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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者施策の在り方に係る検討について

神林浩

1 検討の背景

平成16年6月に障害者基本法の一部を改正する法律(平成16年法律第80号)が公布され、同法附則第3条においては、「政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律による改正後の規定の実施状況、障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、障害者に関する施策の在り方についての検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されたところです。

平成21年6月には、前記改正後5年となることから、障害者施策推進本部の下に設置された障害者施策推進課長会議においては、昨年6月から、この規定を踏まえ、

1.これまでの障害者施策が障害者基本法の趣旨及び規定どおりに実施されてきたか。特に、障害者基本計画(平成14年12月24日閣議決定)及び重点施策実施5か年計画(平成14年12月24日障害者施策推進本部決定)に基づく施策は計画どおり実施されてきたか。

2.施策の実施状況を踏まえ、障害者施策にはどのような課題があるか。また、どのような措置が必要となるか。

3.障害者の権利に関する条約(仮称)の締結に際して、障害者基本法に関しどのような措置が必要となるか。

の各視点から検討を行ってきました。

これらの検討に当たっては、障害のある人またはそのご家族等延べ46の個人及び団体からの意見聴取を行うとともに、中央障害者施策推進協議会及び障害者施策推進本部参与会においてご議論をいただきました。

以上の検討を踏まえ、昨年12月26日に障害者施策推進課長会議において「障害者施策の在り方についての検討結果について」として取りまとめましたので、その概要についてご説明します。

検討結果の全文については、内閣府のホームページ(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kacho_hearing/index.html)に掲載しておりますので、ご参照ください。

2 障害者基本法の実施状況等

障害者基本法の実施状況等の概要については資料1のとおりであり、わが国の障害者施策は、法制面、予算面での各種取組等を通じて、障害の有無にかかわらず、国民だれもが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現に向けて着実に推進されてきています。

今後とも、障害者基本計画及び新たな重点施策実施5か年計画(平成19年12月25日障害者施策推進本部決定)等に基づき、障害者施策の総合的かつ計画的な推進を図って参ります。

障害者基本法の実施状況等 ≪資料1

障害者施策は、障害者基本法並びにこれに基づく障害者基本計画及び重点施策実施5か年計画等により、「共生社会」の実現に向けて着実に推進されてきている。
主な法制度の制定・改正等 障害者施策関係予算の推移
☆発達障害者に対する生活全般にわたる支援の促進等を図るための「発達障害者支援法」の制定(平成16年12月成立)
☆精神障害者に対する雇用対策の強化等を行うための「障害者の雇用の促進等に関する法律」の一部改正(平成17年6月成立)
☆障害者が地域で安心して暮らすことができるよう、障害福祉サービスを質・量共に充実すること等を目的とした「障害者自立支援法」の制定(平成17年10月成立)
☆公共交通機関、道路、建築物等の一体的・総合的なバリアフリー化の促進等を内容とする「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)の制定(平成18年6月成立)
☆複数の障害に対応した教育を行うことのできる特別支援学校の制度化等を行うための「学校教育法」等の一部改正(平成18年6月成立)
☆教育の機会均等に係る規定に障害者の教育に係る支援を盛り込んだ「教育基本法」の全面的改正(平成18年12月成立)
☆障害者の権利及び尊厳を保護し、及び促進するための包括的かつ総合的な国際条約である「障害者の権利に関する条約」(仮称)の署名(平成19年9月)
☆中小企業における障害者雇用の促進を図るとともに、短時間労働に対応した雇用率制度の見直し等を行うための「障害者の雇用の促進等に関する法律」の一部改正(平成20年12月成立)
単位:億円 (注)障害者施策関係の額を特定できるものついての会計額である。
年度 予算額
平成16年度 12,985
平成17年度 13,324
平成18年度 13,762
平成19年度 14,896
平成20年度 15,500
※詳細については、内閣府ホームページを参照してください。
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kacho_hearing/index.html

