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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年12月号

フォーラム2009

知的障害者が「自分の家」で暮らすための支援
―アメリカ・カリフォルニア州のサポーテッドリビング・サービス

岡部耕典

知的障害者の自立生活支援

障害者権利条約の批准を目前に控え日本の国内法制の整備が急務であり、なかでも第19条に示された「自立した生活[生活の自律]及び地域社会へのインクルージョン」を障害の種別や軽重によらず実現することは、障害者福祉における最大の政策課題といえよう。

しかし、現行の障害者自立支援法では、介護と居住支援が一体化した長時間見守り型の介護は一部の身体障害者にしか制度化されておらず、知的障害者が地域において自律/自立して生活するための支援はグループホーム/ケアホームに限定されている。このような現行制度の問題を権利条約第19条の項目に基づき整理をすると、表1のように整理できる。

表1

障害者権利条約第19条の要請 対応する現行の知的障害者在宅サービスの問題
(a)どこでだれとどのように暮らすかの自由の確保 入所施設でも親元でもない地域生活の場が、グループホーム/ケアホームしか想定されていない。
(b)パーソナルアシスタンスを含む地域自立支援サービスの確保 身体障害者には存在する重度訪問介護等の長時間見守り型居宅介護の支援類型が存在しない(知的障害者に対するパーソナルアシスタンス制度の実質的な不在)。
(c)一般住民向け地域社会サービス及び施設の利用保障 日中活動の場として想定されているのは、障害者のみが通う通所施設(デイサービス)である。

(筆者作成)

「支援付き自立生活」

これに対し、自立生活運動発祥の地アメリカでは、すでに1980年代から知的障害者がパーソナルアシスタントを使った知的障害者の「支援付き自立生活」が開始されている。今回調査を行ったカリフォルニア州では、1995年にサポーテッドリビング・サービス(Supported Living Services、以下SLS)という名称で制度化され、グループホームに代わる知的障害者の地域移行サービスとして近年、急速に拡大している1)

SLSとは、知的障害者の「生活の自律」と地域生活を両立させることをめざす先駆的な居住/生活支援サービスであり、親や後見人と同居ではなく、住居を所有/賃借してコミュニティに暮らす知的障害者に対する「(A)自分自身の家での生活、(B)地域活動への参加、(C)個人の可能性の実現を目的として、ライセンスをもつSLS事業者によって提供され、リージョナルセンター2)によって購入される支援」と定義されている3)

また、SLSは「住居の提供と支援サービスが完全に分離され、利用者は自分の住居に対して所有者/賃借者として障害のない者と同等のコントロール権をもつ支援」であり、グループホーム(Residential Facility)とは明確に区別される。

制度を管轄するカリフォルニア州発達障害局(DDS)は、SLSこそが「利用者が日常生活を自分自身でコントロールし、意義ある選択ができるように支援することを通じ、人間関係の促進/コミュニティへの完全な参画/長期にわたる人生のゴールの達成を援助することであり、その利用者の生涯にわたり、専ら障害の程度にはよらず、必要なとき必要なだけ、利用者の必要(ニード)の変化に応じてフレキシブルに提供されるサービス」4)であるとして、その利用を強く推奨している。

サービス利用状況

2007年度におけるカリフォルニア州全体のSLS利用者数は5,535人、総利用額は276,582,693ドルであり、一人当たりの利用額も、最大値486,880ドル、平均値49,972ドル、中央値26,488ドルに達する5)

同年度のカリフォルニア州における18歳以上の知的発達障害サービス利用者113,078人のうち22,705人(20.1%)がグループホームに居住しているが、一方で、SLSによる「支援付き自立生活」も19,490人(17.2%)に上る。グループホーム居住者の方が幾分多いとはいえ、10年前に比べてグループホーム利用者が構成比で3.2%減少する一方、「支援付き自立生活」をおくる者は逆に1.9%増加していることから、知的障害者の地域生活移行の受け皿がグループホームからSLSに緩やかにシフトしつつあることが伺われる。ちなみに、入所施設の利用者は、この間1,224人減少(構成比2.6%減)している。

サービスの概要

SLSにおいて利用者が支援される具体的な内容は、個別支援計画(Individual Program Plan、以下IPP)作成のプロセスにおいて、以下のような項目に基づき利用者と協議し決定される。

  • 住居を選択し引越する
  • パーソナルアテンダントやハウスメイトを決める
  • 家事や身の回りの整理をする
  • 日常生活を共にし、緊急時の対処を行う
  • コミュニティの活動へ参加する
  • 金銭を管理する6)

