁判員制度

裁判員裁判の1日のスケジュールは、9時30分~17時頃までだそうです。

裁判員候補者や裁判員等になって裁判所に行った人には、日当や交通費が支払われ、裁判所から家が遠いなどの理由で宿泊しなければならない場合には、宿泊料も支払われます。

日当の具体的な金額は、裁判員候補者は1日あたり8000円以内、裁判員および補充裁判員に選ばれた人は1日あたり1万円以内で選任手続や審理等の時間に応じて決められます。なお、日当などは、事前に知らせておいた預貯金口座に振り込まれます。

裁判員に選ばれると、他の5人の裁判員と3人の裁判官と一緒に刑事裁判の審理に出席し、証人尋問や被告人質問といった証拠調べ手続や、検察官や弁護人の主張を聴く弁論手続に立ち会います。その上で評議において裁判官と対等の立場で議論をし、お互いに自分の意見を述べるとともに、お互いの意見をよく聞いて議論を尽くして、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合はどのような刑にするかを決めることになります。評議を尽くしても全員の意見が一致しなかった時は、多数決で結論を出します。

たとえば目撃者の証言などに基づいて被告人が被害者をナイフで刺したかどうか判断することは、みなさんが日常生活におけるいろいろな情報に基づいて、ある事実があったかなかったか判断していることと基本的に同じであり、特に法律知識は必要ありません。なお、有罪か無罪かの判断の前提として法律知識が必要な場合は裁判官から分かりやすく説明されるので、心配ありません。

法律上、裁判員は、事件について裁判官と一緒に議論(評議)する際に意見を述べなければならないとされています。評議において一つの結論を出すためには、そのメンバーである裁判員と裁判官が、それぞれの意見を述べることが不可欠だからです。

もっとも評議においては、すべての問題点について一度にまとまった意見を述べなければならないわけではなく、自由に自分の気付いたところから意見を述べて議論に参加すればよいのです。もちろん、意見を変えることも自由です。裁判長も必要な法令に関する質問をていねいに行い、分かりやすく評議を整理し、裁判員が発言する機会を十分に確保するなどして、裁判員の方が自分の意見を十分に言えるように配慮します。

裁判員には守秘義務があります。証人尋問の内容など公開の法廷で見聞きしたことや裁判員として裁判に参加した経験や感想であれば、基本的に話しても大丈夫です。逆にもらしてはいけないことは、評議の秘密と評議以外の裁判員としての職務を行うに際して知った秘密です。裁判員の守秘義務は、裁判員としての役目が終わった後も守らなくてはならず、この義務に違反した場合、刑罰が科せられることがあります。

裁判員として参加するには

裁判員になる条件は、衆議院選挙人名簿に記載されていることです。しかし、成年後見制度を使っている精神障害者は名簿に記載されていないので裁判員にはなれないのです。安心して地域生活をしようと考えて後見制度を利用した人も参加できる制度であってほしいと思います。

それから精神障害者のことをよく理解していただきたいと思います。精神障害者と一言でいっても、その範囲は広く、統合失調症、双極性障害(躁うつ病)、うつ病、パニック障害、強迫神経症、アルコール依存症、薬物依存症、てんかんも精神保健福祉法の附帯決議に記載されています。

精神障害者が裁判員に選ばれた場合、周りの人の理解が必要です。たとえば安定剤を飲んでいる人はのどが乾くので飲み物を用意する必要があります。また、睡眠剤を飲んでいる人が多いので決められた朝の時間に裁判所に行かなくてはならないことは大変なことです。中には睡眠障害の方もいます。小さな物音がしただけで目が覚めて眠れなくなり、眠れないので頓服を飲む人もいます。そうすると生活のリズムが狂ってきて、9時30分の裁判開始に間に合わない時も出てきます。

裁判所に行くために、ラッシュの時間帯に電車に乗らなければならない時もあります。混み合う中を立って何日か通うのは疲れやすい精神障害者には負担が大きいです。仮に座れたとしても集中して裁判が行われるときついでしょう。

精神障害者は疲れやすい傾向にあります。しかし、ストレスを軽減したり、体調管理ができていれば裁判員としての役割を果たすことができると思っています。ゆったりしたスケジュールにする配慮とか、その人の状態に合わせた配慮を望みます。

(ありむらりつこ 全国精神障害者団体連合会常務理事)

【参考文献】

『よくわかる!裁判員制度Q&A』最高裁判所、2008年9月第2版発行