3 障害者施策における課題と対応

障害者施策にはどのような課題があるか、また、どのような措置が必要となるかの検討に当たり、障害のある人またはそのご家族等延べ46の個人及び団体からの意見聴取を行うとともに、中央障害者施策推進協議会及び障害者施策推進本部参与会においてご議論をいただいた結果、198項目の課題が明らかとなりました。

各施策分野における課題及びその対応の概要は、資料2のとおりです。

今後とも、新たな重点施策実施5か年計画等に基づき、障害者施策の着実な推進を図って参ります。

障害者施策における課題と対応 ≪資料2

障害者施策の在り方に関し、意見聴取の過程で指摘された課題とその対応の概況は、以下のとおりである。
  課題 対応
措置済み・措置予定 検討中 その他
新重点施策実施5か年計画関連 その他
啓発・広報 啓発活動の継続実施、発達障害の社会的理解の向上、行政・マスコミが一体となった啓発の取組み等 20項目 18項目 2項目    
生活支援 障害者自立支援法の見直し、地域社会における相談支援体制の整備、在宅サービス・施設サービスの充実等 47項目 29項目 15項目   3項目
生活環境 精神障害者の特性に配慮した地域防災ネットワークの確立、運賃割引サービス対象の拡大等 7項目 2項目 4項目   1項目
教育・育成 個別の支援計画の作成・活用の推進、発達障害児に対する教育の充実等 51項目 19項目 27項目 5項目  
雇用・就業 公的機関における知的障害者の雇用促進、教育委員会での雇用率の遵守等 30項目 17項目 9項目 1項目 3項目
保健・医療 発達障害についてのデータ収集、精神障害者の地域医療体制の整備、精神保健福祉士の教育・育成等 22項目 6項目 8項目 7項目 1項目
情報・コミュニケーション 表現の平易化、ルビふり等わかりやすい広報の推進、コミュニケーション関連機器の貸与等 10項目 7項目 1項目 1項目 1項目
国際協力 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)への支援、障害者権利条約の早期締結等 4項目 3項目 1項目    
その他 障害者虐待防止法の制定、障害関連予算の引き上げ等 7項目   5項目 1項目 1項目
合計 198項目 101項目 72項目 15項目 10項目
※一部措置済み・措置予定のものを含む。
※詳細については、内閣府ホームページを参照してください。(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kacho_hearing/index.html

4 障害者権利条約の締結に際し必要と考えられる障害者基本法の改正事項

平成19年12月に策定された新たな重点施策実施5か年計画においては、「障害者権利条約の可能な限り早期の締結を目指して必要な国内法令の整備を図る」こととしています。

障害者権利条約においては、障害を理由とする差別の定義として「合理的配慮の否定」という新たな概念を含むことが規定されるとともに、障害のある人等の関与・参加の下、条約の実施の促進、保護、監視を行う枠組み等を設けることを求めています。

一方、障害者基本法においては、障害を理由とする差別の禁止に係る基本的理念、国・地方公共団体及び国民の責務等が規定されています。

障害者施策推進課長会議においては、障害者権利条約の締結に際し、障害者基本法について、どのような措置が必要となるか検討し、その結果、同条約の締結に際し必要と考えられる改正事項を以下のとおり整理しました。

(1)差別の定義を新たに設け、差別について類型的に記載する。

(2)(1)の定義においては、「合理的配慮の否定」が差別に含まれることを明記する。

(3)基本的理念として規定された差別の禁止について、(2)を踏まえたものとする。

(4)国及び地方公共団体の責務として規定された差別の防止について、(2)を踏まえたものとする。

(5)国民の理解のために、(1)及び(2)において定義された差別に該当するおそれのある事例を国が収集し、公表することとする。

(6)国民の責務における差別防止の努力について、(2)を踏まえたものとする。

(7)中央障害者施策推進協議会について、障害者基本計画の作成及び変更の際の意見聴取に加えて、障害者施策に関する調査審議、意見具申及び施策の実施状況の監視等の所掌事務を追加する。