このように、自分の住居を選択しパーソナルアテンダント/ハウスメイトを選定するのは、まず知的障害をもつ利用者本人であり、SLS事業所のサービス・コーディネーターは利用者と相談しながらパーソナルアテンダント/ハウスメイトをスーパーバイズし、コミュニティとの調整を図る役割を担う。日本でいえば、自立生活センターが運営する居宅介護事業に近い方式となっている。

日々の支援を担うパーソナルアテンダントは、狭義の介護だけでなく日中の移動支援や金銭管理等の手伝いも行い、マンツーマンの就労支援を行うジョブコーチを兼ねることもあるというフレキシブルで、個人的/包括的な支援者である。

また、ハウスメイトというのは、文字通り利用者の夜の見守り支援や緊急時の対応を行う「同居人」であり、アテンダントを兼ねる場合は「住み込みアテンダント(living attendant)」と呼ばれる。

サービスの購買と単価体系

パーソナルアテンダントへの報酬を含むSLSの費用は、リージョナルセンターを通じてSLS事業者に支給される。日本の代理受領とは異なり、リージョナルセンターがサービスの購入者として全責任を持つシステムである。

SLSにおいて提供される支援の具体的内容は、IPPミーティング(利用者参画の支給決定会議)を通じて“個別に”“テイラーメイドで”決められ、おおまかなサービス提供のガイドラインはあるが、日本の居宅介護のようなサービス類型の細分化や提供する便宜内容に対する細かい規定はなく、SLSに対する州全体の公定統一単価も存在しない7)

IPPに記載されたサービス提供に係る費用は、根拠法であるランタマン法によりエンタイトルメントされた義務的経費であり、カリフォルニア州にはその支弁を行う責務がある。そのため、DDSは個々のリージョナルセンターから提出されるサービス総購買量のフォーキャストを取りまとめたデータをもとに州議会に対して毎年、次年度予算の概算請求を行っている。

利用者一人あたりの購買費用については制度的な上限はなく、パーソナルアテンダント/ハウスメイトの24時間あるいは複数名の対応についても、1.医療的ニーズ、2.コミュニケーション、3.判断能力、4.服薬等の自己管理能力、5.問題行動、のいずれかに大きな困難があれば認められるという。

求められる重度訪問介護の対象拡大

知的障害者に対しても「生活の自律」の確保を求める障害者権利条約の要請とさらなる脱施設と地域移行を両立させるために、従来の事業所主導型の居宅介護やグループホーム/ケアホームのオルタナティブとして、パーソナルアシスタンスを活用しつつ「自分の家」で暮らすことを可能とする支援の制度化が求められている。

すでに、全身性障害者には制度化されている重度訪問介護の対象を知的障害者にも対象拡大し、併せて必要な予算措置や支給決定基準の見直しを行うことで、「自分の家」で暮らす知的障害者に対する長時間見守り型の居宅介護は実現する。日本でもすでに行われている実践もあり8)、これらに対して重度訪問介護をまず利用可能とし、その成果や実績も踏まえつつ、知的障害者の支援(アシスタンス)の概念や制度の再構築を図る必要があるのではないだろうか。

(おかべこうすけ 早稲田大学准教授)

【参考文献】

1)本研究は厚生労働科学研究費補助金 障害保健福祉総合研究事業 平成20年「障害者の自立支援と『合理的配慮』に関する研究(研究代表者勝又幸子)」の一環として、2008年9月にカリフォルニア州サクラメント市において行った知的発達障害者の自立生活支援の実施状況及び政策的課題に対する調査研究成果の一部である。詳細については、総括研究報告書pp.39―65を参照してほしい。

2)知的発達障害者を対象とする公設民営の福祉事務所。支給決定とサービス購入の双方の機能と権限を持つ。

3)Title 17,54302(a)(66)

4)http://www.dds.ca.gov/LivingArrang/SLS.cfm

5)CDER and UFS Data 2008(DDS)

6)http://www.dds.ca.gov/LivingArrang/SLS.cfm

7)代わりに購入費用のおおまかな目安となるレート(標準価格)が各リージョナルセンターからDDSに提出されている。

8)日本での実践について参考になる本として、ピープルファースト東久留米編「知的障害者が入所施設ではなく地域で暮らすための本 当事者と支援者のためのマニュアル」(生活書院)、寺本晃久他著「良い支援? 知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援」(生活書院)など。