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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

精神障がいのある方を中心とした就労支援
~社会医療法人興生会の取り組み~

佐藤省子

1 はじめに

当法人における、働く支援の取り組みは、1960年代にさかのぼる。当時から、地域の企業の協力により、ナイトホスピタルとして、精神科病棟に入院中の患者さんたちが商店の配達や、クリーニング店の集配業務などに院外作業として積極的に取り組んでいたことに始まる。その後、退院されて地域で生活する方たちを、社会適応訓練事業の訓練生として受け入れていただきながら、就労の場としての「職」の提供をしていただき、地域生活を送る皆さんの「働く」「暮らす」を地域で支えてきた歴史がある。

2 通所授産施設「グリーン」の誕生

2000年7月、精神保健福祉法に基づく定員20人の通所授産施設「グリーン」が開設した。就労訓練の場としてはもちろんであるが、家族に頼ることなく地域生活を送りたいと願う利用者の方々が、安心して豊かな地域生活を送るための、安定した工賃を支払う……という目標が、私たちに与えられたもう一つの重要な課題だった。

作業種目は、クリーニングと売店の2種目で、どちらの作業種目も素人の私たちにとっての協力者は、地域のクリーニング屋さんや商店、そして関係機関だった。ランドリークリーニングのみとはいえ、業務用洗濯機等の操作はもちろん、クリーニング業を行うために必要なクリーニング師資格の取得に至るまで、地域のクリーニング店の社長さんのご指導により、何とか順調にスタートすることができた。

同様に、売店も仕入れから店内のレイアウトまで、以前から職親(社会適応訓練協力事業所)としてお世話になっている事業所さんから、商売のノウハウ等のアドバイスをいただきながら営業を開始した。

クリーニング作業の場合、立ち作業のため、体力的には少々きつい面もあるが、お互いに確認し合いながら作業を行うという点では、初めての方でも参加しやすい作業と言える。売店作業の場合、お金を扱う作業であることから、緊張感の伴う作業内容と言える。また、お客様と対面方式の作業であることから、精神に障害をもっている方が苦手とする、対人訓練の場ともなっているのが特徴である。

精神科病院を経営する医療法人立の施設であることから、系列の病院や老人施設からの委託によるクリーニング収入や、売店の販売収入があったことが、安定した授産収入の基盤になっていることはもちろんである。しかし、何といっても特徴的なのは、地域や関係機関による授産収入の協力である。具体的には、社会福祉協議会で行っている訪問入浴用のタオルのリネンや、地域の老人福祉施設等への定期的な訪問販売による販売収入等があげられる。

作業工賃は、開設当初は1か月あたりの平均は1万5千円程度だったが、2008年度は平均4万円代となり、障害年金と合わせると家族に頼ることなく、どうにか地域生活ができるようになった。

3 自立支援法への移行に向けて

当法人では、自立支援法が施行された平成18年10月時点で、通所授産施設「グリーン」のほかに、精神障害者生活訓練施設・地域生活支援センター・精神障害者福祉ホームB型・グループホーム6か所の事業を展開していた。地域生活支援センターの利用登録者を除く約100人の利用者とその家族の方々に、不安と不便をおかけすることなく、いかにして自立支援法に基づいた事業移行をするかが課題だった。

私たち「グリーン」の場合、

  1. サービスの質の低下をしない
  2. 利用者に不安・不便な思いをさせない
  3. 安定した工賃を支払う
  4. 安定した事業運営ができる

の4点を事業移行にあたっての課題とし、平成19年10月の移行を目標に準備を進めた。

そんな中、利用者の皆さんからは「自分たちはこのままグリーンを利用できるのか?」「利用料が高くなるらしい……」(※移行前は1日当たり100円の利用料)「就職したいけど利用期間を決められると、焦ってしまい体調を崩しそうだ……」等の声が聞かれたのも事実である。

このような実情を踏まえ、検討に検討を重ねた結果選択した事業形態が、就労継続B型事業(定員24人)と、就労移行支援事業(定員6人)を併せて行う多機能型事業だった。

法人全体としては、横手地域の関係機関と協力して図1のような支援体制をとることになった。

図1 横手地域社会資源マップ
図1 横手地域社会資源マップ拡大図・テキスト

4 新体系へ事業移行

自立支援法に基づく事業移行にあたり、20人の利用者の皆さんに、自立支援法の理念や各事業の内容、利用方法等についての説明会の機会を設け、移行後の利用についての選択をしてもらった。その結果、1名の方が市役所への利用申請と、障害程度区分認定調査を受けることに抵抗があるという理由で、自立支援給付の利用は当面控えたいと、退所の決断をされた。他の方々は、17人の方が就労継続B型事業を、2人の方が就労移行支援事業の利用を選択して、新たな契約を交わした。