(8)中央障害者施策推進協議会について、関係行政機関に対する資料提出等の協力の要請ができることとする。

なお、障害のある人等からの意見聴取において、障害者基本法の改正に関し、資料3―1及び資料3―2に掲げるご意見をいただいています。これらの意見の中には、障害者権利条約の締結に当たって必要と考えられる改正事項(前述の(1)~(8))には該当しないものも含まれています。

障害者基本法に係る障害のある人等からの意見 ≪資料3―1

障害者の定義
  • 障害者権利条約の規定を十分に考慮し、障害がすべての種類の機能障害に関連するもので、態度及び環境の障壁との相互作用から生じるという観点を含めること。
  • 発達障害を明確に位置付けること。
差別の定義
  • 合理的配慮について、あらゆる分野に関わる重要な概念として、明確な定義づけを行うこと。
基本的理念
  • 「すべて障害者は、あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる」(第3条第2項)は恩恵的な規定であるので、「あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されなければならない」と変更すること。
  • 障害者の差別禁止については、障害者基本法の差別禁止条項の見直しに留まらず、裁判規範性を持つ独立した「障害者差別禁止法」を制定すること。
国及び地方公共団体の責務、国民の責務
  • 国及び地方公共団体の責務として、事業者が合理的配慮を実施することができるための財政的支援を含む必要な措置を行うことを明記すること。
  • 事業者の責務として、合理的配慮の提供を含む必要な施策、支援を義務付ける規定を明記すること。
施策の基本方針
  • 第8条第2項の「可能な限り」を削除し、原則として、地域生活を送るに当たって必要なサービスや支援を受けることができるようにすること。
医療、介護等
  • 在宅生活を希望する場合には、それに必要なホームヘルプサービスがきちんと利用できるように、支給決定とサービス提供基盤の両面で条件整備を行うことを明記すること。
  • 本人の意向に反して、ケアホームや入所施設などの特定の生活様式を強いられることがないようにすることを明記すること。
※詳細については、内閣府ホームページを参照してください。(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kacho_hearing/index.html

障害者基本法に係る障害のある人等からの意見 ≪資料3―2

職業相談等、雇用の促進等
  • 雇用に関するすべての事項に関する差別の禁止と、苦情手続等による権利保護に関する措置の必要性を明記すること。
  • 作業所や授産施設等から一般雇用への移行を図るための適切な措置の必要性を明記すること。
  • 小規模作業所に対する支援について規定すること。
情報の利用におけるバリアフリー化
  • 手話を言語として位置付け、言語的な処遇を行うこと。
相談等
  • 障害者権利条約ではすべての障害者に法的能力を認めることとなっていることを踏まえ、成年後見制度に係る規定(第20条)を削除すること。
  • 差別等を具体的に救済する独立した人権救済機関の設置について明記すること。
障害の予防
  • 障害はあってはならず、治療しなければならないものという障害観が色濃く反映されているので、「障害の予防に関する基本的施策」(第3章標題)、「早期発見及び早期治療」(第23条第2項)を削除等すること。
障害者施策推進協議会
  • 障害者施策推進協議会の位置付けと役割、当事者参画について、障害者権利条約上の独立した仕組みによるモニタリングの役割を担うため、特別の機関を内閣府に設置すること。
その他
  • 障害者施策の策定とその評価は、一般国民の生活実態との比較が可能となる障害者の生活実態調査を踏まえて行われるものとすることを明記すること。
※詳細については、内閣府ホームページを参照してください。(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kacho_hearing/index.html

以上の検討結果を踏まえ、政府としては、障害者基本法について、障害者権利条約の早期締結に向け、4の(1)から(8)までに掲げる改正事項を盛り込むことが適当と考えています。

障害者基本法は、これまで議員立法によって制定・改正がなされてきたところであり、今後、国会における障害者基本法の見直しに向けた議論を注視しつつ、必要な協力を行っていくこととしています。

(かんばやしひろし 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)付参事官補佐)