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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年12月号

わがまちの障害福祉計画 高知県高知市

高知市長 岡崎誠也氏に聞く
一人ひとりがいきいきと輝いて暮らせるまちづくり

聞き手:住友雄資
(高知女子大学教授)


高知県高知市基礎データ

◆人口:340,893人(平成21年11月1日現在)
◆面積:309.22平方キロメートル
◆障害者の状況(平成21年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 15,516人
療育手帳所持者 2,114人
精神障害者保健福祉手帳所持者 1,426人
◆高知市の概況:
高知市は、山内一豊の入府以来、土佐藩の城下町から発展した都市。高知県中部の中心都市であり、四国太平洋側の中心都市ともなっている。平成20年1月1日に春野町と合併。新しく誕生した高知市は、人口35万人都市となった。毎年8月9日の前夜祭を皮切りに4日間行われるよさこい祭りは、高知を代表する祭りとして有名。また、日曜市をはじめとする定期市(月曜日を除く毎日、市内で開かれている)が有名で市内外からの来店者で賑わっている。
◆問い合わせ先:
高知市健康福祉部元気いきがい課
〒780―8571 高知市本町5―1―45
TEL 088―823―9378 FAX 088―875―6684

▼まず高知市の特色や魅力をお伺いします。

平成20年1月1日に春野町と合併し、35万都市・高知が新しく誕生しました。この合併により、都市部、中山間地域、田園地域、臨海部をバランス良く擁する「森里海(もりさとうみ)の都市」となりました。この新しい高知市を、南四国をリードする都市としてさらに発展させ、魅力あるまちとしていくためには、それぞれの地域の特色や良さにこだわり、その魅力をさらに高めていくことが大切です。

来年1月からは、福山雅治さん主演の大河ドラマ「龍馬伝」が放送されます。こうした機会も有効に活用し、高知の強みである「食」と「環境」を連携させながら、観光や産業の振興、中心市街地の活性化につなげてまいりたいと考えています。また高知といえば「よさこい祭り」ですが、この祭りに「てんてこ舞い」という障害者自身が参加するチームもあります。

▼障害者の地域生活支援や障害福祉計画などに対する市長のお考えをお伺いします。

平成15年度からの支援費制度への移行や平成18年度の障害者自立支援法の施行など、近年、障害のある方やそのご家族の方々などを取り巻く環境は大きく変化しています。また先般の政権交代により、障害者自立支援法の改廃が検討されています。

本市では、生活支援という観点から、国や県に先駆け、平成18年10月より、障害福祉サービスの利用者負担の独自軽減に取り組んできました。障害者計画に関しましては、「障害者基本法」公布後直ちに、計画期間を10年とする「高知市障害者計画」を平成5年度に策定しました。

現在は、昨年度策定した高知市障害者計画・障害福祉計画(平成21~23年度)「通称:げんき・いきいきプラン」が進行中です。これは、基本理念として、それぞれのライフステージに沿って夢や希望を実現するための支援体制の構築と、自分の力だけでは乗り越えることが難しい壁を取り除くためのバリアフリーの推進を図り、障害の有無にかかわらず同じまちに住む市民として、一人ひとりがお互いにいきいきと輝いて暮らせるノーマライゼーションの実現を目指すこととしています。

▼高知市の障害者施策で特に力を入れている事業をご紹介ください。

これまでも、高知市在住の在宅障害者支援の拠点施設として、高知市障害者福祉センター「あさひ」、東部障害者福祉センター、南部障害者福祉センターを順次開設し、デイサービスや生活支援など、障害者福祉の増進を図ってきました。それらに加え、来年4月のオープンを目指し、(仮称)総合あんしんセンター(以下、あんしんセンター)の整備を進めています。これは、保健・医療・福祉・防災のニーズに迅速かつ的確に対応することを目的として、保健所、消防局及び災害対策本部機能と併せ、医師会等関係団体の施設も含めた総合的な拠点施設として整備しています。

このあんしんセンターの機能の一つとして、(仮称)障害児支援センターの組織化を現在検討しています。これは、生涯にわたるトータルな支援を行うための方策を検討する中で、子どもたちが自立して地域の中で暮らしていけるよう、ライフステージに沿った継続的な相談や支援、医療・保健・教育・福祉などの関係機関との調整、サービスのコーディネート等の各機能をシステムとして整備することを目的に、来年度からの活動開始に向け、現在庁内での調整作業に入っています。

