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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

1000字提言

おしゃべり鏡

高久加世子

初めまして。私は、神奈川県藤沢市に住んでいる、先天性視覚障害者です。30年間勤務した職場を離れて7年。現在、地元の点字出版社が発行する資料の校正チェックをする仕事(自宅アルバイト)の傍ら、視覚障害者への理解を深める目的で、県内の小・中・高校が行っている福祉授業に依頼があれば伺って、お手伝いしています。そこで、今日はそんな福祉教室で経験した忘れられないひとこまをお話しましょう。

ある小学校で、高学年の生徒を対象に話をしていたときのこと。「質問タイム」になり、さまざまな質問に答えていました。子どもたちの発想は変幻自在。ときにこちらが吃驚するような問い掛けもあり、それはそれなりに楽しい時間なのです。この日も子どもたちと私の「言葉のキャッチボール」がひとしきり飛び交った後、一人の少女に聞かれました。「今、一番ほしいものは何ですか?」と。

一瞬、答えに窮した私。でも次の瞬間、即座に「『おしゃべり鏡』」と答えました。そうなんです。私は『おしゃべり鏡』がほしいなあ、と度々思うのです。就職してお化粧を覚え、服装や持ち物への気遣いも必要なことを知って、「人に見られて恥ずかしくない自分」、「人が見て不快でない自分」になれるよう、ある程度のたしなみを心掛けてきましたし、今もそのことに変わりはありません。だから日々お逢いする方たちに、「ファッションがステキ」だとか、「いつもおしゃれねえ」とか、「今日もコーディネートが決まってるわ」とか褒められたりすればうれしいしほっとします。

とは言うものの、「これでいいかしら?」「大丈夫かしら?」と不安な日もあるわけです。そんなとき、白雪姫に登場するような『おしゃべり鏡』があれば、どんな不安もたちどころに解消、まさに「めでたしめでたし」。いつかこの願いが叶えば……という気持ちが、私の答えになりました。

「外出のとき、着替えてお化粧したら鏡を見るよね。私にも、『口紅の色を明るく』とか『完璧です』とか、声で知らせてくれる鏡があればうれしいな」。すると、「はい」と元気に立ち上がった一人の少年がこう言ったのです。「その鏡、僕が作ります!」。彼の声は真剣でした。「ありがとう。待っているわね」。私も喜んでそう答えました。

子どもたちの心はなんてピュアなのでしょう!!こんなステキな少年・少女と出会えることが、福祉教室をお手伝いする私の喜びなのです。

(たかくかよこ 元神奈川県ライトセンター職員)