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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

フォーラム2009

ICF―CY(WHO国際生活機能分類・児童版)
―「“生きることの全体像”についての“共通言語”」の派生分類

大川弥生

はじめに

2001年にWHO(世界保健機関)はICF(International Classification of Functioning, Disability and Health;国際生活機能分類)を採択しました。そして、このICFのはじめての「派生分類」として、2007年にICF―CY(ICF―Children & Youth Version国際生活機能分類・児童版:仮称)を決定しました。ICFはすべての人を対象とするものですが、ICF―CYは対象者を、乳幼児から思春期までの発達過程にある人(18歳未満)としたものです。

ICF―CYは、基本的な考え方・活用法はICFと全く同じであり、成長・発達期の生活機能の特徴を記録する上での細部の詳しさを補うものです。具体的には、(1)生活機能のマイナス面(「障害」)の定義に発達的側面である「遅れ」が加えられ、それに関連して、(2)評価点(問題の程度を示す)においても、「遅れ」の評価が追加されました。また(3)記述を詳しくしたり、新たに項目を追加したりしました。

このようにICF―CYはICFの一部修正・追加ですから、これを正しく活用するにはICF本体の正しい理解が不可欠で、ICF―CYだけが一人歩きしてよいものではありません。

そこで本稿では、まずICF自体のポイントを簡単に述べ、その後ICF―CYの特徴を述べることとします。なお今年度中に日本語訳が厚生労働省社会保障審議会統計分科会生活機能分類専門委員会で決定される予定です。

1.ICFのポイント

1.ICFの目的:

(1)理念を重視した分類としての活用

ICFは一言で言えば、「“生きることの全体像”についての“共通言語”」です。「分類」がついているために、項目を使った分類が主たる目的のように思われがちです。しかし、もちろん分類としての役割がありますが、理念が非常に大事です。その理念の一つは「生きることの全体像」(生活機能モデル、図1)を把握することです。

図1 生活機能モデル(WHO―ICF、2001)
図1 生活機能モデル(WHO―ICF、2001)拡大図・テキスト

ですから、まず生活機能モデルに立って「全体像」を把握し、その上で分類項目を使うことをお勧めします。

(2)専門家と当事者との「共通言語」

ICFの理念のもう一つの面である「共通言語」とは「共通のものの考え方、見方」です。ではそれは、だれの間の共通言語なのでしょうか。非常に狭い範囲でいえば、専門家の間ですが、もっと重視される必要があるのは専門家と当事者との間です。

当事者の方々が専門家と話す時に、「何か話が通じない」と感じることがあるのではないでしょうか。その根底には、たとえば医師は「健康状態」(病気)や症状や検査法、また「心身機能」を中心に話しがちなのに、当事者は「活動」や「参加」の不自由さがどこまでよくなるかを知りたいということが少なくないと思います。また「環境因子」である福祉機器や制度面を中心に話をする専門家もいるでしょう。ですが、当事者が困っていること、希望していることは、実は「活動」「参加」なのですから、それを中心として話し合えることが必要です。

ですから、共通のものの考え方、とらえ方をきちんと持つことが大事で、ICFはこの観点から、専門家だけでなく、当事者の方に積極的に活用していただけるものと思います。

当事者中心の医療や福祉やさまざまなサービスが提供されるためには、専門家の中にもこの考えが浸透することが必要です。当事者の方々がICFの生活機能モデルを用いて自分自身の問題を整理し、それに立った希望を専門家に積極的に伝えることも重要です2)

2.ICDとICF:生活機能は健康の構成要素

ICFの前身はICIDH(「国際障害分類」)で、1980年にでき、次の年の国際障害者年の運動に大きな影響を与えました。しかし、障害・障害者をめぐる社会の意識・現実は大きく変化し、それを受けた長期の国際的改訂作業を経て成立したのがICFです。

ICFは一応ICIDHの改訂版ですが、実質的にはまったく異なるものです。大きな違いは、まずICIDHは病気の結果(帰結)という観点から障害をとらえる、マイナス面のみの分類だったことです。そしてICIDHはICD(国際疾病分類)の補助分類にとどまっていました。

一方ICFは「生活機能」というプラス面の分類であり、WHOがもつさまざまな分類のまとまりである「国際分類ファミリー」で、ICDと並んで「中心分類」に位置づけられています。これは「生活機能」が「健康」の基本的な構成要素として位置づけられているからです。「健康」とはICDが示す「病気」がないというだけでなく、ICFが示す「生活機能」が高い水準にあることという、WHOの健康の定義にも立った考え方の表れといえます。なおICF―CYはWHO―FICの中で、中心分類から派生した分類という位置づけです。

3.生活機能

「生活機能」は、ICFの中心概念です。「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つを合わせた包括概念が「生活機能」です(図1)。

「心身機能・構造」とは手足の動き、精神の働き、視覚・聴覚、内臓の働きなど、身体構造とは、手足などの、体の部分のことです。これに問題がある場合がたとえば、手足のまひ、心臓や呼吸の機能の低下、関節の動きの制限などです。「活動」は日常の生活で目的を持って行っている、生活行為のことで、身の回りの行為、家事の手伝い、スポーツをすること、本を読む、遊ぶことなどの行為です。単なる個々の動作ではありません。「参加」とは、社会や家庭の中での役割を果たすこと、権利を享受したり楽しむなどの社会的なレベルです。

