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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

盲ろう者が政策決定過程に参加するためには

庵悟

日本では、盲ろうが独自の障害として位置付けられていないため、重複障害のひとつか聴覚障害の一部もしくは視覚障害の一部としてくくられてきた。そのため、つい最近まで盲ろう者の存在が社会的にも認知されてこなかった。

1981年、筑波大学附属盲学校(現在の筑波大学附属視覚特別支援学校)の生徒であった福島智氏の大学進学を支援する会「福島智君とともに歩む会」の結成、1984年、大阪に門川紳一郎氏の大学進学を支援する会「障害者の学習を支える会(門川君とともに歩む会)」が結成された。これらをきっかけに、1991年には、社会福祉法人全国盲ろう者協会が発足、通訳・介助者の養成と派遣事業が全国規模で開始されるようになった。これらの取り組みをきっかけとして、全国各都道府県に「盲ろう者友の会」等の盲ろう者地域団体の結成が進められた。2009年6月現在、42の都道府県に盲ろう者地域団体ができている(未設置県:青森・山梨・福井・高知・鹿児島)。

こうした中で、盲ろう者の存在が少しずつ知られ、県単位の各種の障害者関係の審議会等の会議に、盲ろうの代表が参加するようになってきている。国レベルでは、当協会が日本障害フォーラムの一員として政府との意見交換会や各種委員会に参加し、特に障害者権利条約の制定や批准に向けての会議では、盲ろう者の立場を積極的にアピールしてきた。

しかし、立法・行政など政策決定過程において、盲ろう者が参画していない分野がまだまだ多い。たとえば、2011年の地上デジタル放送への全面移行にかかわって、総務省において「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」が開催されているが、全国盲ろう者協会は構成メンバーに入っていない。

そこで、政策決定への盲ろう者参画におけるバリアの実態を明らかにする中で、何が必要なのか述べてみたい。

厚生労働省の平成18年度身体障害者実態調査によれば、日本の盲ろう者の数はおよそ22,000人と推計されている。視覚と聴覚に障害を併せもつ盲ろう者は、日常生活の中でさまざまな不便さを抱えている。

テレビ等のマスメディアからの情報や自分の身の回りの情報を得ることが極めて難しい。最近、インターネットやメールを使って情報を入手できる盲ろう者が少しずつ増えてきてはいるが、まだほんの一握りの盲ろう者しか使えない。圧倒的多数の盲ろう者は、家族や通訳・介助者による直接的なコミュニケーションや通訳を介してでしか情報を得ることができない。

そのコミュニケーション方法も、盲ろう者個人によって、まちまちである。触手話・弱視手話・指点字・指文字・ブリスタ・手書き文字・筆記・パソコン通訳・音声等が用いられているが、盲ろう者が通訳を受けるには、ゆっくりとしたペースでないとついていけないことが多い。

委員会等の会議の時、始まる前に私たち盲ろう者は、「発言する時は自分の名前を言ってから発言してください。そしてゆっくり話してください」といつも言っている。

盲ろう者は、目と耳からの情報が入らない(または入りにくい)ため、発言者の顔が見えないし声が聞こえない。また、発言者の発言に対する他の参加者の反応も分からない。部屋の中にだれがどこにいるのかが分からない。そのため、通訳・介助者はこういった情報を盲ろう者に伝えながら(状況説明)、話の内容を通訳している。したがって、会議はゆっくりめのペースで進行されないと通訳が追いつかない。

だから、会議の進行は、間をおきながら進めるとか、一つ一つ確認をとってから次へ進むという配慮がほしい。また、発言者は話をできるだけ短く区切りながら、ゆっくりめに話してほしい。すなわち、盲ろう者のペースに合わせてほしい。

それから、1時間以上の会議の場合は、休憩を設けてほしい。盲ろう者は触手話や指点字等両手を使って通訳を受ける場合が多いので、途中お茶を飲みたくても飲めないのだ。

政策決定のような高度な技術を必要とするような会議の場に派遣できる盲ろう者向け通訳・介助者が非常に限られているのが大きな課題となっている。私たち盲ろう者自身も通訳・介助者を育てる努力をしつつも、会議主催者側の方でも盲ろう者向けの通訳・介助者の派遣ができるようにしてほしい。

また、会議の開催方法で盲ろう者が自力で情報を得たり発信できるようにする工夫も考えたい。たとえば、パソコンを使いこなせる盲ろう者には、チャット形式やメーリングリストを活用すれば参加しやすい場合がある。

会議当日に配布される資料は、事前にできるだけ早めに送ってほしい。会議中、通訳を受けていると、資料を確認しながら話を理解することができないからだ。また、事前に資料を読んで意見をまとめる時間が必要なので、最低でも1週間前までには資料があるとよい。

もし、どうしても事前に送ることができない場合は、当日配布資料には点字版や拡大文字版を用意してほしい。

わが国では、国や自治体等での政策が決まる過程があまりにも速すぎて、政策決定過程に盲ろう者が参画するにはまだまだハードルが高い。しかし、盲ろう者が参加することによって、あらゆる障害者が政策決定過程に参加しやすくなり、すべての人にとって暮らしやすい社会づくりにつながっていけば、と願う。

これからも各分野での政策決定の場に盲ろう者が参加する機会を増やしていきたい。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会職員)