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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

しょうがいがある人の子育て支援

林弥生

はじめに

私たちが、これまでに同棲や結婚について具体的に支援をしたカップルは27組います。親である彼らには、主に知的なしょうがいがあります。この27組のうち、子どもを授かったカップルは4組、子育てについて私たちが支援に入ったカップルは2組です。実は、この原稿を書いている最中に、あるカップルに赤ちゃんが授かったといううれしいニュースが飛び込んできました。よって、3組のカップルの子育てに関わっていることになります。

親になる以前から始まる子育て支援

子育て支援は子どもを授かるずいぶん前から始まっています。衣・食・住、仕事、おつきあい等、たくさんの場面に関して、どのような支援がどういった優先順位で必要かを考えていきます(図参照)。ほとんどのカップルが恋愛関係から同棲や結婚に至っているということもあり、交際している段階からさまざまな支援に入ります。2人の関係が深まるにつれ、セックスや避妊について、また結婚や新生活に向けての預貯金、それぞれの家族との話し合い等、支援の内容はさまざまで、カップルに応じてその頻度もまちまちです。どちらかというと、子育てよりも結婚を意識した計画が立てられます。

図 どんな支援が必要かなどを考えるときに使う。図に○をつけたり、文字を書き込む
漢字の読み書きができる人用
図 どんな支援が必要かなどを考えるときに使う。漢字の読み書きができる人用拡大図・テキスト
漢字が苦手な人用
図 どんな支援が必要かなどを考えるときに使う。漢字が苦手な人用拡大図・テキスト

セクシュアリティ講座~体のべんきょう会~

私たちは、25年程前から知的しょうがいのある人たちの地域生活を支援してきました。地域生活は、当事者の人たちにさまざまなことが起こるということを意味します。当然、支援者として、支援方法に戸惑うこともたくさんあり、その中の一つにセクシュアリティに関する支援がありました。私たちの現場では、当事者がセクシュアルな事件の被害者や加害者になることもあり、また望まない妊娠や中絶を決断せざるを得ないということもありました。私たちは、知的しょうがいのある人たちが恋愛をし、望んだ家庭を持つさまを見守り、地域支援の醍醐味を味わいつつ、一方で、彼らのセクシュアリティについて支援しかねる状況も抱えていたということです。

セクシュアリティについて彼らとざっくばらんに話し合う場や、彼らが実際に「使える」情報提供の不足を痛感していたことから、外部の専門家を招いて継続的にセクシュアリティ講座を開くことになりました。

現在は毎月1回、カップル、シングルを問わず、希望者が参加する形で講座は開かれています。内容も多岐にわたり、交際、セックス、避妊等のセクシュアルなテーマになることもあれば、健康管理や栄養管理等のテーマになることもあります。基本は複数の参加希望者によるワークショップですが、必要に応じて個人的な相談にものってもらえます。この講座は、当事者にとっても支援者にとっても課題解決の拠り所となっています。

子育て支援あれこれ

Aさんカップルは、1年半の同棲生活を経て入籍しました。入籍後しばらくして、「なかなか妊娠せんのはなんで?」と相談してきたAさんたちに、奥さんの基礎体温を計り、妊娠しやすいタイミングを自分たちで知るよう支援しました。入籍から10か月、Aさんたちに赤ちゃんが授かりました。通院にはなるべく夫婦で出かけ、支援者も付き添うことにしています。

奥さんの職場には産前産後の休業保障がなかったので、いったん退職を余儀なくされると想定していましたが、妊娠が分かり上司の方と相談した結果、これまでの仕事ぶりも評価され、出産後復職できるよう配慮していただけることになりました。今後、つわりや流産等配慮の必要な時期を迎えるので、Aさん夫婦とは密に連絡を取り合うようにし、仕事中の体調不良にも支援者が駆けつける体制をとり、会社と連携をとるようにしています。

Bさん夫婦は予期せず妊娠が分かりました。出産費用もままならない状況でしたが、夫婦で話し合い、出産することを決めました。産前産後は保健師さんから分かりやすく出産に向けての準備や赤ちゃんの育て方を教わり、時々家庭訪問をしていただきました。経済的な事情から、奥さんは産後数か月で復職することになりましたが、乳児保育所の定員が新年度まで空かないため、支援センターで数か月間、日中預かることになりました。この間、スタッフが赤ちゃんのお世話の腕前を上げたのは言うまでもありません。

Cさんは高校生の娘さんをもつシングルファーザー。小学校に入学した頃から、学校からのプリント類や手続きについて分かりづらいと支援者に相談があったり、三者面談に付き添ってほしいと言われたりする機会が増えました。3年前に離婚をしましたが、それ以前から奥さんと別居をしていたこともあり、娘さんが年頃になると、女性用の下着の購入や生理用品の使い方について女性支援者から具体的なアドバイスをすることがありました。

親の向こうに子どもがいるということ

3組のカップルの子育て支援に携わって大切だと思うことは、親である彼らと支援者との関係性です。子育て支援に限りませんが、支援関係とは、いつも笑顔でお互い気持ちよく関係が継続するばかりではありません。当事者に対して、うまくいっていないことを指摘したり、支援したりすることが多く、実際に行われる支援が本当に必要かどうかということについて、当事者と支援者とで温度差が生じることがあるからです。

たとえば、赤ちゃんが小さい頃、「かわいいねぇ」とたくさんの人から言われたいと、親である彼らが赤ちゃんのお披露目行脚をし、赤ちゃんの疲労を察することができず、体調不良になったことがありました。また、気候に合った服装をさせず風邪をひかせたり、オムツ交換のタイミングやアフターケアの不足でひどいただれを起こし、なかなか治らなかったりしたこともあります。

支援者はこういう場面で理由を伝え、お手本を示したり、対処法を伝えたりしますが、親である彼らがそのことについて納得しなければ、赤ちゃんへの対応は変わらない状況が続きます。その後、支援者からの指摘が続くと、彼らは支援者をうっとうしく感じるようになったり、相談をしなくなったりすることもあります。

支援者からすれば、親である彼らが自ら考えて子育てをしていくことを支援するのであり、直接子どもを支援するのではないので、支援関係は遠くなるという実感があります。この支援の必要性の温度差について、直接支援に入る場合は、当事者が支援を必要とするまで待ったり、さまざまな経験をしてもらう中で必要な支援の確認をしたりしますが、支援の納得が遅れることでさまざまなしわ寄せが弱い立場の子どもに影響することもあり、支援者としては待てないと感じられることが多いことがあります。

おわりに

先日、シングルファーザーのCさんと結婚生活や娘さんの子育てについて話をする機会がありました。結婚していた当時は支援者と距離をとっていたCさんですが、最近は、支援者と共同で娘さんのことについて相談する機会が増えています。

支援者だけでなく、ドクターや看護師、保健師や学校の先生、職場の人たちもしょうがいのある彼らが親になることを知り、その子育てに参加し、あるいは関わることになります。一人ひとりの子育て支援に関わることで、私たちもさまざまなことに遭遇し、彼らと一緒に育てられていくわけです。関係性の変化はありながらも、彼らが求めるSOSを受信できる距離を保ちながら、彼らが家庭を持っていくことに携わっていきたいと思います。

(はやしやよい しょうがい者就業・生活支援センター わーくわく)