では生活機能に影響するものは何でしょうか。病気やケガがすぐ思い浮かびますが、これは図1の上部の「健康状態」です。ICFでは、ストレスや妊娠、加齢など広いものが含まれます。それだけでなく、背景因子として「環境因子」と「個人因子」があり、これらの影響を重視するのも大事な点です。環境因子には物的な環境因子だけでなく、人的、社会的・制度的な環境因子があります。

これまで障害についてのとらえ方として、「医学モデル」や「社会モデル」などの議論がありますが、ICFはそのどちらでもなく、いろいろな歴史的・社会的な状況の変化を踏まえた、まったく新しい「統合モデル」です。

4.各種制度等へのICFの導入

専門家にも生活機能モデルとしての考え方が浸透することが望ましいことを前述しましたが、すでに、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの国家試験にICFは出題されています。

また介護保険の認定時に必要な主治医の意見書にも取り入れられています。特に、「病気の症状としての安定性」と「サービス利用による生活機能の維持・改善の見通し」を別々に書くようになったのは重要です。病気の症状と生活機能を別個のものとして位置づけることになったのは、長い歴史を持つ医療の中で画期的なことです。

ほぼ同様の意見書が障害者自立支援法で求められていますが、生活機能の概念はまだ導入されていません。ただし、障害者基本計画や、びわこミレニアム・フレームワークの中では、ICFの活用はうたわれており、障害者権利条約においても、第31条で統計の必要性が述べられています。

2.ICF―CYの活用の原則―ICFが基本

ICF―CYの活用に当たっては、ICF本体との整合性に立って、次のような原則を守る必要があります。

1.万人のための分類

ICF本体が高齢者・妊婦なども含む「万人のための分類」であるのと同様に、ICF―CYも障害児のみの分類ではなく、児童・青年期のすべての人に該当することを大前提とします。

2.年齢のみで使用を決めない

ICF本体は本来すべての年齢層に使用可能です。ですから18歳未満でもICFを基本とし、特に成長・発達に関連して用いたほうがよい場合に用いるので十分と考えられます。

3.追加項目の年齢特異性は疑問―児童期に特有な内容は少ない

ICF―CYで追加あるいは細分化された項目は、内容的には次のようなものがありますが、18歳未満に特有なものだけではなく、それ以外の年齢層にも重要なものが(この機会に)追加されたと解釈できるものが少なくありません。むしろ項目のほとんどは後者であるということもできます。

(1)真に児童期に特有のもの:新しく追加された「喃語を発する」「母乳を吸う」「乳歯」、既存の「就学前教育」という中項目の小項目への細分化など。

(2)児童期に関係が深いが、成人・高齢者などにも無関係とはいえないもの:「寝返り(乳児の運動発達の段階として重要だが、障害をもった成人・高齢者でも大きな問題となりうる)」「触覚による形の弁別(点字など):視覚障害者では年齢を問わず重要」「言語の習得:成人でも外国語の学習の場合には問題となる」など。

(3)児童期に限らず、成人・高齢者にも同等あるいはそれ以上に関係深いもの:「空間への見当識:成人の脳障害による視空間失認などはまさにこれ」「歌うこと:成人のよく行う活動で、職業的な活動にさえなりうる」など。

(4)ICFに入れ忘れたものを追加しただけともいえるもの:身体構造の「(脳の)白質の構造」など。

すなわち、成人・高齢者でもICF―CYで追加となった項目を活用する必要がある場合も少なくなく、今後その可能性を検討する必要があります。

4.ICF活用のルールを大前提に

ICF―CYの利用・活用に当たっては、次のような配慮が必要です。

(1)ICF本体について確立された利用法・活用法との整合性。

(2)ICF本体の理論的理解、コーディングの手順、評価点基準、当事者への説明等のルールを守る。

(3)連携のツールとして活用:ICFと同様に当事者を中心とした医療、療育、教育、行政、介護、福祉での「連携のツール」として活用。成人となってからの対応に関しても、児童期の記録が生かされ、時間経過(変化)が正確に伝わり、縦の(時間軸に沿った)連携がなされることが重要。

5.評価点は今後の課題

ICF―CYでは「発達の遅れ」の評価点が追加されましたが、具体的な基準はなく、それを明らかにすることが今後の課題です。なお、前述した厚生労働省生活機能分類専門委員会暫定案として、わが国のICFの「活動」・「参加」の「実行状況」と「能力」についての評価点があります1)。これはICF―CYでも「発達の遅れ」とともに活用すべきものと考えられます。

(おおかわやよい 国立長寿医療センター研究所生活機能賦活研究部部長)

【引用・参考文献】

1)大川弥生:生活機能とは何か;ICF:国際生活機能分類の理解と活用、東京大学出版会、2007.

2)大川弥生:新しいリハビリテーション;人間「復権」への挑戦、講談社現代新書、講談社、2004.

3)上田敏:国際生活機能分類.ICFの理解と活用―人が「生きること」「生きることの困難(障害)」をどうとらえるか、きょうされん、2005.