「グリーン」の開設以来、精神障害者社会復帰施設として、箱払い方式の補助金で運営してきた私たちにとって、少々厳しいスタートとなった。というのも、東北秋田の雪深い地域にある私たちの施設は、毎年冬期間になると天候や体調不良を理由に休まれる方が多く、どうしても利用率が下がる傾向にあった。このため、9割保証があるとはいえ、日払い方式に対する不安は大きかった。

5 事業移行後の現状

もともと、20人定員だった施設を、自立支援法に基づき事業移行するにあたって定員を30人に増やしたことで、安全な作業訓練スペースの確保と、安定した工賃を支払うための作業種目の再検討が必要となった。作業訓練スペースの確保といっても、建物の構造と立地条件から、増築はほぼ不可能な状況だった。このため、事業所内での新たな訓練スペースの確保はあきらめ、事業所外に作業場所の確保を検討することにした。

幸いなことに、事業移行の時期が、経営母体の精神科病院の改築工事の時期と重なり、新たに、法人と病院内の清掃業務の委託契約を結び、毎日3人から4人の利用者の方が清掃作業を行うことができた。

同じ頃、地元の横手市より就労支援ステップアップ事業の一環として、横手市福祉事務所庁舎内での食堂営業のお話をいただいた。もともと庁舎内にあった食堂を無償で提供してもらえることになり、昨年3月に「ふれあい食堂」としてオープンした。

「ふれあい食堂」開設に際しても、地域の業者さんに営業許可の取得やメニューの選定等の手ほどきを受け、素人の私たちもプロに負けないくらいの「味」を提供できるようになった。また、初めは食堂での作業を敬遠しがちだった利用者の皆さんも、毎日の売り上げに一喜一憂しながら、仕込みや盛り付け、接客などの作業に自信を持って取り組んでいる。

利用者の皆さんが不安に思っていた利用料負担に関しては、個々人の状況による負担額の個人差に加え、事業種による報酬単価の違いがあり、負担額は0円から1万円代までと個人差があり、生活がかかっている利用者からは、当然不満の声も聞かれた(昨年7月の利用者負担の見直しにより、この点はかなり改善された)。

また、多機能型事業のため、それぞれの事業についての説明を十分行った上で利用者の皆さんに事業選択をしてもらったつもりでも、さまざまな理由により、途中でサービスの変更を希望されるケースもある。

6 事業移行後の就労状況

平成19年10月に事業移行してから、就労移行支援事業を利用した方11人のうち就職をした方は4人である。そのうち1名は売店での接客訓練を生かし、スーパーに就職した。他の3人は、障害者雇用枠で就職している。

就労継続B型事業利用者の中では、2人が就職に結びついている。うち1名は一般枠でのパート雇用、もう1名は食堂での作業訓練を経て、私たちの事業所「ふれあい食堂」で、調理や利用者のへの支援スタッフとして就労している。

事業所の規模が小さいこともあり、就職者6人という数は数字的に決して多くはないが、横手市内の有効求人倍率0.19という状況下においては、地域の理解と協力がないと現れない数字である。当法人としても、これまで、障害者雇用に取り組んできたが、障害者雇用促進法が改正されるまでは、知的障害・身体障害の方を中心に雇用してきた経緯がある。しかし、平成18年の障害者雇用促進法の改正により、精神に障害のある方も障害者雇用率の対象として算定されるようになったことで、障害の種別にかかわらず積極的に雇用に取り組んでいる。

7 まとめ

精神障害者福祉の分野は、他の障害分野が措置費制度から支援費制度に変わった際も、その対象とされることがなかった経緯がある。しかし、平成17年の障害者自立支援法の成立により、3障害の一元化が図られたことにより、ようやく他の障害者福祉と同じステージに立つことができた。まずは、このことを評価するとともに、われわれ事業者としては、当然のことではあるが、精神に障害のある方が、地域で働きながら、安心して、当たり前の生活を送れるよう、より専門的なサービス提供による支援に努めなければならないものと考える。

就労系サービス提供事業者としては、今後自立支援法の中に、就労支援の必要度についての内容が明確な形で盛り込まれることを期待したいところである。今後も、地域自立支援協議会等を活用しながら、障害者の方々の「働きたい」という思いと、「働く」意義を地域に理解していただくための啓発に努めたいと思う。

(さとうせいこ 社会医療法人興生会 就労支援センターグリーン)