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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年1月号

「障害者の政治参加」について

鈴木孝幸

視覚障害のある人が、政治に参加する時、いくつかの問題があると考えられている。まずは、今後日本としても批准するであろう「障害者の権利に関する条約」ではどのように規定しているかを見てみたい。権利条約の第29条に「政治的及び公的活動への参加」として次のことがうたわれている。

締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者と平等にこの権利を享受する機会を保障するものとし、次のことを約束する。

(a)特に次のことを行うことにより、障害者が、直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、他の者と平等に政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害者が投票し、及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。

(i)投票の手続、設備及び資料が適当であり、利用可能であり、並びにその理解及び使用が容易であることを確保すること。

(ii)適当な場合には技術支援及び新たな技術の使用を容易にすることにより、障害者が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票によって投票する権利並びに選挙に立候補する権利並びに政府のあらゆる段階において効果的に在職し、及びあらゆる公務を遂行する権利を保護すること。

(iii)選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため、必要な場合には、障害者の要請に応じて当該障害者が選択する者が投票の際に援助することを認めること。

(b)障害者が、差別なしに、かつ、他の者と平等に政治に効果的かつ完全に参加することができる環境を積極的に促進し、及び政治への障害者の参加を奨励すること。政治への参加には、次のことを含む。

(i)国の公的及び政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体に参加し、並びに政党の活動及び運営に参加すること。

(ii)国際、国内、地域及び地方の各段階において障害者を代表するための組織を結成し、並びにこれに参加すること。

とされている。

今から84年前に遡(さかのぼ)るが、大正14年(1925年)衆議院議員選挙法が大改正され、この時、すでに「点字での投票」が認められている。まだ女性や20歳以上の全員に選挙権が与えられていない時に、すでに点字での投票が認められていたことは驚きである。まして、日本に点字が伝わってからわずか35年しか経っていないことを踏まえると、当時としては画期的な内容であったと言えるのではないだろうか。

視覚障害者の国政における選挙公報については、長年にわたり地域の点字図書館や点訳ボランティア、音訳ボランティアによって、点字化、音声化が実施され、今日(こんにち)まで続いている。しかし、これはいわゆる「選挙のお知らせ」であって「選挙公報」ではない。それは選挙管理委員会が発行するものだけを「選挙公報」とするからである。

平成19年(2007年)に初めて全国的に統一された「参議院議員選挙のお知らせ」が視覚障害者に対して発行された。これは、日本盲人福祉委員会の「選挙情報プロジェクト」が担当し、各種媒体による作成を行った。各種媒体とは、点字、録音(テープ)、拡大文字(音声コード付き)の3種類である。それぞれ日本盲人福祉委員会に所属している関係機関が手分けをして作成しているのが現状である。

それでは、なぜ点字や録音での「選挙公報」ができないのだろうか。公職選挙法に、選挙公報の発行手続の項目で、第169条第2項において次の記載がある。

第2項(中略)申請又は前項の掲載文の写しの送付があったときは、掲載文又はその写しを、原文のまま選挙公報に掲載しなければならない、と書かれている。この「原文のまま」というところが、点字や録音での選挙公報の発行を阻害しているところである。

また、個人演説会などにおいても、第164条の4において形式は違っていても「録音テープの使用」について認めている。さらに、選挙公報の発行に当たっては、第167条で、公職の候補者の氏名、経歴、政見等を掲載した選挙公報を、1回発行しなければならない、と義務付けされている。

加えて、選挙公報の配布にあっては、第170条第2項で、選挙人が選挙公報を容易に入手することができるよう努めなければならない、と努力義務もうたわれている。

そうすると、現在行われている、各種媒体での発行は選挙管理委員会並びに中央選挙管理会が行うべきものであるといえる。しかし、これらの作成技術がないことは明らかであるため、選挙管理委員会等が作成できる機関に依頼し発行すべきであると考えている。

それでは選ばれる側に立った場合の問題点は何があるのか。現在全国に視覚障害のある議員は14人(2006年5月現在)であり、その現職議員や元議員が「視覚障害者議員ネットワーク」を構成し、連携を取りながら政治活動を進めている。議会での膨大な資料や議長や委員長になった時の採決による人数の確認など、視覚障害のない議員と比べると苦労は多いといえる。

冒頭で示した権利条約が批准されることにより、視覚障害のある国民や議員に対してもさまざまな合理的配慮がなされ議員活動も行いやすくなることが考えられる。

最後になるが、さまざまな問題を抱えている「公職選挙法」について、議員の方々が自分が選挙公報に掲載した内容が視覚障害者に届いていないことをどのように捉えるのか。国民・市民としての視覚障害者たちに広く知ってもらうためにはどのようにしたらよいか。これらを踏まえて議員自身が法律の改正に乗り出す時ではないかと考える。

(すずきたかゆき 日本盲人会連合情報部)