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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

新春インタビュー
谷博之氏(民主党・参議院議員)に聞く
新政権の障がい者政策を尋ねる

聞き手:藤井克徳
(日本障害者協議会常務理事、本誌編集委員)

▼新政権ができてはじめてのお正月を迎えました。今までとは一味違った新年を迎えられているのではないでしょうか。まず、新しい政権の障害者政策に関する基本的な考え方について、特に旧政権との違いを中心にお話を伺えますか。

一言で言うと、障がい者政策に限らず、今までの政府は官僚や役所主導で法律や予算が作られていました。私たちは、このような前政権のやり方や考え方を180度変えていこうと考えています。それは、国連障害者の権利条約の大前提である、「当事者参加」です。当事者参加を基本にして抜本的な見直しを行うことが、この後ご紹介する、障がい者制度改革推進法や制度改革推進本部の仕組みをつくる大前提になったわけです。

▼新政権の障害者政策のシンボリックな政策として、今もありました障がい者制度改革推進法、この下での制度改革推進本部、推進会議がありますが、改めてこの目的や概要についてご説明いただけますか。

障がい者制度改革推進法、そしてそれを実現する推進本部は、民主党を中心とする連立政権が障がい者政策の根幹にしているものです。昨年12月に推進本部を閣議決定という形で立ち上げました。当初は、まず法律を成立させた上で、本部を立ち上げる予定でした。しかし、昨年の臨時国会は会期が限られていましたので、これがかないませんでした。障害者自立支援法の廃止とこれに代わる新法作りなど、喫緊の課題が目白押しの状況にあって、まずは推進本部を立ち上げることにしました。

一方で、法的な根拠が曖昧であってはならず、今の考え方としては、この後の通常国会で改革推進法を成立させたいと思います。これは鳩山内閣の障がい者政策のまさに主柱となるものです。

▼この制度改革推進本部は、障害者政策のたいへん重要な役割を担うことになりますね。どのような体制で進めるのでしょうか。特徴などをお聞かせください。

総理大臣自らが本部長になり、すべての国務大臣が本部員として入ります。実際に本部で議論される具体的内容は、本部直属の推進会議が担うことになります。この推進会議でこれからの日本の新しい障がい者政策を打ち立てていく。それに伴う予算の裏付け、あるいは障害者基本法のような既存の法律の改正や、新しく作られるであろう差別禁止法などをしっかり議論できるように権限が付与された本部ならびに推進会議にしていく。

制度改革推進会議は、20人の委員で構成します。その中で我々が最も力点を置いたことの一つは、過半数を障がいのある当事者で構成するということです。しかし、20人で検討して結論を出すのはたいへんです。それに20人の方だけでは当事者の声を十分に反映させることは難しく、この下に課題別の専門部会を置くことにしました。専門部会にできる限り多くの方々に参画していただいて、十分議論したものを親委員会である推進会議にあげて、そこで結論を出していく。専門部会については、実際にスタートした上で、加えるべき課題があれば新たに追加してもいいと考えています。

このような仕組みを作り、本部でしっかり議論をしていく。そして結論が早く出たものから形にしていこうと思います。制度改革推進法そのものは、進捗状況にもよりますが、一応は5年間の時限でと考えています。

こうした体制にあって、事務局の役割は非常に重要になります。特に事務局長は要となります。まず事務局長を人選して、そのもとに10人くらいの事務局員を配置し、その事務局員も障がい当事者を含めて民間からも一定数入ってもらおうと思います。この事務局は、自ら素案を作ったり予算の計画を立てるなど、実質的な役割を担ってもらうような事務局にしていきたいと思います。

〈民主党案〉障がい者制度改革推進本部
図 〈民主党案〉障がい者制度改革推進本部拡大図・テキスト

▼たいへん大きな動きですね。当事者団体や関係者としても期待したいと思います。さて、新政権との関係でどうしても伺いたいのは、障害者自立支援法についてです。総理や長妻厚生労働大臣自らも廃止を明言しました。同時に新法作りの方向性について、改めてご見解をいただけますか。

制度改革推進法案の基本テーマの一つに自立支援法の抜本的な改革をあげています。私たちは、自立支援法を「障がい者総合福祉法」に変えていこうと考えています。大きな方向性で言いますと、まずは障害の定義と範囲にメスを入れることです。現在、制度の谷間といわれている高次脳機能障害、発達障害、難病の方は、基本的にこの障害の定義の範囲に入れていく。

それから利用者負担のあり方です。これは自立支援法の一番の問題でしたが、応益負担を応能負担に変更する。そして、世帯単位ではなく、障がいのある本人の能力に応じた考え方をとるということです。応益負担問題と表裏の関係にある、いわゆる日額払い方式についても改正していかなければなりません。サービス利用の支給決定方法やサービス体系のあり方などについても、抜本的に変えていこうと考えています。こうした論議を体系的に進めていくためにも、「障がい者総合福祉法」の課題を先にあげた推進会議での専門部会の大きな柱に位置付けていく必要があります。

