音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年11月号

列島縦断ネットワーキング【愛媛】

「わたしらの夢って何やろ?」
~吉田町手をつなぐ育成会の取り組み~

山本和美

こんにちは、吉田町手をつなぐ育成会です

吉田町手をつなぐ育成会は、愛媛県宇和島市吉田町に住む障害のある子どもの保護者会です。障害のある方と家族が、地域に根を下ろし安心してこのまちで暮らせることを目指して活動しています。

当会の構成は、1.正会員(心身障害者本人及び保護者)27世帯、2.準会員(この会の趣旨に賛同する正会員以外の者)243人/ボランティア登録56人(平成21年10月末現在)です。小さな町の保護者会なので障害のある方も4歳~30歳までと年齢差があり、7割は児童生徒で地元の小中学校や特別支援学校に在籍し、残る3割の方は成人です。

吉田町手をつなぐ育成会の主な事業

  1. オープンスペースきゃっち(通称「きゃっち」)運営(週1回)
  2. グループワーク「わたしらの夢って何やろ?」
  3. ゆるめる講座(ケアする人をケアするための講座)
  4. 機関紙「みかんだより」発行(吉田地域約4000戸全戸に配布)
  5. 障害児・者と家族、ボランティアの交流会
  6. 町内特別支援学級交流学習会・デイキャンプの支援
  7. 地域行事出店(町産業祭、地元高校文化祭、市社協福祉祭)

「きゃっち」ってどんな所?

「きゃっち」は、養護学校卒業後の行き場として平成16年に当会が設立しました。その後、平成19年の「シェイクはんど」開設によって当初の目的は果たされ、現在は、1.自由な時間(余暇)を楽しむ場、2.家族も集う場、3.地域づくりの場、という集い場としての意義を持ち吉田地域に根付いています。

比較的重度の成人の方が多いので、ミュージック・ケア、スイミング、絵画くらぶ、調理等のまったりくらぶ、クリーンボランティア等、気持ちを開いて過ごしていただけるようなメニューを用意しています。しかし、制度に裏打ちされた事業ではないため保護者の踏ん張りに依存しており、それが課題となっています。

「きゃっち」の問題を話し合うために

「わたしらの夢って何やろ?」は、当会が実施するKJ法によるグループワークです。「きゃっち」の運営安定と事業化の協議のために平成18年にスタートしました。障害のある方の保護者・ボランティア・中高生・地域住民・関係者等、だれでも参加できる少人数の話し合いです。第1~4回は「きゃっち」の方向について集中的に協議しました。みかん農家の会員も多く「きゃっち」のデイサービスとしての事業化は困難との結論に至りました。それは本人・家族を共に生かすために必要な選択でした。そこで、私たちは吉田地域のニーズを取りまとめて、安心して託せる社会福祉法人に分場設置を要望しました。

「シェイクはんど」「桃花2」の開設

この町で生まれ育った子どもたちが成人した後も安心して働き・活動できる通所施設が吉田にほしいという願いに、社会福祉法人宇和島福祉協会が応えてくださいました。平成19年に生活介護支援センター「シェイクはんど」、平成21年に就労移行支援センター「桃花2」が相次いで開設されています。両施設は多機能型支援事業所「デイまつの」の分場で、重度の方や軽度で就労を目指す方が利用しておられます。成人として働く場に親が関わることへの危惧もありましたので、安心して託せる事業所ができたことに、障害のある本人はもちろんのこと家族も大きな喜びと安堵を感じています。

安心して暮らせるまちへと

「きゃっち」の運営安定という大きな問題が解決し、第5回以降の「わたしらの夢って何やろ?」の方向は、会本来の目的である「障害のある方と家族が地域に根を下ろし安心してこのまちで暮らせる地域づくり」へと変わりました。協議は、講師にNPO法人まちづくり支援えひめ代表理事前田眞さん、応援理事萩森一路さんの助言・指導により行います。グループワークは会員以外の方との貴重な話し合いの場でもあり、興味深いさまざまなアイデアが得られます。そこで出されたネタを元に、課題解決の具体的な方策を少しずつ事業化しています。

協議の流れと地域の支え合い

第8回の協議では、1.自分らしく生きる、2.地域で支え合う、3.地域おこし、という3つのテーマが出されました。続く第9回は「会活動は何のためにするのか」というテーマでした。その中である会員は語りました。「『地域で支え合う』人と人との関わりを築きたいという想いがあるから、私は会で活動しています。自分たち以外の地域の方に障害のある子を支えてほしいと願っています」

別の会員の手記を紹介します。

「子どもの将来を思う時、どんなに障害が重くても、一人の人間として尊重され、人と人とのつながりの中で生きていってほしいと強く思います。手助けしてもらいながらも、どのように人や社会とつながっているかが重要で、それがあって障害のある人は自立へと向かえるのではないかと考えています。子どもたちが地域の人とつながって社会参加できるためには、まず子どものことを多くの人に知ってもらうことから始まります。親子で地域の中に入り、たくさんの人たちに理解してもらい、つながりを広げていけたらと願っています」

うまいジュースで地域おこし

第10回では地域の「ひと」とつながるための方策について、「地域おこし(自分たちで地域に果たせる役割)」のテーマで考えました。地場産業のみかんのうまさをもっと多くの人に知ってもらおうや、との声が農家の会員を中心に上がりました。「障害のある方+保護者+地元高校生+ボランティア」のチームが協働で出店して、業務用ジューサーで搾ったうまいみかんの生ジュースを飲んでもらうことになり、担当会員は企画書作りに頭をひねっているところです。

保護者会が地域おこしに目を向けることは少ないと思いますが、私たちはみかんの生ジュースを切り口に自分たちのことを地域の人に知ってもらい、地元の理解者を作りたいと考えています。伝えること・理解することは一つのステップであり、そこから支え合う関係につながるのではないでしょうか。

「わたしらの夢って何やろ?」を活動のエネルギー源に

私は、「わたしらの夢って何やろ?」を通して、なぜ会活動をするのか?、ということを問い続けてきました。それが「会」の存在理由を明らかにすることであり、会員の主体的な活動に結びつくと考えるからです。

養護学校卒業後の不安は解消しましたが、安心して暮らせるまちをつくるという目的に到達するためには会活動の継続は必要です。先細りしないためのエネルギー源が「わたしらの夢って何やろ?」なのです。ディスカッションは「つながる・続ける」ための理念を共有する手段となります。夢の実現に向けて「楽に・楽しみ」ながら活動していきたいと思います。

「わたしらの夢って何やろ?」のテーマ

第1回 吉田の障害者福祉の現状と課題
第2回 「きゃっち」をどんな場にしたい?
第3回 「きゃっち」の運営について
第4回 養護学校卒後を考える
第5回 地域資源再確認
第6回 地域資源の整理・課題把握
第7回 課題解決方法の協議
第8回 障害特性について地域の理解を深める
第9回 会活動は何のためにするのか(地域で支え合い)
第10回 地域おこし(自分たちが地域で果たせる役割は?)

(やまもとかずみ 吉田町手をつなぐ育成会会長)