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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

ワールドナウ

災害と障害者
~ミャンマー(ビルマ)サイクロン災害支援の現場から

野際紗綾子

2008年5月2日から3日にかけて大型サイクロン「ナルギス」が、ミャンマーを直撃した。ミャンマー政府発表によると、死者は138,373人、負傷者は19,359人に上る。また、国連によれば、深刻な被害を受けた被災者は240万人と推測されている。本稿では、災害と障害者について、サイクロン被災状況と国内外からの支援活動の概要、難民を助ける会による支援活動の概要、今後の展望と課題を中心に考えてみたい。

サイクロン被災状況と国内外からの支援活動の概要

ミャンマー連邦における障害者の割合は2.35%で1)、被災地域には3~5万人の障害者(うち5千人が障害児)が居住すると推定されている。サイクロンによる死傷者約16万人のうち、61%を女性や子どもが占めるとされているが2)、これは弱い者ほど被害が多かったことを意味する。このことから、障害者が受けた被害も、きわめて大きかったことが予想される3)

難民を助ける会には多くの団体の方々がご寄付やアドバイスをくださったほか、団体機関紙やメールマガジンなどで状況を紹介し支援を呼びかけてくださった。温かいご理解や真摯なご協力に、本誌面にて、重ねて御礼申し上げると同時に詳細をご報告させていただきたい。

難民を助ける会による支援活動の概要

(1)緊急支援第一弾:サイクロン発生直後(2008年5月11日~5月28日)

私は、サイクロン発生から6日後の5月8日に被災地に入り、最大都市ヤンゴン周辺を中心に、716世帯(約3,600人)の障害者(児)世帯を個別訪問し、米、豆、油、飲料水、ビニールシートなどの緊急支援物資の配布を行った。サイクロンにより、食糧や水などの物価が10日間で数倍に高騰し、建物や道路などに大きな被害が出、障害者世帯は支援のみならず、情報を得ることさえも難しかった。そのような状況下で、障害者や貧困層の多く住むフラインタヤー地区などで、一軒一軒の世帯を訪問しながら確実に支援物資を届けた。被災者の方々からは、「まさかこんなに早く届くとは思わなかった。ありがとうございます」「きっと私のところには届かないだろうと絶望的な気持ちでいたので、本当にうれしいです」という声が聞かれた。

支援のポイントは、ネットワークを活かした迅速かつ確実な配布である。ミャンマー身体障害者連盟(MPHA)、エデンセンター(ECDC)、ヤンゴンろう協会(YDA)、ミャンマー・キリスト教盲人フェローシップ、メリー・チャップマン盲学校、さらに障害者の自助組織(RPDG)などの協力なくして、本活動は達成されることはなかったであろう。

(2)緊急支援第二弾:サイクロン被災から1か月後(5月29日~8月31日)

被害の大きかった地域の多くが、網の目のように入り組んだ川に囲まれたエヤワディ管区のデルタ地帯にある。被災地の中には、モーター付きの小型ボートでさえも入れず、小さな手漕ぎボートでなければ行けないような村もある。前記の協力団体と緊密に連携して、支援がほとんど届いていない僻地の貧困層や障害者(児)世帯を含む約18,615世帯(約8万7千人)に緊急支援物資を配布した。一世帯当たりの緊急支援物資の内訳は、米8~50kg、飲料水2~20リットル、食用油1リットル、豆1kg、塩、鍋、皿、スプーン、ビニールシート、蚊帳、木炭、ろうそく、ライター、石けん、洗剤、毛布である。

(3)緊急支援から災害復興支援へ:サイクロン被災から4か月後(2008年9月1日~2009年1月31日)

刻々と変わるニーズに応えるべく、9月からは、被害の最も大きかった奥地で、1.保健医療サービス・心のケア、2.栄養改善(食糧・肥料の配布と栄養教育)、3.被災した障害者への補助具の提供と障害理解促進のための啓発活動を行った。この活動の特徴は、保健医療や障害者支援、心のケアなど、さまざまな専門知識を持つスタッフを1つの巡回支援チームにまとめ、そのチームが被災地の村を回りながら、多面的な支援活動を行うことである。交通アクセスの悪い被災地を中心に1か所に2週間程度滞在し、村の保健医療ボランティアを育成しながら保健医療サービスの提供や基本食・肥料の配布等の活動を実施した。

同時に、障害分野においては、現地団体(エデンセンターやミャンマー身体障害者連盟)との協力関係を活かし、理学療法士による面談後、被災した310人の障害者(児)へ車いすや義肢装具、松葉杖等の補助具を提供した。サイクロンで多くの障害者が補助具を失ったと聞いていたが、奥地の被災地では、車いすや松葉杖を初めて目にするなど、補助具に接したことがなく、ほとんど外出することのない障害者も多く見受けられたことから、都市よりも地方で問題が深刻であることが再認識された。そこで、当会が作成した啓発冊子「Society for All(万人のための社会)」を活用しながらワークショップを開催したところ、10,880人もの住民が参加し、アンケート調査では8割以上の参加者が「(ワークショップ前よりも)理解が深まった」と回答してくださった。住民の方々の前向きな対応にスタッフ一同、大きく勇気付けられたこともあった。

