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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

1000字提言

意味づけ介助

綾屋紗月

専門家によるアスペルガー症候群の診断基準は「社会的相互作用やコミュニケーションにおける質的障害」「想像力の欠如・こだわりが強い」などというものです。しかしこの診断基準は外側から一方的に判断した特徴であり、本人の内面で起きていることを表したものではありません。そもそも「社会性」や「コミュニケーション」は相互関係として立ちあがるものであり、すれ違いがあった際にその原因を一方に押しつけることはできないはずです。

私は著書『発達障害当事者研究』で、このような外側からの見え方を内側から語り直しました。私の場合、身体の内側からも外側からも、いろいろな情報が勝手にどんどん入ってきたり、また、思い出されたりしてしまい、頭の中が情報でいっぱいになってしまうという特徴があります。そしてそれこそが、自閉症・アスペルガー症候群の一次的な特徴であろうと考えています。

人と会った時も、一般的には気にせずに流してしまえるような相手の所作や表情、言葉といった情報を、どういう意味なのか判断できないまま過剰にインプットしてしまいます。その結果、その場のノリについていかれなかったり、会話の楽しさを感じることができなかったりする状況に陥ります。

こんなとき私は「なんで私には意味が分からないのだろう」と思うと同時に、「どこが楽しいのか知りたい、一緒に楽しさを味わいたい」とも、ずっと思ってきました。

このような状況に対するサポート方法として、一つには「問い返しOKの場」を作ることが大事だと思っています。これは、他者との間で意味の分からなさが生じた時に、「お前は空気が読めていない」と排除するのではなく、何度も問い返して確認してもかまわないとする、場全体の合意のことです。

サポート方法の二つ目は「意味づけ介助」です。これは場全体ではなく個人的なアシストを指しています。「今の発言はどういう意味?」「あの時の彼の笑い方の意図は何だったと思う?」という私の問いに対して、「意味の擦り合わせ」を手伝ってくれると助かるという意味です。とはいえ意味もまた他者との共有によって立ちあがるものですから、「こういう意味に決まっているでしょ!」という決めつけや押しつけは困ります。「私としてはこう思ったよ」と、あくまでも参考意見として聞かせてもらえることが、私の負担をとても軽減させるのです。

このように独(ひと)りで抱えこまず、信頼できる他者に助けてもらえる環境であれば、意味や楽しさが分からない不安で「人に会いたいけど会えない」とつらい思いをせずに済むこともでてくるわけです。

(あややさつき 物書き・東京大学先端科学技術研究センター研究員支援)