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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者基本法の改正に望むこと

金政玉

DPI日本会議では、昨年9月、障害者基本法の見直しがどのように行われるのかは、障害者権利条約(以下、「条約」と略)に基づく国内法整備の方向性を大きく左右することにつながるという観点から、以下の10項目の要望事項を提出した。

1.「障害者基本法の見直し」の基本的視点として、条約において合意された各条文の解釈に基づき、関連法令の整備を行う際に拘束力をもつ見直しの方向づけがなされること。

2.障害の定義(障害者基本法[以下、同じ]第2条)では、条約が明記している「種々の障壁と相互に作用する」環境的要因との関係に着目した見直しを行うこと。

3.差別の禁止(第3条の3)については、特に条約の「障害に基づく差別」(第2条の定義)を踏まえて、直接差別、間接差別、合理的配慮の欠如を含めた裁判規範性のある解釈ができるものであること。それとともに、差別を受けたときの実効性ある権利救済の仕組みを明記し、実定法としての差別禁止法の法制化を強く促すこと。

4.基本的理念(第3条の2)の「すべて障害者は、……あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」の「与えられる」という恩恵的な文言を削除し、「あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されなければならない」とすること。

5.施策の基本方針(第8条の2)については、条約の第19条(自立した生活及び地域社会へのインクルージョン)を踏まえて、障害のある人が地域で暮らす権利を有し、居所や生活様式等については(市民的権利として)本人が選ぶ機会を有し、必要なサービスや支援を得ることができることを明示すること。

6.「障害の予防」(第3章のタイトル及び第23条の1と2)の文言は、障害はあってはならず治療しなければならないものという否定的な障害観が色濃く反映されているため基本的に削除すること。

7.「障害者の福祉に関する基本的施策」(第2章)で明示されている努力規定の限界を踏まえ、事業者の責務として、障害の特性やニーズを踏まえた「合理的配慮の提供」を含む必要な施策、支援を義務づける規定を明記すること。

8.教育(第14条)は、条約(第24条)で明記されているように、基本的には障害のある児童・生徒が本人の生活している地域社会において、障害のない児童・生徒と一緒に教育を受けるための合理的配慮の提供や支援措置等の条件整備のを方向性を明確にすること。

9.雇用の促進等(第16条)は、条約(第27条)で明記されている雇用に係るすべての事項に関する差別の禁止と苦情手続等による権利の保護に関する措置の必要性を明示し、一般雇用に位置づけられていない作業所や授産施設等の「作業活動」や「職業訓練」を一般雇用に移行することの必要性を明示すること。

10.中央及び地方障害者施策推進協議会の位置づけと役割、当事者参画については、条約の第33条(国内実施及び監視[モニタリング])の「独立した仕組み」に基づくモニタリングの役割を担うため、関係省庁との総合調整機能の権限をもつ特別機関を内閣府の外局として設置する方向で改編すること。

「主な改正事項」の課題

昨年11月の第5回中障協(中央障害者施策推進協議会)において報告された「障害者施策の在り方等に係る検討状況について」では、「障害者の権利に関する条約」(仮称)の締結に際し、障害者基本法について考えられる主な改正事項」(以下、「主な改正事項」と略)が示された。「主な改正事項」において、「定義」「基本的理念」関係で「差別行為」と「合理的配慮の否定」と、それに係る「差別行為等の禁止」が明示されたことは、条約との関連で一定の評価はできるが、改めて検討が必要な課題も明らかになった。

第一に「国・地方公共団体の責務関係」では「差別行為の防止義務」が明示されているが、この「防止義務」の中に差別や人権侵害を受けたときの権利救済の仕組みの設置義務が含まれているのかが不明である。障害者差別禁止法の制定には、権利救済の仕組みは欠かせない。実効性のある「差別行為の防止義務」が明確にされる必要がある。

第二に基本法に関係する個別実定法の根拠となる「障害者の福祉に関する基本的施策」(第2章)については、まったく言及がされていない。現行の「第2章」は、軒並み「国及び地方公共団体」「事業者」が法文上の主語になり、それぞれの努力義務を定めている。

つまり「国及び地方公共団体」または「事業者」が主体であり、基本法の当事者であるはずの「障害者」が客体に位置づけられた「障害者施策の促進法」枠内で、事業者などに対して抽象的な努力義務を課すことにとどまっているため、教育や雇用等の関係する個別実定法に対して明確な拘束力を持てない要因になっている。このままでは、障害のある人が権利の主体であるとする条約のコンセプトと大きな齟齬(そご)が生じることになる。

第三に中障協の運営の在り方に関する問題である。「主な改正事項」では、「障害者施策に関する調査審議、意見具申、実施状況の監視等の所掌事務の追加」と「関係行政機関に対する資料の提出等の協力要請」が明示されているが、肝心なのは、条約の「国内実施及び監視[モニタリング]」(第33条)で明記されている「独立した仕組み」と「当事者参画」がどのように確保されるのかという点である。その点が曖昧なままでは、「意見具申」「監視」という言葉を並べても実効性が疑わしい。条約の国内実施を監視するための要を担う恒常的な運営体制をつくるためには、「独立性」と「当事者参画」を基本に据えて検討していくことが必要である。

(きむじょんおく DPI日本会議事務局次長)