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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

知り隊おしえ隊

車いすに乗っているフィギュアたち

沖川悦三

はじめに

私は車いすに乗っているフィギュアや車いすのおもちゃを集めています。今ではその数が120種類ほどになりました。最近、そのコレクションをイベントで展示させていただいたり紙面や口頭で紹介させていただく機会が増えてきて、そのたびに「数はどのくらいあるんですか?」とか「集め始めたきっかけは何なのですか?」と聞かれます。実は数も集め始めたきっかけもはっきりせず、いつも曖昧にお返事するだけでした。

今回、あらためてご紹介させていただく機会をいただきましたので少し整理をしてみました。そんなに昔の話ではないのに、それでもすっきりしないところもありますが、お許しください。

なぜ集め始めたか?

この話題にふれるには、まず私の立場からご紹介しなくてはなりません。私は神奈川県総合リハビリテーションセンターのリハビリテーション工学研究室で車いすを中心とした福祉用具の研究開発と臨床応用の仕事をしています。長年車いすと関わっていたら車いすに関連する多くのことに興味がわき、車いすのことを考えるのが大好きになってしまったのです。リハビリテーション医療に携わる気の合う仲間とも車いすについていろいろな話題で盛り上がります。その話題は臨床業務に関連する車いすのこと、町中で見かけた車いすのこと、映画に出てきた車いすのこと、そして新製品が開発されたことなどさまざまです。

ある時、アメリカのマテル社が発売しているバービー人形に「バービーのお友達」という位置づけの「車いすに乗ったベッキー」がいて、日本では売ってないらしい、という話題になりました。これがいつだったかがはっきりしないのです。おそらく1987年か1988年だったとは思うのですが…。そして、インターネットで調べ1986年に発売されたベッキーを手に入れました。それがきっかけとなり、インターネットで車いすのおもちゃを検索するようになり、欧米には車いすのフィギュアがいろいろあることが分かってきました。それからは時間があるごとにネット上のショップやオークションをチェックし、見つけるたびに購入するようになったのです。

どんなものがあるか?

さて、それではどのようなフィギュアやおもちゃがあるのかを私の知っている範囲でご紹介させていただきます。

まずは、集めるきっかけになったバービー人形シリーズの「ベッキー」やドイツのプレイモービル・シリーズの「車いすと患者さん」や「車いすと少年」、アメリカのHOMIESシリーズの「Willie G」、日本のシルバニアファミリー・シリーズの「車いす」のように、もともとシリーズとして発売されていた人形や玩具の中に車いすを含めていったものがあります。これらで遊ぶ子どもたちはいろいろな場面を想像して作り出し、いろいろな物語を考えながら遊びますが、そういった仮想社会の中に「車いす」が入ってきたのだと思います。

こうした状況になった背景にはいろいろな事情があるのでしょうが、私自身はきっちり調べたことはありません。「ベッキー」は1996年、1998年と立場を少し変えて発売されており、2000年には競走用車いすに乗ってシドニーパラリンピック金メダリストになっています。プレイモービルにはいろいろな職業や生活上の場面をシミュレートできるような、ありとあらゆる種類があります。最初の車いすは病院で患者さんを運ぶ看護師さんという想定のものでした。それが、自走できる前輪駆動の車いすになり、一般的な後輪駆動になり、今は小児用の車いすと小児のフィギュアも発売されています。もちろんお年寄りが乗るものもあります。

次に、漫画や映画の中に描かれる車いすのフィギュア化です。もっとも古いのが、アメリカのドラマ、鬼警部アイアンサイドの「アイアンサイド・バン」です。これは車いすに乗った警部が乗り降りできるリフト付きバンのミニカーで、イギリスのコーギー社から1971年に発売されました。キャラクターが乗る車いすのフィギュアではおそらく、世界で最初に作られたものではないでしょうか。また、アメリカン・コミック(アメコミ)に描かれる車いすのヒーローがその原作を映画化やテレビアニメ化したときに作られたフィギュアで、映画X-MENの「プロフェッサーX」、バットマンのサイドストーリー的なBirds of Preyの「オラクル」などがあります。その他、アニメやドラマに描かれる車いすのフィギュア化である「サウスパークのティミー」「ホーキング博士」、ディズニー映画ナイトメアビフォアクリスマスの「フィンケル・シュタイン博士」などがあります。

最近では日本でもアニメに車いすの登場人物が描かれるようになり、それらのフィギュアも発売されるようになってきました。もっとも有名なのはアルプスの少女ハイジの「クララ」でしょう。他に舞・HiMEの「風花真白」、車いすバスケの漫画リアルの「戸川清春」などがあります。まだまだありますが、アニメや映画などの話題はこのくらいにします。

その他、ドールハウスの家具や用品の一つとしての車いす、ぬいぐるみや人形を乗せて遊ぶための車いす、知育玩具としていろいろな人種やいろいろな障害のある人形のシリーズの中の車いすなど、実際の遊びの中で手に持ち、動かしながら使う車いすもたくさんあります。

車いすのフィギュアが日本に少ないのはなぜか?

きちんと考察したわけではありませんので、私見で申し訳ありません。いいとか悪いとかではなく、これはやはり文化の違いなのだと思います。欧米先進国では街の中に車いすの人がいてもそれほど違和感はなく、映画やアニメなどにも普通の風景の一部として登場したり、車いすや障害のある人のヒーローが登場したりします。そして、日本にウルトラマンやエヴァンゲリオンのフィギュアがあるように、欧米には車いすに乗った人のフィギュアがあります。

たとえば小説や映画での車いすに乗った人の描き方が欧米でも最初から肯定的なものではありませんでした。昔はホラー映画の怖さを引き出す小道具の一つであったり、病気で身体が弱く人間としても弱そうに描いてあるものの方が多かったと思います。それが少しずつ普通に描かれるようになり、主役や主役級の登場人物になってきたのです。特にヒーローものとして描かれる主役の車いすの人は「障害のある人」には違いないけれども、それを一つの「個性」として創る側も見る側も受け止めているように思います。地球上では3分間しか活動できないウルトラマンだって、地球上では障害のある人と同じですね。

日本でも映画やドラマ、アニメに車いすの人が登場するようになって来ましたし、主役級の配役も結構出てきました。これから少しずつ映画やアニメのフィギュアが商品になっていくといいなと思います。それは特別な意識をするのではなく、普通に車いすの人を「個性」ととらえられることだと思うからです。

おわりに

ご紹介してきました車いすのフィギュアやおもちゃたちですが、フィンケルシュタイン博士はいろいろな種類が出まわっていて、比較的手に入りやすいのですが、その他は現在の日本のお店ではなかなか手に入りません。ネットオークションや海外のインターネットショップなどをのぞいていただければ、見ることも手に入れることもできます。そんなことをしなくても見てみたいという方は、私の職場を訪ねてきてくだされば見ていただくことができます。また、最近おもちゃの収集仲間になった方が各地の大きな福祉機器展に展示されるようになりましたので、福祉機器展で探してみるのもいいかもしれません。

私のコレクションはまだまだ紹介できなかったものがたくさんありますし、これからも集め続けます。今後、新しいフィギュアが出てくるのが楽しみで仕方ありません。

(おきがわえつみ 神奈川県総合リハビリテーションセンターリハ工学研究室)