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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年2月号

フォーラム2010

JDFセミナー「権利条約の原点とわが国の課題」

大久保常明

昨年の12月1日にJDF(日本障害フォーラム)が主催して、「権利条約の原点とわが国の課題」をテーマとしたセミナーが、全国社会福祉協議会・灘尾ホールで開催された。今回は、ドン・マッケイ氏(元国連障害者権利条約特別委員会議長/現ニュージーランド外務貿易省特別顧問)を招き、参加者は約350人に達した。概要は次のとおりである。

1 基調報告

JDF政策委員長の森祐司氏より、国連における権利条約の採択に至る経過と日本国内の動きが説明され、特に、JDFのこれまでのさまざまな取り組みが報告された。

また、権利条約の批准に向け、障害者基本法の改正がわが国の方向性を見極める上で重要な意味を持つとし、JDFとしての障害者基本法改正の基本方針(視点)を、

  • 障害者基本法の改正のみを障害者権利条約の批准の条件にしない。
  • 障害者基本法の改正とは別に、障害者差別禁止法(仮称)を創設する。
  • 障害者差別禁止法(仮称)の創設時期は、障害者基本法の改正後3年以内とし、改正される同法の条文に明文化する。

などとした。

さらに、同法の主な改正事項として、

  • 障害者を「権利の主体」とする。
  • 障害の定義は障害者権利条約の観点を含める。
  • 直接差別、間接差別、合理的配慮、差別の積極的是正措置等に言及し、差別の定義を明確にする。
  • 監視機関(モニタリング機関)は、中央障害者施策推進協議会と分離して設置することを規定する。
  • 救済機関とモニタリング機関は分離し、救済機関は障害者差別禁止法の中で規定する。

などを挙げた。

今後のJDFの取り組みについては、政府や各政党と継続して意見交換を行う一方、広く国民への普及・啓発活動を積極的に推進したいとした。

2 基調講演

引き続き、ドン・マッケイ氏の基調講演となり、氏によれば、権利条約の交渉について、当初は世界の多くの政府は消極的であった。しかし、世界的な統計を見れば、途上国に住む障害児の90%は学校に通っていない。障害者は性的暴力を含む暴力の犠牲者になりやすく、警察の介入、法的保護、予防措置を受けづらい。障害児に対する暴力は、障害のない子の1.7倍であるなど、特別な行動が必要であることは明らかであった。

障害者は「世界最大のマイノリティ」と言われ、世界の人口の10%前後と推計され、障害者の80%は途上国に住むと言われている。そこで、NGO・障害者団体の粘り強い努力により、障害者の新しい条約への動きが生まれたとの説明があった。

また、権利条約の本質は、国際法の下に障害者の権利を詳細な点まで打ち出し、各国政府に実施上の規範を示している。世界の障害者団体やその代表者が参画したことにより、その経験を踏まえた現実の課題に焦点を当てたものとなっている。権利条約は、障害を社会福祉の問題から人権の問題に移し、社会の障壁と偏見が「障害」を生み出すという「パラダイムの転換」をもたらしている。「社会へのインクルージョン」が中心となる要素であり、人々の態度を変え、ステレオタイプの視点を取り除き、また、情報へのアクセスも含むアクセシビリティが重要なテーマとなっていると述べた。

最後に、マッケイ氏は、権利条約の効果的な実施については、国連やその関係機関もいち早く取り組みを行っているなか、今後とも障害者団体が効果的で一致した行動を続けていく必要性を強調していた。

3 パネルディスカッション

パネリストは、池田直樹氏(日本弁護士連合会)、東俊裕氏(JDF権利条約小委員会委員長)、嵐谷安雄氏(大阪障害フォーラム(ODF)世話人代表)、平野みどり氏(熊本・障害者差別禁止条例をつくる会)、山田昭義氏(愛知障害フォーラム(ADF)幹事)の5人で、前半は「障害者権利条約│我が国の課題」、後半は「地域における取り組み」というテーマが設けられた。なお、コーディネーターは藤井克徳氏(JDF幹事会議長)と筆者が務めた。

まず、池田氏から個別救済の視点から裁判規範性の必要から差別禁止法制定への期待と障害者自らが権利条約を背景に社会へ働きかけ、説得していくことの重要性について発言があった。

東氏は、権利条約はスローガンではなく法的な権利であり、インクルーシブな社会(共生社会)へ向けたものである。また、現在の「分離教育」や「一般就労と福祉的就労」、「期限の定めのない入所施設や病院への入院」などの課題にも言及した。

嵐谷氏は、国民への周知のためのタウンミーティングや差別禁止法の制定に向けて地方から声を上げていくことの大切さについて発言し、平野氏は、障害のある女性や障害児を持つ親、特別支援教育の実態などについての問題点を指摘していた。

山田氏は、とりわけ精神障害者や知的障害者が利用する施設の設置について反対運動があり、権利はスローガンではなく現実の問題であることを強調した。

次に、権利条約の批准に向かっての条件や見通しについて、池田氏は、横断的な差別禁止法を前提条件として考えているとし、東氏からは、数年かかってもしっかりと国内法制に反映できるようにするべきであるとの発言があり、また、国内のモニタリング機関や人権救済機関が重要とした。一方、実効性ある批准について、各パネリストから「障害」や「差別」、「差別を受けた場合の救済」などをキーワードとした発言があった。

続いて、地域における取り組みについては、東氏は、「障害」が医学モデルから社会モデルへの動きの中で、社会の在り方について障害者団体が共通認識を持つようになった。現在、「差別」について連携し、地域を変えていく動きがみられ、障害者自らが参画する地域づくりであると強調した。それを受け、実際に障害者団体の連携した取り組みがスタートした、熊本、愛知、大阪からのパネリストの三氏から報告が行われた。

また、指定発言として、権利条約に関する地域フォーラムを開催した北海道、岡山、宮城、京都、富山の地元実行委員会からも報告等があり、フロアーからの意見等も交えパネルディスカッションを終了した。

なお、ドン・マッケイ氏は、パネルディスカッションを聞いた感想の中で、このようなディスカッションに今後、一般の人々が参加することが期待される。一般の人々への説得は一夜にしては無理で、社会に広げ、深めていく必要があると述べていた。

(おおくぼつねあき 全日本手をつなぐ育成会常務理事)