▼自立支援法のように早急に着手すべきテーマと、ある程度時間をかけるべきテーマとに分かれるように思いますが、その辺はどのように考えますか。

17の基本テーマの中でも、障害者自立支援法のように至急着手しなければならない課題があります。できる限り早い時点で新法に移行できればと考えています。一方で、差別禁止法などはさまざまな法律との整合性を含めて、丁寧に時間をかける必要があるのではないでしょうか。そのようにしなければ、権利条約の批准に耐えられないように思います。つまり、課題によって、着手の時期や時間のかけ方が変わっていくように思います。

▼自立支援法への対応については、予算措置でこの4月から着手するものもあるということですね。

障害者自立支援法訴訟への対応とも関係しますが、たとえば応益負担制度については、低所得の方々に対して負担額をさらに軽減していきたいと考えています。とにかく手を付けられるものから順次取り組んでいくつもりです。

▼自立支援法の成立は、非常に拙速でした。急ぐものとじっくりと時間をかけるものとの両方の視点が必要だということですね。さて、ここで改めて障害者権利条約について伺います。権利条約を新政権として、あるいは民主党としてどのように捉えているのか、基本的な見解をお聞かせください。

権利条約については、今まで国会でも超党派の議員連盟で、そして関係する省庁の担当者とも何度もヒアリングをしてきました。私も議員連盟の事務局次長の立場で関わってきました。

今回政権を担い、その批准をどうするのかということですが、これについては、たとえば、3年以内に差別禁止の法律を必ず作るというスケジュールを決めて本部で議論していく。このようなことを前提に、当事者の皆さん方と議論していく。ただし批准後の具体的なことは、さらに検討しなければならないことはたくさんあると思います。

▼そうすると、権利条約の批准というのは形だけの批准ではなく、先ほどの制度改革推進本部、推進会議の進捗と表裏の関係にあるとみていいわけですね。

まったくその通りです。ですから、17の基本テーマを含めて制度改革推進会議の役割が非常に重要になります。専門部会を中心に制度改革推進会議の論議が深まれば深まるほど権利条約の批准がより実質的なものになっていくはずです。特に大切なのが障がい者差別禁止法(仮称)の展望をつくっていくことです。本質的な論議を開始していくとともに、ロードマップを示していかなければなりません。

障がい者制度改革推進法案の基本テーマ

その1 モニタリング機関を設置します
その2 差別を禁止する法制度を構築します
その3 虐待を防止する法制度を確立します
その4 政治(選挙)への参加を一層確保します
その5 司法に関わる手続における支援を拡充します
その6 共に学び共に育つ教育に転換します
その7 移動の自由の権利を保障します
その8 情報の利用・伝達を支援します
その9 雇用・働く場所を創ります
その10 十分な所得の保障を実現します
その11 自立支援法の抜本的見直します
その12 きめ細かな障がい児の福祉を実現します
その13 医療支援も見直します
その14 難病対策を法制化します
その15 障がい関係予算に数値目標を定めます
その16 障害者権利条約の全面的に履行します
その17 法制上・財政上の措置で集中実施します

▼お話を伺っていて、障害当事者の自己決定や実質的な参加を大切にしようという考え方が伝わってきました。最後に、新政権と民間団体との関係について、言い換えれば新政権として民間団体に何を期待するのか、当事者団体に何を求めるのか、この点に言及していただけますか。

民間団体のみなさんが日頃から発言し、行動していることが政策に結びつき、あるいは予算化されていかなければなりません。新政権は、今まで以上に民間団体との連携を強めていかなければと思います。

私自身の話になりますが、民主党の中に企業・団体委員会という部署が設けられ、このたび私はその委員長代理になりました。委員長代理は2人ですが、特に私は各種市民団体やNPO、NGOのみなさんの窓口を担わせていただくことになりました。環境や教育、社会福祉など幅広い団体とお付き合いすることになります。政治の流れの中に民間の力をしっかりと位置付けていきたいと考えています。その中でも障がい者団体との連携については、これまでに増して重要視していく所存です。当面は、制度改革推進会議や専門部会に入っていただき、しっかりと発言をしてもらいたいと思います。同時に障がい者団体を支援するボランティアのみなさんや後援組織のみなさんについても、新政権としてあるいは民主党として連携を強めていきたいと思います。

▼今年は非常に大事な1年になりそうですね。谷先生にはますますご活躍いただくことを期待しながらインタビューを終わりたいと思います。ありがとうございました。