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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

ブックガイド

司法と障害のある人たちに関する本

辻川圭乃

先日、障害を巡る裁判例集としては、わが国初といえる本が生活書院から発刊されました。『ケーススタディ障害と人権』(3150円)で、「障害のある仲間が法廷を熱くした」との副題がついています。編者の「障害と人権全国弁護士ネット」とは、障害差別問題や障害のある人の人権救済に取り組んできた全国各地の弁護士が結成したネットワークですが、年に1回どこかに集まって、各自の事例の報告をします。本書では、そのメンバーの弁護士たちが、自分たちの携わった裁判について、それぞれの熱い思いを込めて報告しています。

水戸事件や浅草レッサーパンダ事件など新聞で報道され、世間の耳目を集めたケースも多く収録されていますが、あまり知られていないけれど以降のリーディングケースとなるべき重要な判例も多数収められています。画期的な判決もあれば、悔しい思いをしたものもあります。しかし、いずれも人権ネットのメンバー一人ひとりが、この理不尽な現状を改善し、その置かれている窮状を打破しようと、勇気を持って声を上げた障害のある当事者の方々と一緒になって、司法に今なお残る偏見や誤解・無知と悪戦苦闘しながらも、一つ一つ積み重ねてきた結果が記されています。

何を隠そう私もその障害と人権ネットのメンバーの一人で、航空機搭乗拒否事件と大阪給食PTSD事件、中度知的障害者の自動車窃盗事件について報告しています。障害を理由とする差別や人権侵害が今なお止まない状況にありますが、救済方法はあるのだということを、裁判の中で「障害のある人の人権」や「合理的配慮義務」の獲得に向けてわずかずつでも着実な一歩が積み重ねられてきたことを知っていただければと思います。

障害のある人が虐待を受ける事件が後を絶ちませんが、水戸市の段ボール加工会社、(有)アカス紙器での虐待事件(水戸事件)が起きたころと時を同じくして、滋賀県では「サン・グループ事件」というのが起きました。この事件の詳細が詳しく書かれているのが、大月書店の『いのちの手紙―障害者虐待はどう裁かれたか』(1575円)です。この事件では、大津地裁が、当事者の会社や会社社長のみならず、公的機関である国の責任を認めた判決を下しました。「障害のある人へのあたたかい心と正義にあふれた画期的判決」と帯にありますが、この画期的判決を導いたものが何だったのかが、サン・グループ裁判出版委員会の手で記されています。実際に収録されている「いのちの手紙」には強く心を打たれました。

先述の「障害と人権全国弁護士ネット」の一員で、札幌で頑張っている西村武彦弁護士が書いた『障害のある人と向き合う弁護ーケースワーカーみたいな弁護士西村の奮闘記』(Sプランニング、1050円)は、知的障害のある人やアスペルガー症候群の人に関するいろいろな事件について書かれた本です。借金問題・消費者被害から、離婚・成年後見、刑事事件まで、実に幅広く紹介されています。現在進行している障害者虐待事件や配慮義務違反などにもそれとなく触れてあります。実際に知的障害や発達障害の人と接していると、それこそ消費者被害から家事事件、刑事事件とジャンルを問わずいろいろな事件にかかわることになりますが、それは、現実の社会の中で、障害理解が正しくなされていないがため、そのことが原因でトラブルに巻き込まれることが非常に多いからであることに気づかされます。この本は、もっと多くの人たち、特に弁護士にそのことを気づいてほしいとの西村弁護士からのメッセージが込められています。

いよいよ裁判員制度が始まりましたが、実は被告人の中にも障害のある人がいます。今までは、刑事訴訟手続きにおいて、被告人の障害に対する配慮はほとんどなされてきませんでした。裁判官や検察官ばかりでなく弁護人に障害理解がないために、不利益を被ってきた実態があります。そのことについて私が実際に扱った事件についてわかりやすく解説したのが『実録刑事弁護』(Sプランニング、1050円)です。題名だけ聞くとやくざ映画みたいですが、障害のある被告人の方が、実際には障害のない被告人より重く罰せられている厳罰化の傾向があることや、なぜ累犯化の傾向があるのかが読んでいただければわかると思います。ぜひ一人でも多くの人に、障害があることが刑事訴訟手続きの中でどのように認識され、どのように扱われているかの実情を知っていただき、もし裁判員裁判で障害のある人が被告人となることがあっても、けっして偏見や誤解によることがないよう、正しく障害が理解されて適正な裁判がなされるようにと願っています。

いま、全国各地の地裁に、障害者自立支援法違憲訴訟が提起されています。なぜ、訴訟を提起しなければいけなかったのか、同法のどこが問題なのかについてわかりやすく書かれているのが、『問題てんこもり!障害者自立支援法』(DPI日本会議著、解放出版社、1050円)です。なお、裁判とは直接関係ありませんが、同社の『障害者の権利条約でこう変わるQ&A』(1470円)も、障害者権利条約について非常にわかりやすく書かれていて、参考になります。

それから、障害のある人が、障害理解がなされないことで不利益を被っている事例は枚挙にいとまがありませんが、障害理解をわかりやすく描いているものとしては、何と言っても漫画でしょう。『光とともに…~自閉症児を抱えて~』(戸部けいこ著、秋田書店、798円)が代表格ですが、私のお勧めは、『だいすき!!~ゆずの子育て日記~』(愛本みずほ著、講談社、420円)です。

(つじかわたまの 弁護士)