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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年2月号

フォーラム2010

「ESCAPアジア太平洋・2009バリアフリー高山会議」の報告

高山市企画管理部企画課

平成21年11月24日(火)~26日(木)の3日間にわたり、飛騨・世界生活文化センター(高山市)において、「ESCAPアジア太平洋・2009バリアフリー高山会議」を開催した。この会議は、UNESCAPと高山市との共催であった。UNESCAPとは、United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific(国際連合アジア太平洋経済社会委員会)の略称で、国連経済社会理事会の地域委員会の一つとして、アジア太平洋地域の経済・社会開発について広範囲にわたって活動を行っている。

この会議は、自治体主導によるバリアフリーへの取り組みの必要性や重要性、誰にとっても利用しやすく訪れやすい地域づくりなどについて、アジア太平洋という視点から考え、課題を明確化していくことを目的として開催した。今回、ESCAPと高山市が共催で、バリアフリーについての国際会議を行うこととなったきっかけは、3年前にさかのぼる。

平成19年9月18日~20日にタイのバンコクにおいて「アジア太平洋障害者の十年・中間年ハイレベル政府間会合」が開催され、そこに飛騨高山東京事務所長の山本誠氏が講師として招かれ、「高山市のまちづくり」について講演を行った。その際、会議運営に携わっていた国際連合職員の方から、バリアフリーのまちづくりやアクセシブル観光を実践している高山市において、国際的なバリアフリーに関する啓発会議ができないかと提案されたのが始まりである。高山市としては、当市の事例が少しでも役立つのならばと考え、その提案をお受けし、今回、会議が開催される運びとなった。

高山市では、平成8年より外部からの目線を大事にしてバリアフリーのまちづくりに取り組んできている。それは取り組みに対する価値評価は取り組みを行っている行政が判断するものではなく、市民や観光客の方々をはじめとするさまざまな視点から客観的に判断していただくことが重要であると考えているからである。そして、モニターツアー等を通じてご指摘いただいた事項についてはすぐに対応することも心掛けている。その積み重ねを続けた結果が現在の高山市の姿であり、今回その取り組みを高く評価をしていただき、その上、高山市で国際会議を開催できたことに関して、非常にありがたく感じている。

3日間の会議では、前半に高山市の取り組みについて、行政、民間事業者、モニターツアー参加者からそれぞれの報告や感想等が発表され、課題などについて検証が行われた。後半ではアジア太平洋の各国、各地域におけるバリアフリーの現状と課題について、海外参加者から報告があり、高山市の事例と照らし合わせて検証が行われた。

第1日目は、まずUNESCAP社会開発部社会問題担当官の秋山愛子氏から、今回の会議の目的や内容についてお話しいただいた。続いて、内閣府共生社会政策担当政策統括官付参事官補佐の佐藤章彦氏から、日本における最近の主なバリアフリー施策等について、摂南大学工学部建築学科教授の田中直人氏からバリアフリー・ユニバーサルデザインの多面性・柔軟性と地域発展の関係性についてご説明いただいた。その後、高山市のバリアフリーのまちづくりについて、土野守高山市長より事例発表があったほか、モニターツアーで高山市を訪れたことのある参加者の体験談、バリアフリーやユニバーサルデザインを授業で取り上げ学習している高山市立東小学校児童の作文発表、市内で積極的にさまざまなバリアフリー化に取り組んでいる事業者の方々の発表があった。

第2日目は、まず午前中に、参加者に2コースに分かれていただき市内視察を行った。町中視察を中心にしたコースでは、車いすの方でも見学ができる、全国で唯一残っている郡代役所「高山陣屋」や町中で「どなたでも気軽に立ち寄っていただける“まちの縁側”」をコンセプトとし、人々の出会いと交流の場を市民と商店街の方々によってつくっている「まちひとぷら座かんかこかん」、古い町並の中で、障がい者福祉施設の広報や情報交換、障がい者の交流の場として活動しているアンテナショップ「ふくふく」などを見ていただいた。

午後からは、「アジア太平洋のバリアフリー検証(法制、実践の課題)と高山モデル」と題して、香港、タイ、ニュージーランド、キルギス、インドなどアジア・太平洋各国・各地域の実情と課題をお話しいただくシンポジウムを行った。

最終日は、前半に「バリアフリーの多面性」と題して、建築物・交通機関の課題、生活と情報の課題、災害時・緊急時の対策、心のバリアフリーなどさまざまな視点から実情を認識し、その対策を考えるシンポジウムが行われた。日本国内のパネリストのほか、パキスタン、インド、ミャンマー、フィリピンからのパネリストの方々から説明と課題が投げかけられた。後半は、今回の会議についての評価と今後の活動について話し合い、最後に土野高山市長により「高山宣言」※※が採択された。

海外のパネリストからは、バリアフリーを進めていくにあたっての法制度や環境整備の遅れなどハード面での問題や、障がい者に対する周囲の理解度の低さなどソフト面での課題などについて報告があった。今回の会議において、実際に高山市のバリアフリー施策に関する説明を聴き、市内の様子を観た海外参加者からは、道路の段差解消や光と音による誘導システム、公衆トイレの多目的型化などさまざまな高山市の取り組みに高い関心が寄せられた。

最終日の「高山宣言」では、まず高山市が今後もバリアフリー思想を基に、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたまちづくりを推進していくこと、ユニバーサル社会の形成を目指す存在であること、そして時代の急激な変化に対応していくために、行政だけではなく、当事者、市民、専門家、企業、行政が一体化した活動が求められている必要性を確認した。その上で、アジア太平洋における、アクセシブルでユニバーサルデザインに基づいたすべての人々のための社会創造という目標を達成するために、それぞれの役割・行動を提起し、「高山宣言」の採択に至った。

この会議には、3日間で11か国、延べ約900人の参加があり、国内はもとより、アジアの国々や地域の方々との交流も深めることができ、意義のある内容となった。この場を借りて、会議に参加、関係された多くの方々に感謝申し上げる。


 アクセシブル観光:すべての観光客の方々が身体的制約、障がいの有無、年齢などに関わらず、観光地の施設やサービスを利用できるようにする継続的な取り組みのこと。

※※「高山宣言」(日本語版)は次のHPよりご覧ください。http://www.escaptakayama.com/info.html