(4)災害復興支援とCBR:サイクロン被災から9か月後(2009年2月~)

2009年2月からは、被災地域でCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を実施している。当会は、2007年から2年間、エデンセンターの協力により、ヤンゴン市内の貧困地区であるフラインタヤー地区でCBRのパイロット事業を行ってきたが、その活動を状況の深刻な被災地3地区(エヤワディ管区ラプタ地区、ヤンゴン管区ダラー地区・シュエピター地区)で本格化させた。主な活動は、1.研修、2.被災した障害者への補助具の提供、3.統合教育の推進、4.ユニバーサルデザインの推進(公共施設や住宅等)、5.照会活動、6.啓発活動、7.自助組織(SHG)の結成・活動支援、8.生計支援である。

活動が始まってからわずか数か月ではあるが、ダラー地区で初の障害当事者による自助組織の結成準備が着々と進んでいるほか、被災した住宅9棟のバリアフリー化や公共施設の2棟の入口をスロープ化することができたので、今後のますますの自助組織と政府担当者との会合の活発化・円滑化が期待される。

災害支援全般においては、“Build-Back-Better(災害前よりもより良い状態へ)”がキーワードの一つとされてきたが、本CBR事業においても、たとえば、段差のある玄関を元の状態に修復するのではなく、玄関をスロープ化し、必要に応じて車いす等の補助具を提供し、リハビリの方法を教えたり、障害についての理解を促進するよう啓発したり、また仕事を再開するための資本金や物資を提供したり、自助組織に参加してもらったりと、さまざまな付加価値を創出することで災害前よりもより良い状態の実現を目指している。また、ヤンゴン市内のすべての自助組織の参加の下、4月の水祭りで啓発活動が行われた。根強い差別のもと、ミャンマーではいまだに障害者が冠婚葬祭の場に招待されないことも多い中で、本活動は規模と効果の面で画期的であったと思われる。

今後の展望と課題

災害復興計画は、2008年秋ごろから現場の調整機能であるクラスター会議で、国連・現地政府・国内外のNGOによって数か月にわたって協議された後、2008年12月にASEAN・ミャンマー連邦政府・国連によって「(サイクロン)ナルギスからの復興計画書(通称PONREPP)」として最終的にまとめられた。同計画では、障害部門の復興について、「障害者の移動やアクセスを改善し、平等な一員として社会参加できるようにする」ことを目標として掲げ、二つのアプローチを提示している。一つ目は障害のメインストリーミングの推進、二つ目は政策・プログラムの発展を通じたその障害固有のニーズへの対応であり、その双方がCBRに焦点を当てている4)。当該国でサイクロン後に障害分野に取り組んでいる団体は、国際NGO5団体、国内NGO26団体とJICAの計31団体/機関であるが、向こう3年間は、前述の復興計画を考慮した活動の展開が予想される。

課題は大きく三つある。第一には、国際社会において確固とした災害予防策がいまだ構築されていないことである。一つ一つの災害の経験と教訓を活かすことが、未来の災害被害を最小にとどめる最良の手段であろう。2009年5月12~13日にタイ・プーケットで防災と障害についての国際会議が開催されたが、これは大変有意義なものであった。会議の成果を早急に実務レベルに具現化することが期待される。そして、第二の課題としては、長期的な展望に基づいた資金繰りの困難性が挙げられる。災害直後は通常よりも遥かに多くの関心と募金が集まる。しかし、災害からの時間経過とともに人々の関心が薄れ行く中で、復興のための活動募金を得ることは容易ではない。第三には、アクセスの極めて困難な奥地・辺境地に位置する過酷な環境の被災地で、いかにスタッフ・関係者の安全と心身の健康を確保しながら活動を継続していくかである。関係者のモチベーションの維持・発展のための工夫や応援を欠かすことはできない。

災害からの真の復興と、障害のメインストリーミングは、10年単位の長期的かつ地道な取り組みを要する。そして、被災から1年が過ぎた今、国際社会とミャンマーの人々とが協力する緊急性・重要性・必要性は、これまでになく高まっている。本課題の大きさ・深さは、幸い日本の経験・知見やリソースを役立てる機会がたくさんあることも示唆している。ミャンマーの障害者の状況について、ご関心のある方・団体がいらっしゃったら、ぜひともご一報いただきたい。今、この瞬間も、現地では障害者・非障害者のスタッフと被災者とが、手と手を取り合って、必死に活動を続けている。すべての人が希望を持てる社会を築くために。

(のぎわさやこ 難民を助ける会)

1)Tha Uke [2009] Community Based Rehabilitation (CBR) Experience from MYANMAR,presentation at the 1st Asia-Pacific CBR Congress on 18-20 February 2009,Bangkok,Thailand

2)Tripartite Core Group [2008] Post-Nargis Recovery and Preparedness Plan,http://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/759E475C6B23BEA7C125755800439C57-full_report.pdf p.58

3)障害者の被災状況は、2009年夏ごろに調査報告が正式に公開される予定である。

4)Tripartite Core Group 前掲書,p.59,89