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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

働く生活を支える
―障害者就業・生活支援センターの取り組み―

本田隆光

いわき障害者就業・生活支援センターは、相談支援事業所ふくいん(いわき市の委託相談支援事業所)、グループホーム・ケアホーム事業所(21年3月現在126人の利用者)、ホームヘルプステーションシャロームと一緒に「障害者総合生活支援センターふくいん」を構成しており、総合かつ一体的な地域支援をしているところです。

当法人では、その前進である、はまゆう通勤寮時代から就業と生活の一体的な支援を実施してきました。それは、「地域で働き生活をしたい」という障害ある一人ひとりの当たり前の願いに耳を傾けて来なければならなかったほどに私たちが出会った本人たちには、「働きたい、結婚したい、一人で暮らしたい、もっと自由に生きたい」といった強烈な呻(うめ)きがいつもあったということです。

現在のような地域支援の制度が何もない時期でも、もがき苦しみながらその時のニーズに合わせて工夫をしてきました。働くことを続けるには多くの場合、生活の支援がきちんとできていれば継続できたのに、それを支えるシステムが地域に存在しないということで離職し、地域の支援ネットワークの輪から漏れていってしまう事例が現在でも多々あります。

そういうことにならないためのいくつかの取り組みをしてきました。第一に、好きな人ができたら当たり前に交際をし、結婚し、子どもを育てるという願いを叶えていくために、ボランティア(有償ボランティアもあり)を活用して子育て支援をしてきました。現在では、ホームヘルパーの利用や生活支援ワーカーや相談支援専門員、さらに保健師、子育てサポートセンター等との連携で関わっています(21年3月現在で、9組8人の子どもを支援しています。一番上の子どもはこの春に大学に入学します)。そのため、支援センター利用者は、好きな人ができるとすぐに結婚の相談に気軽に来るようになっています。現在も1組のカップルが結婚を前提に相談に入っています。また、セクシュアリティ講座を開講して、異性とのつきあい方や避妊の知識等助産師の協力を得て実施しています。

第二には、権利擁護という視点から利用者の財産管理は、当法人から分けて「特定非営利活動法人そよ風ネットいわき」を組織して管理をお願いしています。NPO法人は、一人ひとりの金銭管理に関する支援計画に基づいて支援しており、給与管理を自分でする人、小遣い専用口座に一定額を振り込んで自分で管理をする人、うまく管理ができない人には週3回、直接本人へ配達する等のサービスを展開しています。さらに支援の必要な方には、成年後見人等をNPO法人として受託しています。当然のことながら、後見人として各種サービスの契約の立ち会い等の後見業務をしています。また、権利擁護という視点からも障害ある本人が力をつけるために「虐待から身を守るには」「消費被害に遭わないために」「契約について」などのワークショップも毎年実施しています(現在の利用会員180人ほど、後見受任数18人)。

第三には、本人活動の支援として「ふれんずトトロ」というグループの支援をしています。毎月のレクリエーション、全国大会参加、海外旅行、勉強会への参加など積極的に活動していくことを支援しています。そういう活動を通して本人たちは嫌なことを嫌と言えるようになったり、自分の意見をきちんと言えるようになったりと確実に力をつけてきています。

第四には、余暇支援という視点から各種クラブ活動を実施しています(地元の大学生を中心とした余暇支援クラブ、お茶・お花、フラダンス、絵画、エアロビクス、温泉ボランティアなど)。本人が希望するところへ参加できるようにしています。また、土日営業をしている小規模作業所等を活用して創作活動を行っています。

彼らの人生を100%握らないための創造的な支援の広がり(生活支援1)
図 彼らの人生を100%握らないための創造的な支援の広がり(生活支援1)拡大図・テキスト

さて、これらの取り組みをしてきましたが、障害者自立支援法ができて、支援のあり方が大きく変わろうとしています。これまでは、生活支援ワーカーが中心となって実際の個別支援をしたり、地域資源との調整等をしてきました。しかしグループホーム・ケアホームにはサービス管理責任者が、ホームヘルパーステーションにはサービス提供責任者が、それぞれの立場で支援を計画的に見ていく専門職員が配置されました。さらに、相談支援事業者によるケアマネジメントである個別支援のサービス作成もあります。これらの事業者との関係調整をどう進めていくかが今、問われています。

今後は、ケアマネジメントという視点から考えて、相談支援事業者が福祉サービスの調整を中心に個別支援計画を作成し、ケアマネジメントをしていくことになると思います。しかし、特に企業との関係調整や余暇支援などについては、相談支援事業所だけでできる訳ではありません。そうした場合、生活支援ワーカーは本人に寄り添って本人の希望をどう実現するかということで、より深い信頼関係のもとでキーパーソンとしての機能が求められています。各事業者がお互いの機能や役割の違いを理解して、どうネットワークを構築していくかが問われています。

そういったネットワークをいわき市ではどう取り組んでいるのかについて、いくつか紹介をしていきます。まず、12年前から障害者雇用をしている企業、特別支援学校、福祉関係者と一緒に「いわき障がい者職親会」を組織して、障害者雇用を進めるためのセミナーや毎月第3水曜日夜6時からの勉強会、職場実習の協力依頼、市議会議員との懇談会、さらに毎年、永年勤続者への表彰等を実施し連携を深めています。

いわき市地域自立支援協議会就労支援専門部会「チーム支援」
図 いわき市地域自立支援協議会就労支援専門部会「チーム支援」拡大図・テキスト

次に、いわき市地域自立支援協議会の就労支援専門部会に関わっています。部会メンバーは、ハローワーク、委託相談支援事業者、いわき市障がい福祉課、いわき障害者就業・生活支援センターが中心となって定例部会を開催しています。そこに特別支援学校、就労移行支援事業者、就労継続支援事業者等が必要に応じて参加することになります。

この部会で特に取り組んでいる手法は、ハローワークの地域障害者就労支援事業であるチーム支援を活用して、就労移行支援事業利用者の個別支援計画確認と本人面接、特別支援学校在籍者の就労希望者登録、個別支援等の活動です。就職する力はあるけれども家庭の事情等により生活をきちんと支えなければいけない困難ケースに対しては、グループホームを用意したり、一人暮らしへの支援としてのアパート物件探しからヘルパーの活用等、総合的な支援を就労支援部会として検討していくようにしています。それぞれがネットワークを構築するだけではなく、地域自立支援協議会の就労支援部会が総合的な調整をしていくような役割が求められているのではないでしょうか。

障害のある人たちが働き続け、自分らしく生きていくという当たり前の願いの実現には、多くの支えがあってこそできるようになってきます。そこにはないものをも作り出していくという、支援する側のダイナミックな支援力が問われているのだと思います。その歩みが、このように地域で生活を支え続けていくことによって、障害ある人たちの権利をきちんと擁護していくという働きが、地域の文化として根付いていくことになるのだと思います。

(ほんだたかみつ 社会福祉法人いわき福音協会いわき障害者就業・生活支援センター)