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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

北海道障がい者条例成立

中野孝浩

障がい者条例について

障害者自立支援法が施行されて3年が経過し、また、障害者権利条約の批准に向けた検討も進められているが、北海道においても、障がい者の地域生活支援に向けたさまざまな取り組みが進められてきている。

こうした中、北海道議会では、各会派により、北海道らしい障がい者支援条例づくりの検討が進められ、会派間の政策協議が重ねられた結果、自民・民主・公明・フロンティアの4会派共同の議員提案条例として平成21年2月開催の定例道議会に「北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例」(以下、本条例)が提案され、同3月、全会派一致で可決・成立した。

本条例の本格施行については、関係者の意見を十分に踏まえた施行準備が必要であるため、平成22年4月を予定している。

条例の概要

障がい者の「権利擁護」と「暮らしやすい地域づくり」の二つを柱としており、その内容については、単に基本理念を規定するのみならず、地域で暮らす障がい者を支援する包括的かつ具体的な施策により構成されている。

(1)障がい者の権利擁護(第3章)

本章においては、道及び道民の権利擁護に関する配慮義務(第19条)や「学校、公共交通機関、職場その他障がい者が生活をする場」における障がい者への必要な配慮の努力義務(第20条前段)や差別・不利益扱いをしてはならない旨(第20条後段)が規定されている。

また、虐待については、具体的に障がい者に対する虐待を定義した上で、当該虐待行為を行ってはならない旨の明示的な禁止規定が置かれている(第21条)。

なお、虐待禁止規定については、罰則は存在しないが、これらの規定に反する行為については、障がい者に関する各種法令等に基づく措置による是正はもちろんのこと、本条例においても、第42条に基づく地域づくり委員会の協議、第47条に基づく調査、第48条に基づく指導や勧告等の措置が準備されているところである(後述(4)参照)。

(2)障がい者が暮らしやすい地域づくり(第4章)

1.地域づくりガイドラインの制定

身近な自治体である市町村の役割が大きくなってきている障がい者をめぐる制度の状況を踏まえ、本条例においては、道は、「障がい者が暮らしやすい地域づくり」推進のために市町村が実施することが望ましい支援体制の確保などに関する事項についての地域づくりガイドライン(基本指針)を定めることとしている(第22条・23条)。

2.道による支援策

また、本条例においては、道は、こうした市町村に対する地域づくりガイドラインを定めるのみならず、道として、当該ガイドラインに基づき、「市町村の取組に対する助言等を行う支援員」として専門職を各圏域に配置するほか、道は、地域づくりガイドラインに基づく施策に必要な人材の養成その他の市町村の体制の整備に対する支援策を講ずることとされている(第27条)。

なお、道においては、この条例の施行に先立ち、平成21年度からの新規事業として、道内の各障がい保健福祉圏域(21圏域)ごとに、市町村に対するアドバイザー役として「地域づくりコーディネーター」を配置する事業をスタートさせており、本年4月1日付けで知事による委嘱を行ったところである。条例の施行までの間、この地域づくりコーディネーターの活動状況も踏まえながら、実践的かつ効果的な地域づくりガイドラインの策定に向けた検討を行っていくこととなる。

(3)障がい者に対する就労の支援等(第5章・第6章)

1.就労支援推進計画・就労支援推進委員会

具体的な道の就労支援策を推進するための施策として、道による「就労支援推進計画」の策定義務(第29条)を定めるほか、障がい者、学識経験者その他から構成され、障がい者の就労支援施策の推進に関して調査審議を行う「北海道障がい者就労支援推進委員会」を設置することとされている(第6章)。

2.指定法人制度

道による就労支援の実施体制の強化を図るため、障がい者の就労支援に関する業務を行わせるための「指定法人」制度を導入している。この制度は、職務遂行能力等一定の基準を満たす非営利の法人を指定し、いわゆる授産事業所などの福祉的就労事業所の販路確保などの業務を行わせるものであり、事業の適正を担保するため、事業報告書の承認をはじめとした道による監督措置が規定されている(第31条)。

3.認証制度の導入等―企業との連携―

このほか、企業と連携し、企業の力を活用した就労支援を促進する観点から、障がい者の就労支援を行う事業者を道が認証する制度を導入するとともに、企業が当該認証を取得するインセンティブを付与するため、認証企業に対し、道の低利融資や入札上の優遇措置を講じる(第30条)ほか、道の調達に当たっては、いわゆる授産事業所などの福祉的就労事業所や認証企業に対して配慮すべき旨が規定されている(第32条)。

なお、障がい者就労支援企業の認証制度については、先行して、平成21年度から道により導入されているところである。

(4)障がい者が暮らしやすい地域づくり委員会(第7章)

1.委員会の設置・構成

道内の「規則で定める圏域」ごとに、サービスのあり方、虐待や差別その他障がい者の暮らしづらさなど幅広い協議を行う場として「地域づくり委員会」を設置することとされている(第41条)。この委員会は、地域の障がい者、地域住民、学識経験者、行政機関職員などの委員と委員会主催者である「地域づくり推進員」から構成される(第42条・第43条・第44条)。

2.地域づくり委員会の運営

地域づくり委員会は、地域づくり推進員の主宰の下、協議事項の内容に応じて、委員のうち適当な者が協議に参加する(第46条第3項)ほか、必要と認める参考人の参画を求めることができる(同第4項)など、フレキシブルな運用が認められている。

なお、地域で解決がつかない課題等については、道の本庁レベルで設置される「北海道障がい者が暮らしやすい地域づくり推進本部」の審議を求めることができることとされている(第46条第5項)。

3.調査・指導・勧告

虐待や権利侵害事案に関し、必要な事実を確認するための「調査」、著しい暮らしづらさ解消のための「指導」、当該指導がなされたにもかかわらず、改善が図られない場合の知事による「勧告」について、それぞれ一定の要件の下で実施することができることとされている(第47条・第48条)。

(5)北海道障がい者が暮らしやすい地域づくり推進本部(第8章)

障がい者施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、道の本庁レベルで、知事を本部長とした「北海道障がい者が暮らしやすい地域づくり推進本部」を設置することとされている(第49条)。

この推進本部においては、障がい者が暮らしやすい地域づくりの推進に関する重要事項のほか、各圏域の「地域づくり委員会」から審議を求められた事項などについて所掌することとされており(第49条第2項)、後者について審議するために推進本部に「調査部会」を置くこととされている(第50条)。【図表】

北海道がい害者条例に基づく関係組織等
図 北海道がい害者条例に基づく関係組織等拡大図・テキスト

今後の課題とスケジュール

本年7月、知事を本部長とする「条例施行準備推進本部」が開催され、平成22年4月に予定されている本格施行に向けて、障がい当事者も入れた有識者会議を設置し、地域づくりガイドラインなどの具体化に向けた検討を進めること、道内各地でタウンミーティングを実施することなどを内容とする「基本方針」が決定された【図表】。

施行に向けたスケジュール
図 施行に向けたスケジュール拡大図・テキスト

施行に向けて、地域づくりガイドラインの具体化や地域づくり委員会の運用方針の決定などの重要な作業が残されているが、道としては、「障がいのある人が当たり前に暮らせる地域は誰にとっても暮らしやすい地域である」という考え方の下、こうした施行準備の過程においても、地域の声、関係者の声を聴くといった「対話」重視の姿勢で取り組んでまいりたい。

(なかのたかひろ 北海道保健福祉部福祉局次長)