音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

景気後退に伴う社会就労センターへの影響調査報告

阿由葉寛

はじめに

世界規模の経済危機は、自動車産業をはじめとした労働者の雇用情勢の悪化をもたらし、障害者が働く事業所においても、大きな影響を及ぼしています。

今回、全国社会就労センター協議会では、「ここ数ヶ月の景気後退に伴う社会就労センターへの影響調査」を実施し、障害者の働く現場でどのような影響が出ているのかを調査しましたので、その結果をご報告させていただきます。また同時に、これからの官公需受注等の拡大に向けた取り組みについてもご紹介をさせていただきたいと思います。

「ここ数ヶ月の景気後退に伴う社会就労センターへの影響調査」について

  • 調査期間:平成21年1月27日~2月6日
  • 調査方法:FAXによる送信および回収
  • 調査対象:セルプ協会員施設 1,543施設・事業所
  • 回答施設:632施設・事業所(回収率41.0%)
  • 回答施設のうち
    「目立った影響あり」416施設・事業所(65.8%)…A
    「目立った影響なし」216施設・事業所(34.2%)…B

影響が大きい事業や内容

(1)仕事の受注や自主製品の製作等に関する影響

1.自動車関連 144施設・事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所(前記A)のうち34.6%…C
2.リサイクル関連 51事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所のうち12.3%
※特に多い府県=滋賀7件、愛知5件、新潟・石川・京都4件
3.ダンボール加工関連 20事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所のうち4.8%
※特に多い県=福島5件、愛知3件
4.印刷関連 19事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所のうち4.6%
5.パン・クッキー類関連 16事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所のうち3.9%
※特に多い県=愛知3件
6.クリーニング関連 13事業所
「目立った影響あり」の施設・事業所のうち3.1%

(2)企業実習や施設外就労への影響

「目立った影響あり」の施設・事業所(前記A)のうち17件

[内容(内訳)]

  • 企業実習回数の減や実習時間のカット6件
  • 企業実習予定の中止2件
  • 企業実習の打ち切り2件
  • 施設外就労の人員減要請、日数の減2件
  • 施設外就労の中断、打ち切り4件
  • その他(実習先から、雇用を前提としない旨の方針変更が明示)1件

(3)企業等を解雇・勧奨退職等(企業倒産による解雇等を含む)を余儀なくされた障害者の受け入れ 計46名(32施設・事業所にて受け入れ)

  • 企業での解雇前の雇用形態

※特に人数が多い都道府県=愛知12人、北海道6人、石川5人、東京3人

調査結果にあるとおり、回答施設のうち65.8%が「目立った影響あり」と回答していますし、そのうちの34.6%が日本を代表する自動車関連産業ということで、我々の業界においても、愛知県を筆頭に全国各地で大きな影響を受けていることが示されています。

特に自動車関連の下請け作業においては、利用者の工賃等が減額となった事業所が24か所、工賃の減額を予定している事業所が14か所、積立金の取崩しでの対応が3か所など、利用者工賃へ直接影響が出ており、それぞれの事業所が対応に苦慮しています。

また、リサイクル関連、ダンボール加工関連、印刷関連等々、多くの分野で同様の影響が出ており、このままでは、多くの事業所で利用者工賃の減額という事態が予測されます。セルプ協では、これらの状況への対応を図るべく、今後も引き続き、同様の調査を実施していく予定です。

表1 影響の内容(利用者への工賃への影響等)

工賃の支払いに関する対応 回答数 %(対C)
利用者の工賃の減となった 24 16.7%
今後、工賃の減を予定、想定 14 9.7%
影響はあるが工賃は維持できている 15 10.4%
工賃積立金の取崩しで対応している 2.1%
施設外実習等への影響(中止等) 4.2%

※複数回答あり

表2 影響の大きい都道府県(「自動車関係下請等で影響が大きい」とする回答件数の多さで集計)

都道府県名 回答数 %(対C)
愛知 37 25.7%
静岡 6.3%
東京、兵庫、岡山、福岡 4.9%
茨城、栃木、広島 4.2%
福島 3.5%
岩手、新潟、熊本、大分 2.8%

表3 企業での解雇前の雇用形態

雇用形態 人数
正規 17名 36.9%
非正規 27名 58.7%
不明 2名 0.4%
46名  

就労支援事業所等における仕事の確保に向けた取り組み

各就労支援事業所等が、それぞれ安定した仕事の受注や自主製品の開発に向けて取り組むのは当たり前のことですが、前述した調査結果等を踏まえ、“事業所の努力プラス公的な支援策”の相乗効果によって、「工賃倍増5か年計画」を具体化していくことが必要ではないかと思っています。

現在、全国社会福祉協議会が設置した「工賃倍増に向けた授産事業振興調査研究事業推進特別委員会」では、行政関係者、企業関係者、障害関係7団体(全国社会就労センター協議会、日本セルプセンター、日本知的障害者福祉協会、全国精神障害者社会復帰施設協会、日本身体障害者団体連合会、全日本手をつなぐ育成会、きょうされんにより構成)により、仕事の確保策と授産施設等の利用者の工賃(賃金)を向上させるシステムづくりの検討を行っています。

具体的には、1.「官公需等受注システム(仮称)」の基本的な仕組みについて研究し、その中核的役割を担う「共同受注窓口組織」のあり方についての提言、2.「官公需等受注システム(仮称)に参加希望する事業所の授産事業内容等の調査・研究、3.官公需等の拡大の促進を都道府県・市町村にアピールしていくためのパンフレット・ポスターの作成です。

特に3については、これを用いて障害関係7団体を中心に、都道府県内の就労支援の中核となる障害関係団体が一体となって官公需受注等の拡大に向けた全国的運動を展開するとともに、都道府県「共同受注窓口組織」の組織化に向けた具体的な取り組みを行う等の動きが本格化していきます。

このことは、就労支援関係団体がこれまで長年願っていたことが下地となって結実したものですが、とりわけ今般の景気後退の影響を受け、その具体的対応に向けた早急な取り組みと成果が求められています。

(あゆはひろし 全国社会就労センター協議会 制度・政策・予算対策委員会筆頭副委員長)