音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

ほんの森

精神障害とともに働く自立への挑戦

やおき福祉会編

評者 山田秀世

ミネルヴァ書房
〒607―8494
京都市山科区日ノ岡堤谷町1
定価 本体2,200円(税別)
TEL 075―581―5191(代)
FAX 075―581―8379

平成元年、間借りの民家で小規模作業所として産声を上げた「やおき工房」は、今や精神障害福祉の最先端を疾走する「やおき福祉会」にまで大発展を遂げた。その20年の歩みが一冊の書として世に送り出された。

わずかこれだけの期間に、(失礼ながら)こんな僻地(へきち)で、しかも“ほとんど何もない”あの状況から出発して、ここまでやれるものなのか……着実かつ奇跡的な道程を知れば、読者は、この上ない希望と勇気を与えられるに違いない。

序章に、何人かのメンバーの声が載せられてあるが、ここを読むだけでも「やおき福祉会」が「ほんまもん」であることが直覚的に分かる。ユーモラスでほのぼのとした彼らのナマの声には、驕(おご)りも衒(てら)いもなく、就労を成し遂げた謙虚な誇りがにじみ出ている。そこに見出せるのは、どんな最新のクスリや治療技法も及ばないであろう回復のありようである。

続く第1章以下では、彼らを力強く支援してきた歴史、活動の実際が手に取るように、時に生々しさをもって具体的に描かれている。生活支援あっての就労支援であることやグループ就労やペア就労といった斬新な着想が、現場での実践の中から生きた臨床知として汲み上げられ、再び現場に活かされてゆく。積極果敢な取り組みが、的確な専門性と温かい人間性に裏打ちされているところが凄い。貪欲で一見したたかなようでいて、よく見ると、どこにも奇策はなく、ごく理にかなったことばかりなのだ。

結局のところ、本書の書評を書くことは、「やおき」の歩みを紹介することに他ならなくなってしまうのだが、本書が「やおき」の歴史と現状をリアルに伝えながらも、それが無骨な一実践報告に決してとどまることなく、その内容は先進性と客観性を帯びた高い学術的な意義を十分に確保している。つまり、本書の出版それ自体が、より普遍性を持った大きな社会貢献となり、「やおき」をなお一層飛躍させているとは言えまいか。

そんな書籍としての洗練された仕上がりに編集責任者らの底知れぬ力量を窺(うかが)い知ることができるのだが、編者をあえて「やおき福祉会」としてあるところにも、彼らの奥ゆかしさと“共同体”意識を嗅ぎ取ることができて好感が持てる。単に熱意や行動力だけでなく、こうした特質をリーダーの面々が共有していることこそが、今日の「やおき福祉会」の大躍進を支えてきたのではないだろうか。そんな気がしてならない。

(やまだひでよ 大通公園メンタルクリニック)