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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

施設からの地域移行を推進する立場から

水流源彦

1 はじめに

平成21年4月からの障害福祉サービス費用(報酬)5.1%のアップ、というニュースに、関係者は少なからず期待を寄せている。ここでいう関係者の多くは事業者を指す。せっかくの報酬アップ、しっかりと利用者へ還元されるといいが、そのためには、行政、事業者は改めて、障害者自立支援法の目的を読み込みなおす必要がある。

「第一章 総則 (目的)第一条 この法律は、~中略~障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。」

2 地域移行と新体系移行は同義語

今回の予算確保は、「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」のための予算確保と信じてやまない。

「障害者の自立生活を支援するための施策の推進」における「良質な福祉サービスの確保」の具体策として、ホームヘルプ、グループホーム等の地域社会で安心して暮らすことを支えるためのサービスへの手厚い報酬体系は重要である。しかしながら、旧事業体系から新事業体系への移行済みの事業所が3割程度という現実、ならびに入所施設等からの地域移行の実数を鑑(かんが)みると、新体系に移行しやすいように報酬単価のバランスをよくする(インセンティブを高める)ことも重要であるが、報酬の額だけで動く事業者が、実質的にいかに多いか、ということを実感せざるを得ないことになるであろう。

旧体系の事業所を、また、入所施設の存在を、否定するつもりはない。しかしながら、そこを利用する障害のある人たちの立場に立ったとき、丁寧な体験を伴う具体的な選択肢が示されさえすれば、現状は変わってくると考える。

効率的という観点から集団処遇が推進されてきた時期、もしくは、それに順応できるレベルの人たち、もっといえば、順応させられてきた人たち。しかし、それらは過去のものとなってほしい。個人が尊厳を持ってその人らしい自立した生活が送れるよう支えるという社会福祉の理念に基づいてスタートした、平成12年からの社会福祉基礎構造改革以降、豊かな社会の実現に向けて、現場の改革は推進され続けてきたし、これは、止めるべきではない。

「丁寧な体験を伴う具体的な選択肢を示す」ためには、いくつかの工夫が必要である。予算案の概要にも示されているが、相談支援サービス利用計画作成費の給付対象者の拡大もそのひとつである。これは、一法人や一事業所で取り組めることとしては限界がある。そこで、各地に設置されつつある地域自立支援協議会の存在に焦点を当てなければならない。

また、地域移行の阻害要因とされる、不安要素を取り除く取り組みを奨励されることにも期待したい。入所施設でしか、まかなえないとされていた安心できる機能を有する拠点の整備や、システムの構築を何らかの形で実施していきたいものである。具体的には、利用者はもとより、家族、そして地域住民が安心できる体系を具体的に示すことが求められる。

地域で暮らす障害者のバックアップをする機能として、24時間体制の緊急対応や、生活環境の急激な変化などに対応し緊急一時的な避難先にもなり、将来の地域生活(共同生活、一人暮らし)を想定し一定期間の体験的な利用も可能であったり、専門的なケアを必要とする人を対象に一定期間実施できる多機能ステーションが、各地に設置されると、「障害者の自立生活を支援するための施策の推進」は、さらに推進されるであろう。その働き手として、現入所施設職員が必要である。新体系への移行は、利用者の地域移行であり、働き手である職員の地域移行でもある。

3 ダブルスタンダードへの懸念

前述のような体系を整備するために、平成21年度以降の予算ならびに「障害者自立支援法の3年後の見直し」は、旧体系と訣別することも視野に入れなければならない。しかし、利用者の多様なライフルタイルに対応可能な「日割り」の考え方への反発も根強い。また、「丁寧な体験を伴う具体的な選択肢の提示」ができない事業所を、結果的にそのままの状態で経営が維持できるような予算配分(報酬単価の配分)がなされるとしたら、ますます、地域格差は増大し、それによる犠牲者は増え続けることになるであろう。「障害者自立支援法」の目的は、達成されないまま、いわゆるダブルスタンダードが認められてしまうことになりかねない。

4 おわりに

入所か地域か、ということに捉われない、「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らす」ためには、たとえば、入所施設だけにある補足給付に関して、それ以外の障害者にも、補足給付的な要素の給付がなされるべきである。

さいごに、利用者負担の軽減措置は喜ばしいことであるが、財源確保の観点、今後増大・多様化が見込まれる国民の福祉需要に対応するために、国全体の社会保障をどう考えるか。

社会保障だけではない、教育、農業、環境、道路、外交、すべてが国民の暮らしに直結している。理想だけでもだめであるが、社会保障の論議が政局の道具にだけは使われたくはないものである。

(つるもとひこ 社会福祉法人ゆうかり副理事長・NPO法人全国地域生活支援ネットワーク事務局長)