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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

人工呼吸器をつけて街に出よう!
~TILベンチレーターネットワーク「呼(こ)ネット」の発足~

小田政利

人工呼吸器ユーザーのネットワーク設立

都内では30年程前から「施設から地域」への自立生活実現とともに、地域での介護保障運動が行われてきました。特徴的な成果は「全身性障害者介護人派遣事業(サービス)」です。支援費制度が始まるまで、1日8時間365日の制度が都内で実施されていました。障害当事者が中心になって作り上げた制度です。

この制度では、医療と生活介護の境界線で起こる課題についても取り上げられ、制度の運用でカバーをしてきました。課題は入院中の介護や医療的行為です。入院中の介護は全身性障害者が完全(基準)看護の病院に入院しても、本人が希望するような介護は十分に受けられず、言語障害などがあるとなおさら介護は難しくなる現実がありました。そのような場合「主治医が認める範囲」で制度を運用してきました。

また、医療的行為とは、全身性障害者の中には気管切開や人工呼吸器を使って一人暮らしをしている者も少なからずおり、気管切開をしていて吸引が常時必要な場合、通常の訪問看護では必要なときに吸引してもらうことが困難なため、介護人が主治医の指導を受けて吸引を行うことが認められてきました。

2003年より措置制度から支援費制度、そして障害者自立支援法と変わっていく中で、全身性障害者介護人派遣事業の制度は、都独自の制度から国の制度(重度訪問介護)となってきました。しかし2005年には、痰の吸引等に関する国通知が出されましたが、入院中の介護や医療的行為の吸引など根本的な問題解決まで至っていません。

このような制度の変革の中でも、人工呼吸器を使いながら24時間、他人介護で自立生活を実現する進行性筋ジストロフィーなどの重度障害者が増えていき、都内のいくつかの自立生活センターにおいても、人工呼吸器ユーザー自身による相談事業やピアサポート事業が取り組まれてきました。しかし、人工呼吸器ユーザーの数は増えたといっても区市町村単位ではまだまだ少数であり、本格的に取り組む状況には至りませんでした。

そこで、都内の自立生活センターネットワークを利用して、人工呼吸器ユーザー自身によるネットワークを作り、自らの生活やこれから自立を目指す人工呼吸器ユーザーをサポートするための仕組みづくりが2008年度から始まり、TILベンチレーターネットワーク「呼ネット」を設立することになりました。

設立記念学習会の開催

多くの方々のご支援を受けながら、2009年3月20日に東京国際フォーラムで「TILベンチレーターネットワーク設立記念学習会 人工呼吸器をつけて街へ出よう!」を開催しました。昨年の夏から月1回、事務局メンバーで会議を行い、準備を進めてきました。

できたばかりの「呼ネット」を温かく支援してくれたのが、ALS患者の在宅療養を支援している「さくら会」です。さくら会からは、準備期間中に何度かアドバイスをしていただきました。また代表の橋本みさおさんには、設立記念学習会の第一部の基調講演をお願いしました。

会場の下見をした際、その広さに見合った参加者が本当に集まるのかと心配していましたが、その心配をよそに、当日は用意したイスが足りないくらいの方々の参加があり、また熱心に傾聴される参加者の姿を見て、私たちのように人工呼吸器に関する情報を渇望している人たちがこんなにたくさんいることに、「呼ネット」の存在の意義深さを感じ、また身が引き締まる思いでした。

この設立記念学習会は、三部構成で行いました。第一部では、さくら会代表の橋本みさおさんによる基調講演。人工呼吸器ユーザーとして、そして在宅療養のパイオニアとしてのお話、また人工呼吸器ユーザーとして普通に犬を飼っていらっしゃるお話など、非常に興味深い内容でした。

第二部では、「呼ネット」の紹介をしました。説明不足の点もあったかもしれませんが、このネットワークにかける事務局の思いは十分伝わったのではないかと思います。

第三部では、1.呼吸器の検討・受容・導入、2.医療ケアって大丈夫?リスクとメリット、3.サポーター(介助者)から見たベンチレーター、4.人工呼吸器を使っての生活・外出ってどんなもの?という4つのグループに分かれ、参加者の生の声を聞きました。わずかな時間でしたが、参加者の日頃の悩み、思い、疑問、不安などを聞くことで、「呼ネット」が今後、進むべきいくつかの道すじが見えてきたのではと思っています。

今後こういったイベントを毎年行っていくことで、障害の種類に関わらず、人工呼吸器ユーザーとして大同団結し、支援の輪が全国に広がっていくのではないかと思います。

これからの活動―当事者ならではの視点で

「呼ネット」は、まだまだ設立したばかりの若い団体で、活動内容も試行錯誤の段階です。人工呼吸器を付けている人でも安心して地域社会に出て行けるよう後押しをするための活動として、先日、いくつかの活動案が事務局会議で出されました。

何と言っても、人工呼吸器ユーザーにとって、電源の確保は社会参加に大きく影響します。しかし、現在は人工呼吸器内部にバッテリーが内蔵されていないタイプもあり、仮にバッテリーが内蔵されていたとしても長時間は持たないので、外に出る機会の多い人は、必ず外部バッテリーを1つか2つ持ち歩きます。しかし、その外部バッテリー購入には行政からの補助制度は一切なく、全額自費負担の上、一つ10万円以上もするものまでいろいろあります。そこで、人工呼吸器の電源確保のための運動をしていく必要があると思っています。

また、使用する人工呼吸器やインターフェースは、自分がかかっている病院によって自動的に決められています。患者は、その呼吸器の存在しか知りません。しかし、実はたくさんの種類の人工呼吸器やマスク、マウスピースなどのインターフェースがあり、病院で導入することになったものよりも、ずっと自分が使いやすいものがあるかもしれないのです。それを知ることがまずは大事ですので、さまざまな人工呼吸器、インターフェースを展示&試着できるイベントを開催し、自分に一番合った人工呼吸器やインターフェースの選択を主張できる環境の第一歩を作りたいと思っています。

しかし、もっとも大切なのは、環境さえ整えば、人工呼吸器を使う前と同じように地域生活を送れる可能性があるということを、人工呼吸器ユーザー、もしくはユーザー候補者が、事前に十分な情報を得ておくことです。そのために、さまざまな呼吸器、関連機器、ユーザー当事者の生活状況、日常生活の中での工夫、人工呼吸器生活上の注意点などの情報を集約し、「呼ネット」にアクセスすれば、多少なりとも人工呼吸器を使うことになった場合の生活をイメージできるようにしたいと思っています。そして、「呼ネット」をアピールするためのパンフレットや小冊子作成、定期的な小グループでの学習会やディスカッション、交流会としての「呼ネットcafe」を開きたいなど、これからやっていきたいことはたくさんあります。

これまでも、家族の立場や医療関係者の立場からの人工呼吸器ユーザーサポートグループはあったと思いますが、「呼ネット」のように、日常的に人工呼吸器を使う当事者たちが活動の中心となるグループは、東京の中でさえなかったと思います。当事者ならではの「ピア」の姿勢、当事者ならではの「説得力」をウリに、地域で自分らしく「生活」を送れる仲間を増やしていきたいと思います。

(おだまさとし TILベンチレーターネットワーク「呼ネット」代表)