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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

ワールドナウ

DPI北東アジア小ブロック・モンゴル会議の報告

三澤了

4か国で2年に一度の開催

昨年の9月23日、24日の2日間にかけて、モンゴル・ウランバートル市において、DPI北東アジア小ブロックの地域会議が開催された。DPI(障害者インターナショナル)は、1981年の発足当初から世界を、アジア・太平洋、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカの5つのブロックに分け、それぞれの国内組織はいずれかのブロックに所属する仕組みとなっている(2007年9月に韓国で開催された第7回の世界会議で、アラブブロックの立ち上げが承認されたが、現時点では機能していない)。

DPI日本会議はアジア・太平洋ブロックに属し、タイ・バンコク市に所在するアジア・太平洋事務局との連携のもと、アジア・太平洋地域の国々の障害者組織と協力関係を培ってきた。アジア・太平洋ブロックにおいては、より近い国々による地域ブロックを設け、緊密な交流・協力関係を図ることをめざしてきた。

北東アジア小ブロックは、現時点では今回会議に参加した、韓国、中国、モンゴル、日本の4か国によって構成されており、2003年より2年に一度ずつ、各国持ち回りで小ブロック会議を開催することとした。2003年に韓国・済州島、2005年に日本・福岡市、2007年に中国・北京市と回ってきて、一巡目の最後として、今回のモンゴル・ウランバートル市での開催となった。

今回の会議は、モンゴルで開催される初めての障害者関係の国際会議であるということで、モンゴル政府も財政面をはじめとする多くの支援を行い、開会式等には関係省庁の大臣、副大臣の出席も得られた。また、会議には、モンゴル国内の主立った障害者団体もオブザーバーとして参加するなど、当初心配されていた財政的な問題も乗り越え、100人近くが参加する大きな規模での会議の開催となった。

2002年から国連において障害者権利条約策定の作業が行われていたこともあり、2年に一度の小ブロック会議では、権利条約に対する各国の取り組み状況の報告や、DPI組織をはじめとする各国の障害者団体の権利向上に関する取り組みが主要なテーマとして話し合われてきた。

今回の会議では、2006年12月の障害者権利条約の制定から2年半を超える歳月が経過していることもあり、参加国におけるこの権利条約の履行状況や、国内法に対する影響などについての各国の状況を確認し合うことを主な目的として開催された。

「北東アジア障害者の十年」の提起と継続審議

会議は、韓国DPIのキム・デソン事務局長を議長として進められた。権利条約に関するカントリーレポートのほかに、小ブロックの組織体制の整備と、「北東アジア障害者の十年」の提起と、モンゴル宣言の採択の3点を議題にすることを確認して、会議に入った。組織整備に関しては、現在空席となっている小ブロック議長は、暫定的にチェ・ジョンゴル韓国DPI会長とし、2010年のアジア・太平洋総会の承認を経て、2014年までを任期とすることを確認した。なお、組織事務局は、韓国DPI内に置くことが確認された。

また、DPI日本会議が提案した「北東アジア障害者の十年」の提起に関しては、中国から、参加国の規模や「障害者の十年」という事業の実効性に関する異論が出され、期間の問題や中心的なテーマを何にするか、といったことを各国で持ち帰り、次回会議で改めて協議することとなった。

この「北東アジア障害者の十年」の提起は、「第2次アジア・太平洋障害者の十年」が2012年で終了することを受け、東南アジアにおいて「ASEAN障害者の十年」が動き出すこと、さらに、2010年にESCAPの北東アジア地域事務所が韓国インチョン市に設置されるということもあり、北東アジア地域における、障害者の権利の確立ならびに、バリアフリーをはじめとする障害者施策の推進を図るために「北東アジア障害者の十年」の設定を各国政府に求めていくという主旨で、DPI日本会議が提案したものである。

権利条約の批准報告とモンゴル宣言

権利条約に関する取り組みということでは、日本を除く3か国はすでに批准の手続きを済ませており、条約の活用に向けて各種の取り組みが進められようとしていることが報告された。特に、モンゴルのDPI組織を中心とする障害者組織のこの2年間の動きには大きな変化があり、2年前、2007年に北京で開催された前回会議の時には、条約に関する情報の共有化すら満足にいかなかった状況から一変し、この2年間の裡(うち)に、障害者権利条約に関する各種の集会・学習活動や政府との協議等、活発な取り組みを行ってきたことが報告された。

日本からは、形式的な条約批准に終わることなく、条約を真に実効性を持つものにするための、関係省庁との協議の経過や、政権交代による新政府との間で、より明確な障害者の権利保障に向けて共同作業を行う可能性が広がったこと等が報告された。

今回の会議を締めくくるものとして、条約に基づく障害者の権利の確立を確認するモンゴル宣言を採択し、2日間にわたる会議の幕を閉じた。

日本の障害者の生活を映像で紹介

今回の会議には、日本からは、中西正司アジア・太平洋ブロック議長、三澤了DPI日本会議議長の2人と4人の随員(通訳含む)を正式な代表団とし、日本会議加盟組織である名古屋の「AJU自立の家」等からの参加者も加えて、総勢13人の参加となった。