また、ライフステージに沿った継続的な支援を行うためのツールとして、今年度より、「サポートファイル」の活用を始めています。これは、子どもさんの特徴や日常生活における関わり方、医療機関や相談機関での記録、学校・施設での支援計画などを保護者の方にファイルにつづっていただくもので、たとえば、病院の担当医が代わるときや就園・就学・就職するときなど、関係機関に提示し、子どものライフステージの場面に即して活用していただくことで、より良いサポートを受けられるようになることを目的としています。

▼地域自立支援協議会についての取り組みはいかがでしょうか。

平成20年度に、教育・医療・福祉・民生委員・ボランティアなどの方々にお集まりいただき、本市の自立支援協議会の進め方についてご議論いただきました。その結実としまして、昨年度末に自立支援協議会という形に移行してきました。

現在は、ご議論いただいた方々を中心に、定例会、部会、事務局会という構成で開催しています。定例会につきましては、各部会からの報告を受け、活動の調整や助言、意見交換を行っています。部会につきましては、相談支援部会と地域生活移行部会の2部会が現在進行中です。

まず、相談支援部会につきましては、本市委託の7か所の相談支援事業所(身体2、知的2、精神3か所)を構成員として、各相談支援事業所が関わっている事例の中から高知市の課題を把握し、支援の質の向上に向けて協議を行い、定例会への課題提起を行うことを目標としています。相談支援体制の充実は、障害者計画で重点項目に位置づけており、ケアマネジメント能力の向上や、関係機関や地域とのネットワーク強化に向けての場面としても、この部会の役割が重要なものになると考えています。

次に、地域生活移行部会につきましては、障害者が施設や病院などから地域生活へ移行する際の課題を整理し、対応方法を検討することを目的としています。今年度のテーマは、触法行為者の地域生活移行としており、保護観察所や弁護士、当事者の身元引受人の方々からお話をお伺いするなどして現状を把握し、意見交換により、連携やネットワークを広げるとともに課題を整理し、今後の支援方法を検討することとしています。

また、施設や養護学校卒業後から地域生活を希望される方をコーディネートする、地域生活移行モデル事業(平成20~21年度の2年間)を実施しており、このモデル事業の個別事例に関して、この部会で取り上げ、助言を受けたり、意見交換を行うといった機能も有しています。

▼その他に特筆すべき事業についてお伺いします。

来る南海地震への備えが挙げられます。特に、障害者の方々に関しましては、災害時要援護者と考えられ、その支援のあり方について検討しています。

本市には、地震に伴う津波被害も相当に予測される沿岸部の浦戸地区・種崎地区という地区があり、両地区とも津波対策について早くから自主的に検討されていた経過がありました。そこで、本市も検討に加えていただき、両地区を市内の要援護者支援のモデル地区と位置づけました。地域住民の皆さんとともに聞き取り調査や検討を行い、個別避難計画書の作成や避難訓練を実施してきました。地区内の福祉施設など関連機関にもご協力いただき、今年度には、活動事例集として、市内自主防災組織や町内会へ冊子を配布することができました。

今後とも、継続した取り組みが必要と考えており、市内中心部でもモデル地区を設定させていただくべく、現在検討に入っています。被害を最小限に抑えるため、地域住民の皆さんによる「向こう三軒両隣」の支援を理解していただけるよう努めていきたいと考えています。


(インタビューを終えて)

障害者施策というと、障害福祉計画の数値目標などにどうしても注目しがちである。しかし、いつ起こっても不思議ではない南海地震対策の一環としての障害者施策を岡崎市長は重要な取り組みとしてあげられた。障害者の生活を考えるとき、まず生命を守るという行政としての姿勢をこのインタビューで聴けたのが大収穫であった。その生命を守るということを前提に、障害者の日常生活を支援するという施策が次に必要となる。そのためには、高知市が設置しようとしている障害児支援センター(仮称)機能の検討を始めとして、障害者の地域移行支援の促進や相談支援体制の充実に向けて、現在進行中の取り組みをさらに進めていくことが肝要であろう。

なお、インタビュー前に訪問した就労継続支援事業所「STRAWBERRY FIELDS」で、おいしいランチをいただいた。ここは洒落た雰囲気をもつカフェレストランと和洋菓子製造工場である。ランチメニューで約20種類からケーキをチョイスできることが人気なのであろう、主婦を中心とする多くのお客さんで賑わっていた。菓子製造の様子も見学することができて、意欲的に就労している利用者の姿を見ることができる。まさにそこでは生きがいを持って働いている障害者が地域で生活しているのである。生命を守り、日常生活を支え、そして生きがいをもって生活できるような障害者施策がまさに求められているといえるだろう。