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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

こう変わるべき障害者施策
「障がい者制度改革推進本部」と難聴者の期待

高岡正
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長

12月8日、「障がい者制度改革推進本部」の設置が閣議決定された。全難聴は日本障害フォーラム(JDF)に結集して、国連障害者権利条約の成立と政府に交渉を続けて来た立場からも歓迎するとともに喜びたい。

わが国の難聴者施策は欧米に比べて数十年遅れている。まず、難聴者向け障害者福祉サービスを受けられる難聴者が非常に限定されている。聴力レベル、語音弁別検査によって聴覚障害と判定された身体障害者手帳を有する者しか受けられない。実際の生活における困難度(社会モデル)に応じたサービスに変える必要がある。それを評価するアセスメント手法も開発されなければならない。

そもそも難聴者向け福祉サービス自体が乏しい。補聴器給付は両耳70dB以上の難聴者しか受けられず、日常生活用具はさらに重度の2級(ろう)でなければ受けられないのがほとんどだ。難聴者に不可欠な補聴援助機器すらない。年金生活者や所得の少ない人でも負担のないように補聴器や補聴援助機器が給付されるシステムが必要だ。

社会の各分野で要約筆記者とリアルタイム文字表記者が必要とされるが要約筆記事業は、従来の要約筆記奉仕員で養成されたものしか派遣されず、障害者自立支援法施行後3年も経つが、全国の市町村の6割しか実施されていない。それも2親等以上の葬式は対象としないとか、隣接市県は不可とか、利用時間の上限があるとか、制約ばかりだ。要約筆記者養成事業すら都道府県事業としてまだ通知されていない。養成と普及の事業化が必要となっている。

難聴者は補聴器や要約筆記の利用以前に、聴力の低下や失聴した場合に相談するところが非常に少なく、専門的知識を持った人も少ない。一般的に病院や補聴器店に行くが、福祉サービスの連携は制度化されておらず、当事者組織との関係がほとんどない。難聴者相談支援の専門性の確立と従事者の養成が喫緊の課題だ。

難聴者はコミュニケーションと関係性の障害を併せ持つので、聞こえの保障だけでは自立できず、聴覚の仕組み、読話や手話の学習、補聴訓練が難聴者等のエンパワメントに重要な役割を果たす。これの制度化を求めたい。

テレビの字幕放送もローカル番組はほとんどない。欧米では当たり前の電話リレーサービスもなく、演劇や映画の文化・娯楽施設の情報バリアフリーも遅れたままだ。難聴者維新はこれから夜明けを迎えるのだ。

(たかおかただし)