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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

1000字提言

ポンちゃんと私のALS

橋本みさお

ポンちゃんは5歳になりました。シーズーとミニチュアダックスフントの雑種ですが、このごろはもっぱらシーズーめいています。同居する私は5月で在宅療養も17年目に入り、しかも再入院の経験が無いという、意外に元気な56歳ベンチレーター使用の重度障害者です。ポンちゃんと会ったのは、5年前の3月31日。東大中村祐輔教授のヒトゲノム解析に、日本ALS協会も参加が叶った年でした。私も採血のために最寄りの登録病院である日大板橋病院に行った帰り道でした。もしも私が、徳州会鎌倉病院で採血していたら、ポンちゃんもウチには来なかったのです。そういう偶然好きです。

私、子は1人しか産んでいません。母には、1人や半分の子持ちは親のうちに入らないと見下されたものです。苦痛や苦悩に対しては、人としての許容量が最低ランクなので、複数の子どもを平等に育てる器量は無いのです。

そんな私が言うのもなんですが、みなさまは産めるものならたくさん産んでください。可能なら養子も良いと思います。あっ、犬も良いと思います。わたし的には、実子も犬もさほど変わりないのですが、人間の子は社会が生かしてくれて、犬の子はだれも助けてくれないという現実はあります。特に、うちのポンちゃんのように一代ミックスで血統書もなく、一見して維持費のかかる犬を拾ってくれる粋狂な人はいないと思います。人の子と違って育ってくれないのも難点です。ずっと、ずっと気ままな甘えん坊です。

私がALSを発症したとき、子は5歳でした。毎日毎日、塾とお稽古。それでも、あんなもんです…。どこにでもいる一般的な28歳の人に育ったと思います。できれば、あと5年発病を遅らせてほしかったかなとは思いますが、欲を言ったらキリが無いし、自分なりに頑張ったかもしれないと思うこともあるのです。子育ては、かなり面白い仕事なのですが、ひとりっ子を子どもとして一般社会に送り出すのは至難の業です。核家族で専業主婦の子育ては、どこまでも自己満足を追い求めている気がします。このごろ増えている若いママさん患者に伝えたいことが一つあります。「大丈夫ですよ。あなたが抱きしめられなくても、社会が抱きしめてくれるのです」

昔、児童心理の先生から聞きました。傍らにいる人は必要だけれど、母親である必要は無いのです。わが家は兄と兄嫁たちでした。ALS患者が人工呼吸器を付けてベッド上で犬を遊ばせる図は、少し前まではありえないことでした。このごろは良く見かけます。介護者の癒しにもなっているようです。

『MR.BRAIN』を眺めながら脳生ALSも、まだまだ行ける!と思うのです。

(はしもとみさお 日本ALS協会副会長)