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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

一行政担当者として21年度予算案を見て

渡辺津与志

昨年末の閣議決定に基づき公表された、厚生労働省の平成21年度予算案の主な項目について、一担当者としての私見を以下に述べたい。

1 障害者の自立生活の支援(当初)

(1)報酬改定

「平成20年障害福祉サービス等経営実態調査結果」等に基づく施設報酬の5.1%増を含め、自立支援給付が5千億円の大台に乗った。

本稿作成時点では、報酬や加算の単位(金額)は不明だが、平成20年12月25日に開催された主管課長会議資料によると、小規模な事業所や中山間地、施設側のより良い運営を行おうとする努力に対し、報酬・加算上の配慮がなされた点は評価できる。

今後は、報酬や加算に関する複雑な制度設計をよりシンプルな形へと集約すること、良質な人材確保と施設経営の安定化のため、報酬に関する継続的な調査や適時の改訂を行うことが求められる。

(2)相談支援

相談支援については、「社会保障審議会障害者部会報告(平成20年12月16日)」において示された「ケアマネジメントの充実」の観点と軸を一にし、サービス利用計画作成費の給付対象者を拡大する方向性が示されたものと理解している。必要とする障害者すべてが、適切なケアマネジメントに基づく支援を受けられるよう、今後は、さらなる財源拡充を期待したい。

(3)利用者負担

利用者負担の軽減措置は継続とされたほか、平成21年7月からは、懸案であった資産要件が廃止され、心身障害者扶養共済給付金が収入認定から除外されることとなるが、所得保障や自立支援医療・補装具との合算による軽減等残された重要な課題も多い。負担の理論的な整理(応能か応益か)については、与党プロジェクトチームの法改正に向けた動きを歓迎したい。

(4)地域生活支援事業

個別給付とともに障害者を支える多様なサービスを提供する地域生活支援事業は、障害者就業・生活支援センター事業を単独事業とした上で、前年度当初比なお10%増と、この項で目立つ伸びをみせている。今後は、障害者部会における統合補助金に係る論点(地域間格差等)の検討や、さらなる財源拡充が必要と思われる。

(5)サービス提供体制整備

グループホーム等創設の補助単価が増額された点は評価に値する。今後は、施設整備予算総枠の拡充等により、地域生活の基盤となるグループホーム等の整備を促進することが重要となる。

2 精神障害者の地域移行支援(当初)

「地域移行支援特別対策事業」は据え置き、「救急医療体制整備事業」は4億円増の21億円とされた。「入院医療から地域生活へ」の舵きりは容易ではないが、「中間まとめ」(平成20年11月20日)に示された相談支援の充実、保健医療との連携、住まいの場の確保等により、精神障害者の地域移行推進のため、さらなる財源拡充が求められる。

3 障害者の就労支援(当初)

工賃倍増5か年計画支援事業は、1億円増の17億円とされた。昨今の経済情勢の悪化により、障害者の解雇者数の増加、受託作業量の減少は顕著であるが、これという決め手を欠く中、今後は、発注促進税制の拡充等の政策誘導のほか、経済・商工団体等に対する積極的な働きかけも必要となろう。一般就労の面では、障害者就業・生活支援センターに対する期待は高く、その真価が試される。

4 発達障害者支援(当初)

発達障害者支援施策もほぼ横ばいの8.8億円とされた。「体制整備事業」に、「個別支援計画」の実施状況調査等が盛り込まれ、実効的な支援体制整備の時期にさしかかったものと認識している。なお、発達障害者の障害福祉サービス利用に関しては、前記障害者部会報告に基づき、法的な位置づけ等を明確化すべきと考える。

5 自殺対策(当初)

自殺対策は、全体で6億円であるが、前年度の約1.6倍と高い伸びを示している。都道府県、市町村、関係団体の精力的な活動により取り組みは進んでいるものの、現下の不況により、自殺の社会的要因である失業や倒産による経済・生活問題の深刻化が懸念され、自殺対策のさらなる効果的な実施が必要と考える。

6 基金事業の積み増し・延長(補正)

平成20年度第2次補正予算成立に伴い、都道府県に造成される基金が650億円積み増しされ、期間も平成23年度までとなった。平成18年度補正時の960億円を下回るとはいえ、実施期間も丸3年にわたり、より戦略的な事業展開が可能となるものと考えている。

既存メニューに関する課題等は、昨年度の山口和彦氏(東松山市)の稿に譲るとして、新規メニューのいくつかについてコメントし、本稿を終えたい。地域移行関係は6本の新規メニューで、最も力が入っているテーマと言える。

○「地域移行支援事業」は、補助単価は低いとはいえ、入所者の地域生活移行に対する入所職員の意識改革に向け重要な事業と考えている。

○「障害者を地域で支える体制づくりモデル事業」は、相談支援、訪問系サービス、ケアホーム等が連携し、地域生活の拠点として24時間のサポート体制等を構築するものであり、最も注目している事業の一つだ。

○他に、就労支援関係で4本、相談支援関係で2本のメニュー等が追加されている。中でも、障害者支援の要となる地域自立支援協議会に梃(てこ)入れする「運営強化事業」については、特に、効果的に活用すべきと考えている。

(わたなべつよし 新潟県障害福祉課)