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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年12月号

列島縦断ネットワーキング【愛媛】

過疎高齢化産業低迷地域における障害者雇用促進
~地域振興と障害者雇用促進をミッションとした社会的企業の取り組み~

須田竜太

はじめに

愛媛県南宇和郡愛南町(以下、当地域)は愛媛県の最南端に位置し、人口は約2万6000人、ここ10年で4500人以上の人口減少が進んでいる。高齢化率は30%を超え、深刻な過疎高齢化の問題を抱えている。主要産業である農業(柑橘類)、漁業、海産業(養殖、真珠など)が低迷している上に、大企業の撤退と下請け会社の倒産が相次ぎ、有効求人倍率は地方都市である宇和島市を含めても0.5%前後と全国平均の約半分程度で、障がい者雇用はおろか、地域住民の雇用の場も大幅に減少している産業低迷地域である。

自家用車でハローワークまで1時間、地域障害者職業センターまで3時間、という地理的条件から障がい者が就労支援サービスに直接アクセスしにくい現状がある。また、町内に社会適応訓練事業が1か所と就労継続支援B型事業所が1か所あるが、B型事業所に関しては工賃が月額1万円に満たず、障がい者の就労に関するサポート体制が皆無の状態である。

しかし、当地域では1970年代から地域精神保健医療福祉活動を核とした住民ネットワークが醸成されており、医療、福祉、行政、農業、漁業、事業主、起業家、教育関係者、障がい当事者などさまざまな人材が「共に生きる街」を目指して協働し活動を続けている。障がい者も医療福祉職もボランティアも同じ地域住民として活動を重ね、支援する人―される人という関係を作りださないよう工夫を重ねてきた。この住民ネットワークの中で、当地域の振興と障がい者の雇用促進を目的とした事業が展開されている。

地域住民ネットワーク活動の歩み

当地域の住民ネットワークの特徴としては、社会復帰施設平山寮の活動を原点とし、地域精神保健医療福祉活動を核とした住民ネットワークが醸成されていることである。当地域の基盤となる住民ネットワークの主な経過は、下の表のとおりである。※1

1960年代 御荘保健所を中心に保健医療の連携が進む
1974年 社会復帰施設平山寮(共同住居)開設
1978年 精神障害者地域家族会「たちばな」発足
1981年 小規模作業所「たちばな」設立
1986年 南宇和精神衛生を考える会発足
1989年 南宇和精神障害者の社会参加を進める会発足
1992年 「進める会」内に職親会ができるが継続できず
1995年 「考える会」が南宇和こころの健康を考える会に改称
1996年 「進める会」南宇和福祉リサイクル活動開始
1996年 なんぐん地域ケア研究会(南宇和郡医師会主催)が発足
1997年 ありんこくらぶ(障害を持つ子とその親、支援者の会)が発足
2000年 障害者と共に働く夢の常設店「ハート in ハートなんぐん市場」(リサイクルショップ)をオープン(2004年10月 5か町村が合併して愛南町が誕生)
2004年 愛南町ボランティア連絡会が商店街の空き店舗を活用して、地域交流センタープラザじょうへんをオープン
2005年 「進める会」が観葉植物レンタル事業を開始
2006年 「進める会」が三障害の会に。南宇和障害者の社会参加を進める会に改名
2006年9月 NPO法人ハート in ハートなんぐん市場設立
2006年10月 愛南町が障害者自立支援調査研究プロジェクトを実施。当法人が受託を受け、行政と一体になって実施
2006年12月 当法人が町の観光福祉施設「山出憩いの里温泉」の2007年4月からの指定管理者に決定

事業経過

2000年に障がい者の雇用創出を目的としたリサイクルショップが住民主導で立ち上がる。地域の不用になった家具等を回収し常設店にて販売を行う。2005年12月には観葉植物のレンタル事業を立ち上げる。月1回の交換を基本とし、店舗や事務所、行政機関等に観葉植物の貸出を行いレンタル料をいただくシステムである。2006年9月に任意団体からNPO法人化(以下、当法人)する。2007年4月から町営の温泉施設(山出憩いの里温泉)の受託運営を指定管理者制度にて開始。温泉以外にもレストラン、宿泊施設、キャンプ場、自然公園が併設されており、観光福祉施設として愛南町が運営していたこれらの施設を当法人が指定管理者として受託。またほぼ同時に、障害者自立支援法における就労継続支援A型事業もスタートする。

事業概要

現在、当法人はエコテリアなんぐん市場(就労継続支援A型事業、観葉植物のレンタル事業)とエコヴィレッジなんぐん市場(指定管理者制度による「山出憩いの里温泉」の受託運営事業)の2事業部を展開し、障がい者14人(知的4人、身体1名、精神9人)、地域住民15人、合計29人を雇用している。

第3の働き方を模索する仕組み

一般企業ではなく、福祉的就労の場でもない、第3の働き方を模索する、地域振興と障がい者雇用促進をミッションとした事業型NPO(社会的企業)を運営するにあたり、さまざまな仕組みが張りめぐらされている。

安定した運営基盤確立の仕組みとして、収益事業のほかに公益事業(就労継続支援A型事業)を活用し、障がい者雇用における経営リスクの軽減を図っている。

支援する側―される側という関係性ではなく、住民として(労働者として)対等な関係性を堅持する仕組み(ノーマライゼーションの仕組み)として、サービス管理責任者以外に福祉専門スタッフを配置せず、職場環境に就労継続支援事業を持ち込まないことを徹底している。

また採用手順をハローワーク経由に統一し、就労継続支援A型事業を活用するにあたり発生する利用料の減免措置を実施、障がいの有無に関わらず雇用条件を統一している。

利益の再投資の仕組みとして、法人形態を特定非営利活動法人にし、役員報酬を作らないようにしている。

また地域振興策として、地元農産物、海産物の活用による地産地消の促進や利益再投資による地域住民の雇用創出に取り組んでいる。地域住民参画の仕組みとして、地域住民を主体とした運営委員会を設置し定期的な協議を行っている。ビジネス手法も活用し、税理士、社会保険労務士、観光コンサルタント、WEBデザイナーなどへのアウトソーシングを実施、BSCを活用している。

このように、ノーマライゼーションをキーワードに、地域振興と障がい者の働く場の創出を共に進めていく社会的企業を目指しているのが、住民ネットワークの取り組みの特徴である。

まとめ

指定管理者制度や障害者自立支援法など分野を超えたさまざまな制度を活用することによって、当地域のような過疎高齢化産業低迷地域においても地域振興と障がい者雇用促進をミッションとした社会的企業の取り組みを進めることができた。しかしこの取り組みはまだ緒に就いたばかりで、今後継続的にミッションを果たしていくことが使命となる。並行して、地域振興と障がい者雇用促進の両面から効果を測定していくことも必要であろう。また全国で6万か所を超える、指定管理者制度で民間委託されている施設が障がい者雇用分野と連携すること、ネットワークを作り、ノウハウの共有を図ることも今後の課題として挙げられる。最後に、この取り組みが経営的に成り立つことを実証することが、私たちに課せられた大きな使命であると思っている。

(すだりゅうた 平山寮施設長)

【引用文献】

※1 平成18年度厚生労働省障害者自立支援調査研究プロジェクト「過疎高齢化、産業低迷地域における障害者就労支援の実践的研究」実施報告より

【参考文献】

社会復帰施設「平山寮」