また、ちょうど同じ時期に、自立生活運動の支援のためにウランバートルを訪れていた、大阪、兵庫の3か所の自立生活センターで構成する「アジア支援志ネットワーク」のメンバーも、会議に参加した。このメンバーが持参し会場で放映した、脳性マヒの青年が24時間の介助支援を受けながら、仕事や余暇を楽しんで暮らしている映像は、モンゴルの参加者にとって極めて刺激的なものであったようで、席から身を乗り出して画面を食い入るように見つめているモンゴルの参加者の姿は、非常に印象深いものであった。

モンゴルで自立生活運動を興そうと動き始めたのは、30代、40代の年若い車いす使用の障害者たちであった。その中心的な役割を担っていたのが、2007年度のダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業の研修生バヤールさん(正式な名前は長いので愛称で)である。彼は流暢な日本語を話し、今回の会議の開催準備や運営等で大きな役割を果たしてくれた。車いす使用の障害者が、この国で生きていくのには大きな困難があるのだろうが、こうした若い障害者たちの元気一杯の姿には、将来に対する期待を感じさせるものがあった。

会議がすべて終了した後、モンゴルメンバーの心づくしのウランバートル観光が用意されていた。モンゴルといえば草原の国、なだらかな草原に馬や羊が群れ遊んでいるといったイメージが、絵画やテレビでつくられているが、まちの中心部から車で30分も走ると、まさしくそのイメージどおりに、なだらかな草原が続く光景となった。果てしなく続きそうな草原の彼方(かなた)に、白いゲルが2つ、3つ見え隠れし始め、そこへ参加者一同を招いてくれたようだった。ゲルの中での羊のぶつぎり肉を食べさせる素朴な振る舞いに舌鼓をうち、さらに生のホーミーを聞けたことに感激して、モンゴルを後にした。

今回で、北東アジア小ブロックの定期会議は、一巡した。それぞれの会議開催で、それぞれの国の障害者をとりまく状況に対する理解を深めることができた意義は大きい。さらに今回のモンゴル会議のように、この会議開催がその国の障害者運動の広がりと強化のきっかけとなることができれば、大きな成果をもたらしたと考えてよいであろう。二巡目となる、2年後の韓国会議以降は、行動目標をより明確にし、小ブロックの活動がアジアの障害当事者運動全体に影響を及ぼす影響力を持つものにしていきたいと願うものである。

(みさわりょう DPI日本会議議長)

ウランバートル宣言(日本語仮訳)

私たち中国、日本、韓国そしてモンゴルの障害者の代表は、第4回DPI北東アジア小ブロック会議のため、ウランバートルにおいて一堂に会した。済州宣言において、私たちは、連帯をさらに強化し、障害のある人の権利に関する条約の設置のための行動への決意を確認し、各国政府に積極的な役割を求めた。2005年の福岡宣言において、私たちは、社会変革のためのわれら自身の可能性を確認して、国際協力活動のプロセスにおけるさらなる私たちの力量の強化ならびに連帯と市民社会と共に差別のない差異を尊重する社会作りを決議した。2007年の北京会議においては、権利条約がすべての障害者の権利の実現のための法制度の基礎となる初めの年であることを謳ったソウル宣言が再確認され、それに伴う決議がされた。

私たち北東アジア4か国のDPIの代表は、ウランバートルにおいて、4か国が権利条約の完全な履行のために多くの努力を行っており、障害者の置かれる状況の改善がなされていることを確認した。そして、さらなる共通の努力が必要であることも共有した。私たちは、各国政府に権利条約の実践のための積極的な努力と、地域社会においてすべての障害者が自立的な生活を営むことができるようにするための政府の政策と努力を要求するものである。

CRPD(障害者の権利条約)はすでに3か国で批准されているが、その実施については多くの困難が控えている。この状況を改善していくためには、参加4か国のネットワークの下に、CRPDが各国で完全実施されることが必要である。その目的を達成するために、各国のDPIが政府との話し合いを続けていくことが重要なのは、もちろんであるが、国連ESCAPにもこの推進に向けて政府間会議を障害者団体を入れて行うことを求める。

この会議において、次のことを決議した。

  1. 私たちは、障害者の権利条約を完全に履行すること。
  2. 2012年に終了する第2次アジア・大平洋障害者の十年に続けて、北東アジアの十年、あるいは行動計画を推進する。その期間や内容、方法について、各国代表が持ち帰って、政府と協議を進めること。

私たちは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の北東アジア地域の事務所が韓国のインチョンに設置されることを歓迎し、この地域事務所が、障害者の権利の保護と促進のために大きな力となることを確信する。

私たちは、各国のさまざまな事情を考慮しつつも、障害者の権利を完全に保障するための各国の積極的な努力を継続し、4か国の固い連帯の絆を一層強化することをここに宣言する。

2011年、第5回DPI北東アジア小ブロック会議を韓国において次回の会議を開催する。

Ulaanbaatar, 24 September 2009