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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

名古屋ライトハウスにおける工賃アップの取り組み

山下文明

名古屋ライトハウスの歴史

名古屋ライトハウスは、終戦直後の混乱期の昭和21年、その前身である「愛知県盲人福祉協会」として産声を上げました。創設以来愛盲精神のもと、視覚障がい者の幸せを願い、職業開拓及び職業訓練、生活の場の提供、そして情報・文化の発信基地としての役割を担ってきました。今日では、就労継続支援事業A・B、就労移行支援事業、生活介護事業、地域活動支援センター、児童デイサービス、福祉ホーム、施設入所支援、居宅介護・移動支援事業、指定相談支援事業、点字図書館・点字出版事業などの視覚障害者情報提供施設、特別養護老人ホーム、盲養護老人ホーム、高齢者デイサービス事業、高齢者短期入所事業、居宅介護支援事業所など、名古屋市内に16施設26事業を展開し、すべての障がい児・者、高齢者を対象に、700人以上の利用者と200人以上の職員を抱える大所帯となりました。

すでに工賃倍増だ!

私ども名古屋ライトハウスは創設以来、障害者の就労支援事業(授産施設)を中心に運営してきました。現在、視覚障害者の方々が多数利用されている「光和寮」(障害者支援施設、就労継続B)、重度身体障害者授産施設が前身の「明和寮」(障害者支援施設、就労継続B)、大規模な生産設備による製缶事業と自主製品の“パンの缶詰”を生産する「港ワークキャンパス」(多機能型施設、就労継続A・B)の3つの就労支援施設があります。

作業科目は、テープ起こし作業の録音速記科、オフセット印刷を中心とした印刷科、マッサージ・鍼治療の治療院、軽作業を中心とした部品加工科(以上光和寮)、印刷科、自動車部品の組付けや検査作業を行う自動車部品科、ブリスター圧着・シーラー作業の組立加工科、真空成型・ブリスターパックの折り曲げなどの包装加工科(以上明和寮)、大規模な生産ラインで行う製缶事業、非常用食品ですが、ノベルティとしても活用できる“パンの缶詰”を生産するKAN食品開発センター(以上港ワークキャンパス)など、治療師や印刷オペレーターのような専門職的分野から内職的な簡易作業まで多種にわたって展開しています。

私ども名古屋ライトハウスでは、一貫して「工賃を少しでも高く!」を旗印に、より付加価値の高い仕事の提供に努力しています。現在の平均工賃は、3つの就労継続B型で平均50,069円、港ワークキャンパスのA型で116,761円となっています。これは、全国の身体障害者中心の就労支援施設の平均より高いものです。

工賃を高く!安定した下請け

名古屋ライトハウスの作業科目は下請け業務が中心です。自主製品の開発はとても魅力的ですが、名古屋という経済活動が活発な都市部を拠点とする利点を活かし下請け業務を中心とすることにより、より安定した工賃を維持することが可能と考えるからです。内職仕事から脱却し本格的な下請けを目指し、1.積極的に行政や民間の助成金制度を利用し生産設備・機器を導入すること、2.作業員としてのパートを採用し受注量を確保することにより、高度な作業を可能とし、作業範囲を拡大し、経費(人件費)増のマイナスをプラスにすること、3.営業職員を配置することによる積極的・戦略的な営業展開、4.施設間ネットワークを活かした文字通りの協働、5.施設という箱の強みを活かしたストックヤードが確保できる優位性、急な受注に対応できる臨機応変な職員体制の確立、などを視点に活動しています。

工賃を高く!自主製品

より安定した工賃が見込める下請け中心の作業形態も、昨今の経済状況下では大変不安であり、実際受注量も売上額も今年度の実績は昨年度を下回っています。名古屋ライトハウスでは、平成18年度より新たに非常用食品である「パンの缶詰」という商品を自主製品として生産しています。販売ルートの拡大と確立が急務ですが、企業向けの大量受注やネット販売、通販での販売ルートと着実に販路を拡大しています。安定した下請け作業と、不況等に左右されない自主製品の開発に努力していきたいと考えています。

工賃5万円を目指す

現在の経済状況では、すべての就労支援施設が最低賃金を保証するA型施設になるとは思いませんし、障害者の所得を保障する画期的な制度がすぐに構築されるとも思えません。B型施設の不要論も耳にしますが、現在のところ私たちの役割はまだまだ大きいと考えます。

名古屋ライトハウスでは、就労継続B型事業で月額工賃最低5万円を目指しています。平均では5万円を超えていますが、すべての利用者が最低でも5万円の工賃があれば、障害基礎年金と併せ、何とか住み慣れた地域の中で自立した生活ができるのではないかと考えるからです。

働くことの価値、意味

「工賃を少しでも高く!」の合言葉は、B型施設のような雇用契約を交わさない就労継続支援施設の中で「働くことの価値、社会参加の意味」を改めて問い直すこととなります。就労継続B型施設や授産施設における「労働者性」について厚労省の通知も出ているところもあり、工賃評価や作業時間、納期管理など慎重な判断が求められています。しかし、こうした中でも利用者に対し働く意欲の喚起を常に心掛け、呼びかける必要があります。その中で大げさに言えば、社会の一員としてその役割を担う一つが働くことであること、どんな簡単な作業でもどうでもよい仕事は一つも無く、常に誇りと自信を持って胸を張って日々働くことを職員も理解し、利用者と思いを共有するよう努力しています。

QWLの追求

就労継続B型施設での工賃5万円、働く意欲の維持と誇りを持って働くことは「QWL(Quality of Working Life)」の向上です。それは多くの先輩たちが築き上げた「授産施設」というシステムと「熱い思い」をベースに、変動する法律や制度に対応し、そして、利用者のニーズにマッチする新しいモデルを築くことにつながっていると考えます。私ども名古屋ライトハウスは、今後もその向上を目指し、研鑽と経験を重ねながら邁進していきます。

(やましたふみあき 名古屋ライトハウス光和寮施設長代理)