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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

列島縦断ネットワーキング【茨城】

第1回筑波大学障害学生支援研究会の開催

岡崎慎治・青柳まゆみ

筑波大学障害学生支援室(OSD:Office for Students with Disabilities)は、2009年1月26日(月)、筑波大学大学会館国際会議室において「第1回筑波大学障害学生支援研究会」を開催しました。

筑波大学は1973年の開学以来、多くの身体障害学生を受け入れ、インフォーマルな形で修学上の支援を行ってきました。2001年度からは、学長の下に障害学生支援委員会が設置され、全学的な支援体制の構築に向けた取り組みが始まりました。2007年度には、障害学生支援委員会に代えて障害学生支援室(OSD)が設置され、支援体制の一層の充実化が図られています。OSDが発足した昨年度には、「筑波大学障害学生支援シンポジウム」を開催して本学における障害学生支援の実態について紹介しました。

このような経緯を踏まえ、このたび開催した研究会は、OSDを中心に筑波大学で特質的に取り組んでいる支援について関係者に広く紹介することを大きな目的としました。また、筑波大学の教職員・学生および学外関係者と障害学生の支援に関する情報を共有することにより、本学のみならず全国の大学等における障害学生支援の質をより高められるように、という主旨から実施したものです。当日は学外関係者31人を含め、100人を超える方に参加いただきました。

当研究会では、パソコン通訳、手話通訳、視覚障害者への電子データ提供といった各種情報保障も用意されました。また会の運営には、普段から障害学生の支援に関わっている学生(障害学生を含む)も多数参加しました。

研究会は、OSD副室長・運動障害担当専門委員の竹田一則教授の司会進行の下2時間半余にわたって行われ、まず、本学の障害学生支援体制の充実に尽力してこられたOSD室長の工藤典雄副学長(教育担当)による開会の挨拶から始まりました。

次に、OSD副室長・専門部会長の鳥山由子特任教授より、筑波大学における障害学生支援の概要について説明されました。障害学生支援の教育的目的を「障害学生と一般学生がともに学ぶことを通して、共生の時代を担う社会人を育成すること」と位置づけ、この目的を達成するためのOSDの役割とこれまでの取り組みが紹介されました。また、専門性に裏付けられた支援の研究と実践の成果を発信する場として、本研究会の継続的な実施を予定していることも述べられました。

続いて、4件の研究発表と、各研究に関する質疑・意見交換が行われました。

(1)視覚障害学生の情報処理(実習)授業について

最初にOSD職員の青柳まゆみ氏より、視覚障害者のパソコン利用の実態と操作の特徴について、デモンストレーションを交えた説明がなされました。視覚障害者が大学で学習する上でパソコン技術の習得は不可欠である一方、大学の共通科目である「情報処理(実習)」の通常クラスを受講することは極めて困難であり、そのことを踏まえた対応が必要であることが述べられました。

続いて筑波大学附属視覚特別支援学校の青松利明教諭より高校段階での情報処理指導について、筑波大学システム情報工学研究科の安永守利教授より「情報処理(実習)」の目的と障害学生への対応について、そして青柳まゆみ氏より個別授業の実践内容について、それぞれ紹介されました。

質疑では、個別授業の時間帯と時間数は通常学生と同じであること、学生のレベルや支援ニーズが同等であれば数名の視覚障害学生を対象とした授業も可能であることなどが確認されました。また、マウスではなくキーボードの操作を中心とした視覚障害者特有のパソコン操作に関して、ソフトウェアの設計などメーカーの対応への期待についても議論がなされました。

(2)聴覚障害学生支援コーディネーション・プログラムソフト作成の中間報告

最初に、OSD聴覚障害担当専門委員の原島恒夫准教授より、筑波大学での聴覚障害学生支援の現状が紹介されました。ノートテイクやパソコン通訳、手話通訳といった支援を円滑に行うためにはコーディネート作業が必要であり、従来は100人を超える通訳者と10人強の利用学生の間のコーディネート作業を2人のコーディネーター(学生)がすべて手作業で行ってきたことが報告され、その困難性と同業務の一部自動化の必要性が指摘されました。

続いて、CAS(Coordinator Assistance System)の開発に関わった学生スタッフよりソフトの具体的な機能が紹介され、本プログラムの導入によるコーディネート作業の負担軽減の可能性が提案されました。

質疑では、通訳者のシフト表は学期ごとに作成されること、現状では筑波大学での試験的運用のため他大学は利用できないが、今後検討していく予定であることなどが確認されました。

(3)聴覚障害医学学生の臨床実習について(中間報告)

発表は、OSD医事担当専門委員の久賀圭祐准教授により行われました。医師法改正による聴覚障害者の医師免許取得に関する情勢変化、アメリカにおける聴覚障害のある医師や医学学生への対応状況が紹介された後、筑波大学医学専門学群に在籍する聴覚障害学生に対する支援の現状と課題が報告されました。医学系教育特有の授業や実習場面における人的・物的支援について、多数の実践が紹介されました。

質疑では、国内の聴覚障害のある医師の実態把握に関する調査を予定していること、海外では聴覚障害のある患者が聴覚障害のある医師を利用しやすい状況があることなどが確認されました。

(4)運動障害学生の支援状況報告について

発表は、OSD運動障害担当専門委員の山中克夫講師、同名川勝講師、および支援のコーディネートに関わっている学生スタッフにより行われました。運動障害学生の入学から約1年間にわたって実践された具体的な支援内容が紹介され、入学当初の唯一の要望であった移動支援だけでなく、学習面と生活全般に関する支援の必要性が明らかになっていった経緯、また障害学生自身が支援ニーズを自覚し、必要な支援を自ら積極的に求めるようになっていった経緯が報告されました。

質疑では、修学支援と生活支援の区別は難しいが個々の学生のニーズという観点から検討を続けていくこと、個別のニーズを早期に把握するための評価の手だてを開発検討中であることなどが確認されました。

各発表について活発な質疑と意見交換がなされ、またアンケートの内容からも充実した研究会となったことがうかがえました。筑波大学は国内でも最大規模の障害に関する専門スタッフを擁しており、このことが障害学生支援の高度な専門性の確保の一端を担っています。しかしそれ以上に、全学的な組織としてのOSDの活動に対して、教職員や学生、学外関係者の関心と期待が高まりつつあることを実感することができました。

大学における障害学生支援については、日本学生支援機構(JASSO)の事業等を通じて情報の共有や大学間の協力といった体制作りが進められています。筑波大学は、今後も障害学生支援の充実化を目指した研究的取り組みを継続し、情報の発信に努めていきたいと考えています。

(おかざきしんじ・あおやぎまゆみ 筑波大学障害学生支援室)

※筑波大学 障害学生支援室URL:http://www.tsukuba.ac.jp/education/disability-support.html