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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

1000字提言

自分らしく生きる

南石勲

障がいをもつ人たちの「地域生活」を考えると、グループホームやケアホームという地域生活支援の場が増えてはきたものの、多くの場合、両親との同居によりその地域生活は支えられている現実がある。

親と子の関係は不思議なもので、五十路の私でも、両親にとってはいつまでも子ども。なにかれと注意を受けている。たぶんこの関係は、両親が他界するまで変わらないのだろう。

両親と同居している知的な障がいをもつ人の場合、両親の思いや意図に強い影響を受けながら生活が組み立てられており「自分らしい生活」が確立できていないケースも多いことが想像される。

親元を離れケアホームに入居し、少しずつ「自分の生活」を確立してきた女性がいる。

彼女は、養護学校高等部を卒業後、一般企業に就職したが6年で退職、その後2か所の通所授産施設を経て、私たちの作業所を利用するようになった。

作業所での彼女は、作業ペースは決して速くはないが、丁寧にきちんと仕事ができる反面、体調不良を理由に仕事に来られない日がとても多い。

母子家庭で、父親不在のこともあり、母親が作業所に行くよう強く勧めると母親に対して激しく暴力を振るう。そのため、「生活面も含めて全面的な支援をしてほしい」との母親の依頼を受け、生活支援へ乗り出すことにした。

「休まず仕事に行かなければならない」ことは十分理解していても、少しでも体調(本当は気分が乗らないだけのことも多い)が悪いと休んでしまう行為は、「母への甘え」に起因するもので、母親と同居の上で、この課題を克服することは不可能と考え、母親を交え本人と3人で話し合い、「もう一度会社で働きたい」との願いの実現に向けて、生活基盤を、親元よりケアホームに移すこととした。

母親との生活基盤の分離により、「適切な距離感」を保てるようになった彼女は、週末に帰省しても心を乱すことも無く、少々のことでは作業所も休まなくなった。

2年あまりの就労に向けての訓練を経た後、昨年末より念願の就労も果たせた。

知的な障がいをもつ人には、人と適切な距離を保つことが苦手な人も多い。保護者とも適切な距離感を保てる環境を整えることにより「自分らしい人生」をようやく創れる人も多いのではないだろうか?

私たちの生活支援の場は、利用者一人ひとりが「自分らしく生きる」場でありたい。

(なんせきいさお ワークスユニオン所長)